宇宙爆雷パンジャンドラム
「完成しました。いきますよ、コウさん!」
完成したハルモニア。わずか二時間と少しだ。五番機はすでに格納されている。
ハルモニアは飛行機というよりロケットに翼が付いているような形状だ。
巨大なバームクーヘンのようなレドームが二つ装備されていることが気になる。
「あのバームクーヘンみたいなものは?」
「敵の戦力を知るための兵装です!」
「レーダーの一種か。わかった」
アベルはMCSのレバーを握り、コウとアストライアの艦内に告げる。
「高度100キロ。宇宙空間まで上昇し一気に降下します。弾道軌道から直接P336を目指しますからね。ではいきます!
ハルモニアはアストライアから射出された。
要塞エリアのドームはすでに開かれている。
コウも緊張している。五番機ごとハルモニアに収納されている。
Gはさほどない。MCSの衝撃緩和機能のおかげだ。
白い雲を吐きながらまっすぐに打ち上がるハルモニア。
「P336要塞エリアまで30分で到着します」
「さすがだ……」
十五分経過したところ、コウはアベルに声をかけられた。
「ほんの少し寄り道をしたいのですが、よろしいでしょうか」
「何をするんです?」
「今からあの宇宙戦艦に攻撃を仕掛けます。アストライアの許可はもらっていますよ」
「どうやって!」
「ご覧ください」
レドーム状のものが切り離され、ハルモニアから部品が投下された部品と合体する。それは巨大な糸車状のものとなった。
「パンジャンドラム……!」
「そうです。
「パンジャンドラムじゃなくてよいのでは?」
以前自分も構築したことがあるとはいえ、思わず尋ねてしまう。
「パンジャンドラムは爆雷です。
「なるほど!」
その会話を聞いていたアキが額を押さえていた。
「どうしてあの二人を一緒にしたのかね、アキ」
「だってアストライアが……」
優しい視線をしたリックが問いかける。思わず耳を塞いでいやいやするアキ。
ハルモニアの内部では次々に作戦行動が実施される
「ミサイルコンテナも投下。小型の弾道ミサイルと弾道パンジャンドラムの二段構えの攻撃です」
「二段構え……! 隙が無い。しかし、車輪は要らないのでは?」
当然のことながら、コウだってあの形状には疑問を覚える。
「あの車輪に見える部位にロケットの噴射孔が無数についているのです。スピニング・パンジャンドラムの応用ですね。着地点に収束するようにランダムにロケットを噴射させ回避行動を取らせつつ敵に着弾するんです」
「凄い、これが英国流のパンジャンドラム……!」
コウが思わず息を飲む。
ミサイルコンテナが展開され、無数のミサイルが発射される。
続いて弾道パンジャンドラムが点火し、降下を始めた。
「メガレウスがどう対応するか見物です!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「上空から飛来物多数確認! 弾道ミサイルのようです。迎撃します」
メガレウスの戦闘指揮所に報告が入る。
「無駄なことを。同時攻撃によってこちらの防衛能力を測っているのか?」
ヴァーシャが怪訝な顔をする。
宇宙戦艦を撃ち落とし弾道ミサイルを使用するなら波状攻撃を試みるはずだ。
敵部隊に大規模展開できる戦力はない。
「?! 巨大飛翔体確認!対空レーザーで撃ち落とせません! 」
「なんだそれは」
「画面映しします!」
それは高速に降下しながらもジグザクに気持ち悪い挙動をしながら飛来する巨大な糸車だった。ご丁寧に車輪部分が高速回転しており、あちこち火を噴いている。
「未確認飛翔体確認! パンジャンドラム! だ、弾道パンジャンドラムです!」
「パンジャンドラムが空からだと? 最大防御展開! 電磁バリア、主砲迎撃も行え!」
ヴァーシャの慌てようが尋常ではない。トラウマになっているのではないかとカストルは心配する。
「どうしたヴァーシャ。あの程度の大きさに詰め込める爆薬など。――-電子励起爆薬か!」
カストルも顔色が変わった。弾道ミサイルは囮に過ぎない。本命はこのパンジャンドラムだ。
「そうです。地上自走爆雷を宇宙から投下するなんて狂った連中です」
「落ち着け。ヴァーシャ君」
アルベルトが混乱しているヴァーシャを宥める。今口走ったことは聞かないでおくことにした。
「高次元投射装甲に電磁装甲完備か。対空レーザー対策は完璧だ」
レーザー兵器と一番相性の悪い組み合わせの防御形態。ネメシス戦域ではレーザー兵器が普及しない最大の要因ともいえる。
「上下左右にでたらめな軌道をしています! 狙いが付けられません!」
オペレーターが悲鳴をあげる。一定の軌道を外れないように、不規則にロケット孔から爆炎を発するパンジャンドラムに対し狙いを付けるのは困難だった。
「パンジャンドラムにする必要性は感じられないがね」
「あの車輪から発する軌道変更用のロケットはいやらしいじゃないか」
忌々しげに画面を睨み付けるヴァーシャと、冷静に評価するアルベルト。
「狙い、厳しいです!」
「主砲を使え!」
「パンジャンドラムが広範囲電磁バリア通過。主砲迎撃試みます!」
電磁バリアすら易々と通り抜けた弾道パンジャンドラムは、上空五百キロ地点でようやく撃破できた。命中寸前の間一髪だ。
爆発の威力で二キロ以上の長さを誇る船体が軽く揺れる。
巨大な対流雲がその威力を物語っていた。
「――撃破成功しました!」
安堵の声がメガレウスの戦闘指揮所に響く。
「電子励起爆薬を搭載したあの馬鹿げた兵器が押し寄せてきたらどうする?」
皮肉げに呟くカストル。
「メガレウスを空に飛ばせばいいだけですよ。所詮奇襲です」
ヴァーシャは落ち着きを取り戻していた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「全て迎撃されたか」
コウが結果を見て呟いた。
「そんなことは想定内。――アストライア。データは取れましたね」
『貴重なデータが取れました。見事ですアベル』
その言葉を聞いていた戦闘指揮所の人間やコウが驚いた。
「どういうことだ?」
「メガレウスは惑星間戦争時代の遺物。修理できるにしても限度があります。壊れてなければそのまま使えますが、壊れていた場合は我々と同じ技術制限を受けるのです。つまり連中は荷電粒子砲などの技術を持っていないことが確認されました」
『アベルのいうことを補足します。荷電粒子砲などがあればそれを採用し、迎撃に用いていたでしょう。主砲がレールガンということは荷電粒子砲は過去に破壊されており、彼らは再現できなかった証左です』
アストライアの説明にコウは納得する。彼らが認識できない技術に対してはAIは供与しない。
「不規則に動くパンジャンドラムを狙うにはシルエットを一撃で破壊し、かつ直径が極力大きい兵器で一掃するのが一番簡単です。敵の最大火力を知ることができる」
「それを確かめるために?」
「そうです。今必要なのは
にやりと笑うアベル。
『レーザーの出力からシルエットを一撃では破壊できない程度の威力だということもわかりました。主砲は警戒するべき兵装ですが連発はできません。詳細データは後ほどメタルアイリスと共有します』
「ビッグボスのおかげでパンジャンドラムは警戒されていますからね。飛来するパンジャンドラムなら最大戦力で迎撃すると判断しました。悪名は無名に勝る、ですよ」
何故か息がぴったりとも思えるアストライアとアベル。
パンジャンドラムと電子励起爆薬の組み合わせはアルゴフォースの印象は強いだろう。
パンジャンドラムである必要は確かにあったのだとコウは思う。
悠然と話すアベルに、言葉もないコウだった。
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