突貫しますよ! 非武装ですけどネ!

「アストライア。降下開始しましたが軌道変更を要求します。座標はここです」

「アベルさん?」


 またアベルが急な提案をアストライアに行う。

 困惑するコウだった。きっとアベルの思考速度は異常なのだろう。常に何かを考え、何かを見ているのだ。


『軌道変更を承認いたします。軌道コース修正完了。しかしあなたが危険ですよ』

「構いません」

「アベルさん、何を」

「あなたを直接にゃん汰さんのところへ連れて行くんですよ」

「!」


 コウが息を飲んだ。


「いきましょう、コウさん。十分もかかりませんよ」

「ありがとうございます!」


 微笑むアベル。彼はコウの希望に添った行動を取っただけだ。

 深く感謝するコウ。


 急降下するハルモニア。エアロシェルを展開し、一気に降下する。

 敵部隊は対空攻撃をする間もない。高高度ではマッハ6はでているだろう。


 アストライアとハルモニアより通信を受けたフユキは急ぎ命令を出す。


「ビッグボスが単機でこちらに向かっています。エッジスイフト隊、出れますか?」

「単機でかよ? いかれてるな! でるさ!」


 陽気なアマツバメのファミリアが即応する。よもやビッグボス自ら単機で救援とは思いもよらぬ事態。そして前線で戦う者にとってはやはり頼もしいのだ。

 P336要塞エリアではハルモニアを護衛するべくエッジスイフトが飛び立つ。


 ハルモニアは高度を急速に下げていく。


「そろそろ高度五千メートルです。ぎりぎりで投下します!」

「はい!」


 会話している間にも高度は三千メートルを切る。

 

 落下しているのではないかと思わせる速度で低下するハルモニア。

 

 敵の、コールシゥン編隊が対空ミサイルを発射する。ハルモニアを捉えるが電磁バリアで全て叩き落としていた。

 一切減速せず、飛び続けるハルモニア。


「減速しないんですか!」

「気圧――高度が下がれば勝手に速度は落ちますよ!」

「敵が!」


 コールシゥン編隊は五番機からでも確認できた。

 時速=超音速ではない。超音速に達する速度は気圧や気温によって異なる。地表に近いほど超音速に達するスピードは必要とされるのだ。


「突貫しますよ! 非武装ですけどネ!」

「無茶だよ!」


 見かけによらず大胆なアベル。驚愕するコウ。非武装の航空機に乗ったのはアシアにきて初めてかもしれない。

 対空砲の射程にはいってもハルモニアはソニックムーヴを巻き起こしながら突き進む。

 レールガンの射撃もこの速度で被弾すれば相対速度で威力も増しているが、一切気にしない。


 だがアベルは不適な笑みを浮かべ、まっすぐに戦場に向かっていた。

ソニックブームの轟音は吶喊となり突き進む。


「高度千メートル切りました。減速開始。上段エンジン停止、投下準備開始。マルチベイ展開し、ラニウスC型を射出します」

 

 ようやく減速を開始する。縦列ジェットエンジンの上段が停止し、エアブレーキを展開。空力ブレーキをかけ急減速する。


「敵機が!」

「大丈夫です。私が引きつけます」


 ハルモニアの下部マルチベイが左右に分かれ展開される。

 五番機がゆっくりとせり出した。


「投下開始。ご武運を!」

「ありがとうございます! アベルさん!」


 ハルモニアから五番機が投下された。ハルモニアはマルチベイを閉じ再度機首をあげ、上空に向かった。コールシゥン編隊が慌てて補足し、進路を見極めようとする。


 遙か眼下では戦闘が継続されている。

 にゃん汰も戦場に戻っていた。AK2で戦っている。


 被弾し動けなくなった猛虎をエポスたちが牽引し、陣形の穴を埋めるべく数機のエポナと傭兵のシルエットがすぐにカバーに入っていく。

 気が狂いそうな消耗戦を数時間以上継続しているのだ。


 五番機は滑空するように降下し、武器を構える。アンチフォートレスライフルだ。

 敵の遙か上空から狙いをつけ、牽制する。


 着弾し爆発が巻き起こる。

 アラクネ型も気付いたようだ。後続部隊がラムジェット砲弾やレールガンで迎撃を試みるが、五番機のプラズマバリアと電磁装甲の前には有効打となることはなかった。


「にゃん汰!」

「コウ! 速すぎないかにゃー!」


 頭上を見上げるエポナ。にゃん汰は思わず満面の笑顔を浮かべる。


「ビッグボス?! 軌道エレベーターにいるんじゃなかったのか!」

「にゃん汰を助けにわざわざ? いいなぁ。にゃん汰ー!」


 セリアンスロープたちも驚くばかりだ。本来ならば数時間で到着できる距離ではない。


 上空では戦闘機に狙われたハルモニアがソニックブームを発しながら敵戦闘機部隊を翻弄するかのように飛び回っている。

 再びマッハ5以上に加速したハルモニアに対して戦闘速度であるマッハ2以下で飛行しているトゥールシゥンでは追いつけるはずもない。

 ソニックブームもまた厄介だった。


 コウを狙わせないためにアベルは空を駆け巡っているのだ。巨大な機体に気を取られ、敵編隊の注意を引きつけることに成功する。

 大きく旋回し、あっという間に離れていく。この速度では旋回するだけで数百キロ移動する。捉えきれるはずがなかった。


 高度300メートルを切ったところで五番機は狙い撃つ。

 厄介なことに乗っているシルエットを倒したところで、蜘蛛型のアベレーション・アームズは健在だ。


「どっちを狙えば……」

『そのままシルエットを。アベレーション・アームズは高度な判断はできません』

「わかった! アストライア!」


 射撃を繰り返しながら舞い降りた五番機。

 エッジスイフト隊も到着し、援護を開始する。ハルモニアはP336要塞エリアに向かう。


「コウ!」

「待たせたな! みんな!」


 思いも寄らぬ援軍に沸き立つセリアンスロープたち。士気も一気に上がる。


「ありがとう、ユートンさん」


 コウは戦車隊で防衛線を支えてくれていたユートンに礼を述べた。

 姉御肌の体の大きい虎型セリアンスロープが笑った。


「ユートンでいいよ! ビッグボス! セリアンスロープとファミリアしかいないような戦場によくもまあ、はるばるやってきたねえ」

「ん? 当然だろ」

「はは! そうかい! じゃあ援護頼んまさ! ビッグボス! あたいらが盾になるからさ!」

「わかった」


 コウと通信を切ったユートンは王城工業集団公司の回線で皆に呼びかける。


「はは、聞いたかい。あたいらを助けるのは当然だってよ」

「こりゃ大物だな、ビッグボス」

「ウンランが惚れ込むのもわかるねえ。――恥をかかすわけにはいかないね! みんな行くよ!」

「了解! 大姐!」


 王城工業集団公司の個々の兵器自体は卓越したものをもつわけではない。

 だが、様々な諸兵科運用を前提に作られている。連携の強さこそ、王城工業集団公司に属する兵器の強さである。


 コウを守る様に猛虎が進軍し、エポナ、そしてエポスが続く。エポスたちは近接兵装、対戦車用戦斧に持ち替えていた。

 放たれる砲弾は勢いを増したような錯覚さえ覚える。


「コウ、敵は電磁ネットで無力化を狙ってくるにゃ」

「わかった!」


 突進するコウをにゃん汰のエポナが援護射撃する。

 鈍い音を立てて砲弾に耐えるアラクネ型だが、五番機が近付き一閃し両断する。


 この一太刀で流れが変わった。


 エポスたちが電磁ネットを警戒しながら、ブラックウィドウの脚を斧で叩き落とし、戦車は近距離で肉薄し、壁となるように動いている。

 五番機は戦車と戦車の間をすり抜けるように移動し、不意をついて次々と上にいるブラックナイトに斬りかかる。

 新素材を採用し、装甲が厚いブラックナイトも五番機が振るう孤月の前では無意味に等しい。


 ブラックウィドウをエポスたちに破壊されたブラックナイトたちは次々と飛び立つ。数は以前アベレーション・アームズたちのほうが優位。アラクネ型が100機いるとするなら、分離すれば倍の戦力だからだ。

 戦車部隊に随伴する四脚型シルエットに加え、援護射撃する後続部隊たちの猛攻に、徐々に戦闘ラインは下がっていくのだった。

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