私がでるわ。狙撃機には狙撃機。当然でしょ?

 コウが飛来し、参戦を確認するのはフユキとヴォイ。巨大モニタには地上部隊からのコウの様子が映し出されている。

 満足げに頷くフユキ。


「よくぞきてくれました。それでいいですよ。僕が指揮を執る必要もない。ブルーお願いします」

「わかったわ」


 ブルーが放送室の共通回線で該当部隊に話しかける。


『P336要塞防衛部隊へ。軌道エレベーターよりビッグボスが単機で飛来。トルーパー1と合流。防衛戦闘に参戦し、現在アベレーション・アームズと交戦中です』


 必要な情報はこれで十分なのだ。

 沸き立つ各部隊のファミリアたち。軌道エレベーターから単機で飛来と簡単にいうが、どれだけ困難で本来なら時間がかかるものか彼らにはよくわかっている。。

 しかし、彼は来た。そして最前線で戦闘している。この事実が重要なのだ。


「共に最前線で戦う指揮官、いや司令官の存在。これがどれほど心強いかコウ君は認識していないでしょうね。自分の価値も。日本人は自己評価が低いですからね」


 人のことは言えないフユキが苦笑する。


「さすがコウ君です。にゃん汰さんのトルーパー1や猛虎部隊だけではなく、全軍の士気も一気に上がりましたね」

「コウは司令官って柄じゃねーよな! あいつは自分でも言うとおり、鉄砲玉のほうが似合ってると思うが」


 ヴォイが苦笑いする。


「立場が人を変えるんですよ。私もそうでしたからね。司令官もさりげなく押しつけておきます」


 フユキはメタルアイリスの工兵だ。古参の傭兵の一人ではあったが、どちらかといえば裏方専門だったのだ。

 コウと同郷ということで共に行動し、彼とともにシルエットベース産の兵器普及や、要塞エリアの増強計画を共に練っているうちに、気付いたら幹部扱いだったのだ。

 

 画面を切り替える。映し出されたのは北部深林地帯だった。


「当面の問題は北部の敵狙撃部隊だけになりました。カウンタースナイパー――少数の狙撃者によって敵の進軍を遅らせる狙撃部隊の運用。厄介です」

「手は打っているんだろ?」

「戦闘が苦手な工兵にできることは限られていますよ」

 

 フユキは射撃や斬り合いなどは得意ではないのだ。


「私の仕掛けたトラップで損害は与えたようですがね」

「えげつない。可哀想に。さぞ無残な死に方をしたんだろうな」


 今度は楽しそうに笑うヴォイ。フユキの手腕はよく知っている。


「そうでもないですよ。せいぜいシルエット三機破壊しただけです。脱出は失敗したようですけどね」

「死んでるじゃねーか!」


 MCSは非常に優秀な脱出カプセルでもある。生存率は高い。

 トラップで死亡するとは、壮絶な死に方だったのだろう。


「残りは五機。ですが部隊を展開すれば的です。深林地帯ゆえ、平面の展開に適さないので、少数で制圧されます。いたずらに被害を大きくするだけです」

「敵の数まで把握してるのかよ。どうすんだ?」

「幸いコウ君が着てくれました。我々もいきますか」

「そうこなくっちゃな!」


 ヴォイとフユキは出撃準備が出撃準備に入った。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



 別の場所では放送室から出たブルーが険しい表情をしていた。

 P336要塞エリアの北側の守備隊が壊滅したのだ。

 牽引車両やワーカーシルエットに運搬される破壊されたシルエットの数々。


 格納庫に次々運び込まれる破壊された兵器たち。


「MCSを一撃で破壊されている車両も多く、部隊が展開できません」


 傍にいた犬のファミリアが落ち込んでいる。

 巨大な弾痕は通常の兵器ではありえない。


「何かしら、この武器は…… パイルパンカーよりもさらに太い弾芯? そんな射撃武器を運用できるのかしら」


 ブルーは呟く。彼女のスナイプでもこれほどの威力は出せない。


「解析完了したわ。これはヘリカルレールガンね。シルエットサイズでの通常狙撃兵器の最大火力の一つよ」

「アシア!」


 隣に成長したアシアがいた。


「レールガンで発射しコイルガンの仕組みで加速させたマルチターンレールガン。こんなの本来はマスドライバー起点ユニット用なのに。兵器転用したのね」


 マスドライバーとは貨物を宇宙へ射出するためのカタパルトの一種だ。

 貨物を受け取る場所が必要なため移動式の意味はないが、弾頭だけなら宇宙に打ち上げられるほどの性能を持つ。対空性能も極めて高いだろう。


「カウンタースナイパーは厄介ね。数機で制圧されている。このままだと一番の護りの要が弱点になってしまう」


 北部森林地帯はシルエットベースとP336要塞エリアをつなぐ要所でもある。

 ここを抑えられると補給線を分断された挙げ句、二つの拠点の急所になり得る。


「私ができるのはここまで。ごめんね、ブルー」

「十分です。ありがとうアシア」


 ブルーの感謝に言葉に、アシアは微笑みながら消えた。


 格納庫に出向くブルー。

 そこに佇むTSS-S1カナリー。現在サンダーストームが破壊され、カナリー単体での出撃ができるように整備中だ。狐型のファミリアがチェックしている。


 ラニウスC狙撃型とも言うべき遠距離狙撃型のシルエットであり、サンダーストームをコントロールボックスを担う機体。

 装甲筋肉を使うことでレールガンなどの電力消費が激しい兵装が使えないという狙撃機にあるまじき欠点を抱えているが、シルエットベース固有ならではの最新鋭実弾兵装で補う。


 主武装はアンチフォートレスライフル。副兵装はカービンとパイルバンカーだ。

 威力としてはこちらが上。弾速はヘルカルレールガンのほうが上だろうと推測する。


「カナリーはどう? ゴン」

「万全ですよ」


 その答えに頷いてカナリーに乗り込もうとするブルーに、狐型のファミリアが慌てた。


「どこへ行かれるんですか!」

 

 ブルーは表情を変えずに伝える。


「私がでるわ。狙撃機には狙撃機。当然でしょ?」

 

 スナイパーに対抗するには、スナイパーしかいない。

 それはどの戦場でも変わることはない普遍の真理。


「そんな! 勝手に仕事入れちゃマネージャーに叱られますよー。僕代理なんですから!」


 ゴンが慌てる。彼女は大事な広報担当でもあるのだ。


「マネージャって誰よ……」

「ジェニー隊長です。僕は代理を任命されちゃったんです」

「もう、あの人ったら」


 嘆息した。敵スナイパーより水着やらラジオの仕事を押しつけてくる味方のほうを厄介だと思う日が来るとは思わなかった。


「ヴォイさんとフユキさんも出撃したようですよ」

「だったらなさらね。私がさらにカウンターの狙撃戦を仕掛ける。敵は残り五機とのこと。ドリルと工兵だけじゃ荷が重いわ」


 ヴォイはドリル専門ではないのだが、そんなイメージが付いてしまっていた。 


「わかりました。ラジオ放送するために広報輸送機とパイロットを依頼します。僕は地上からサポートです」

「……なんでラジオ放送を?」

「広報戦を仕掛けましょう。味方の士気向上と相手の戦意をくじくためです」

「どこの世界にラジオしながら狙撃戦を……」

「是非初挑戦してください!」


 期待するまなざしのゴン。

 ブルーは片手で顔を覆い、しかめ面で考え込む。


「わかったわ。やりましょう」


 半ばやけくそで頷いた割には、結構乗り気なブルーだった。

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