ラジオトーク・トリック

狙撃手スナイパーはあと三人か」


 ブルーが呟いた。

 直撃し落下したが体勢を整えて着地している。


 敵は距離を詰めて狙撃してくるだろう。撤退したら敵の思うつぼ。

 敵部隊の展開が完了すれば、最大の護りが大きな急所となる。


 左腕をかすっただけだが、もっていかれた。アンチフォートレスライフルはまともに使えない。

 この狙撃手は相当の手練れだと判断した。視認をしようとしてもすでに視界から消えようとしていた。

 反撃で撃ってみたものの、やはり逃げられた。


「僕が囮になりましょうか?」


 狐のファミリアであるゴンが提案する。着地地点を予測し、軽量の哨戒車両で待機していたのだ。


「ダメよ、ゴン」

「はい」


 ゴンを制止する。鳥型と違って脱出には危険が伴う。

 彼も大人しく従った。


 機体状況を確認する。左腕が使えなくなった。だが他の部位は問題がない。戦闘続行を決意する。


「使える兵装はカービンとパイルだけ。アンチフォートレスライフルも一発だけなら使えるけど、右腕が射撃に使えなくなる可能性もある」


 片腕ではアンチフォートレスライフルの反動は殺しきれない。

 一撃で仕留めるにしても弾道もぶれるだろう。難しい選択だった。


「あ、音楽が切れる。そろそろね。あれに勝つには悪巧みの一つや二つは必要がある」


 音楽が途切れるにあわせ、ブルーはラジオを再開する。


「私は生きてますよー。残念でした。あなたたちは残り何機かしらね?」


 挑発するようにトークするブルー。

 最近人格が変貌するとはよくいわれるのだ。


「部隊展開する時間稼ぎ、その数ではもう無理ですよね。大人しく投降しなさい! では次のナンバーいきます。次の曲は……」


 ブルーは装甲車両と森のなかを進む。


「フェアリーブルー。聞こえるな? 返事はしなくていい。こちらアルゴフォース狙撃部隊隊長、イレネオだ」


 カナリーは歩みを止めた。

 かかった、と思った。ラジオを用いた駆け引きは彼女の勝利だ。


「お互い糞でけえ棺桶に乗ったまま殺し合い、撃ち合いだ。一騎打ちといこうじゃねえか。時間がないのはお互い様だろ?」


 ブルーは微笑した。こんなあからさまな挑発は珍しい。


「俺はネレイスの女が大好物なんだ。長くて太いものぶちこんでやるから大人しくしてな」


 ブルーは思わず鼻で笑う。安い挑発だ。

 本気なら気持ち悪いが、ただ処すだけ。


「放送中、失礼します。今リスナーのアルゴフォースさんよりご意見を頂戴いたしました。私と一騎打ちをご所望とのこと。受けてたちましょう! ただし、私相手に下ネタは厳禁です。マネージャーを通してくださいね」


 余裕の笑みを浮かべ、挑発を受け流す。


 そしてブルーは特定の地点でおもむろにアンチフォートレスライフルを放つ。

 爆轟能力を最大。もう一度発射。反動がなくなったあと、もう一発。地面に巨大な深い孔を穿つ。計三発発射した。


 相手は簡単に彼女のいる場所を特定できるだろう。


「私はこの付近にいます。左腕がないハンデです。アルゴフォースから動きなさい。撃ち込まれるのはどちらのほうかしらね?」


 ラジオ経由でイレネオに話しかける。

 自分も敵も時間がない。一気に決着を付けたいところだ。


 ブルーは次の手を打つ事にした。最後の引き金を撃つには少しだけ仕掛が必要だった。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「哨戒ヘリか。そんなもん揃えてるのはメタルアイリスしかいねえよ」


 頭上を飛ぶ哨戒ヘリは囮だろう。撃ち落とした瞬間


 一年前まではシルエット同士が殴り合うのが戦場だった。

 急激な戦場の変化について行けない者は多い。


「部隊展開する時間稼ぎ、その数では無理ね。大人しく投降しなさい! ……」


 ラジオから彼ら宛のメッセージ。


 落下地点からは五十キロも離れていない。


 相手の戦力は未知数だが、被害状況からいって大軍は出してこないだろう。

 一方的に破壊し尽くしたからだ。


 だが今や彼らのほうが追い込まれる立場だ。

 失った機数はばれていないだろうが、それでも警戒しているはず。


「フェアリーブルー。聞こえるな? 返事はしなくていい。こちらアルゴフォース狙撃部隊隊長、イレネオだ」


 イレネオは勝負にでた。我慢比べしてもいいが、哀れな猟鳥になる気はない。

 時間が経過が致命的だ。

 数を減らした狙撃部隊では時間差で狩られる確率が高くなっている。


「お互い糞でけえ棺桶に乗ったまま殺し合い、撃ち合いだ。一騎打ちといこうじゃねえか。時間がないのはお互い様だろ? 俺はネレイスの女が大好物なんだ。長くてでっけえものぶちこんでやるから大人しくしてな」


 後半は本気だった。もし生きていたらMCSを引っこ抜いて連れ帰るつもりだ。ネレイスの人権はあるといっても、所詮作り物。ストーンズ内では大した罪にならない。


「放送中、失礼します。今リスナーのアルゴフォースさんよりご意見を頂戴いたしました。私と一騎打ちをご所望とのこと。受けてたちましょう! ただし、私相手に下ネタは厳禁です。マネージャーを通してくださいね」


 フェアリーブルーがラジオ経由で回答があった。

 強気な女だ、とイレネオは思う。少しは恥じらってくれたほうがやりがいがあるというものだ。

 

 爆音が聞こえる。最後に遅れて一回。計四回だ。


「何がマネージャーだよ。アイドル気取りか。ま、アイドルを好き放題するってのは夢があるな」


 イレネオが嬉しそうに舌なめずりする。

 遠くで火柱が上がる。フェアリーブルーが落下した地点より、イレネオの場所に近い。


「私はこの付近にいます。私のシルエットに左腕がないハンデです。アルゴフォースから動きなさい。撃ち込まれるのはどちらのほうかしらね?」


 ブルーのラジオはそこで途切れた。再び音楽のみとなる。


「何がこの付近にいます、だ。ラジオ経由でしっかり位置情報は隠蔽してやがるくせによ」


 イレネオは舌を巻く。


「左腕が使えない、といったわりには射撃しているな。こちらを撃ち込むと宣言までしやがった。ラジオトークでだまし討ちか。いい女ほど嘘が上手いってな」


 ヘリカルレールガンの弾頭はわずかにブルーのシルエットにかすったであろうことはわかっているが、 自分に不利益な情報をわざわざ教えるヤツはいない。

 本当に食えない女だ。手を出すと火傷するタイプだなと確信した。

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