異形の兵器群

 海岸沿いを走る三両の半装軌車ノイが並走している。

 それぞれ犬型、猫型、狸型のファミリアが哨戒中だった。


 レーダーに反応が現れた。


「どこからだ?」


 猫のファミリアが確認する。反応してもう一方の犬のファミリアが応答する。


「この反応は……海からか?」

「制海権はこちらが完全に握っているだろう」

「水陸両用車かシルエットか?」


 敵の胴体についている砲塔から弾頭が発射される。

 回避行動を事前に行っていた半装軌車は、どうにか避けることができたように見えたが――


「うわあ!」


 狸型のファミリアが悲鳴をあげたときには遅かった。

 海から異様な影が襲いかかり、口らしき部位で半装軌車を噛みついたのだ。


「た、たすけ……!」


 言い終えることもできず、爆散した。


 

 その影は奇妙な平べったい兵器だった。

 尖った大きな口のように見えるものは破砕機。それが高次元投射装甲を持つ半装軌車を一撃でかみ砕いたのだ。


 平べったいくせに巨体で、脚がついている。


 奇襲者はすぐに海に逃げ込んだ。


 遠く離れた場所から同じような兵器が次々と現れる。


「マーダーか!」

「ワニかよ! 爬虫類のマーダーなんぞ聞いたことがないぞ! 離れている。急いで逃げろ」


 大きな口とおぼしき部位が開く。

 そのなかから巨大な砲塔が現れた。


「や、やばいぞ。回避行動を取れ!」


 砲弾が放たれた。

 回避行動は取っている。レールガンでもすぐには着弾しない。


 突如、爆炎を上げるノイ。


「回避したのに、砲弾が追尾してきやがったぁ!」


 絶叫する猫型ファミリア。

 履帯が激しく損傷する。


「大丈夫か? 後退しろ!」

「わかった!」


 被弾した猫のファミリアが動き出す。前輪と生きている履帯で動く。

 この場合は半装軌車ならではの駆動方式で凌いだ。


 MCSが解析完了した。敵MCS兵種不明と表示された


「違うぞ! マーダーじゃない! MCSを搭載しているぞ。あれはシルエットか戦車だ!」


 悲鳴に似た叫び声。本来あり得ない兵器。


「多脚戦車なんてあり得るのか!」


 その兵器は短い、四本の脚とおぼしき部位で移動している。同じ四脚のクワトロ・シルエットとは似ても似つかない。


 目の前の海外沿いの揚陸する兵器は、四本脚の異形の戦車だったのだ。


「つ、伝えなくては。皆に! 絶対生きて帰るぞ!」


 二人は決死の覚悟で後退する。

 逃走する半装軌車を狙うべく、異形の戦車たちの猛追が始まった。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「今度はなんだ!」


 メタルアイリス全軍に届けられた緊急通信。

 それは未確認兵器の登場だった。


「P336要塞エリアの海岸沿いに多脚戦車ないしシルエットが現れたのです」

「ちょっと待ってくれ。ディケ。教えてくれ。シルエットは人型が条件では?」

『私では対処不可能です。アストライア及びアシアに通信繋ぎます』


 画面に現れるアシアとアストライア。


「多脚戦車が確認された。MCSでは対応不可能な形状だと思うが」

『断言しましょう。惑星間戦争時代でもそんな兵器はありません』


 兵器開発統合AIの端末であったアストライアが即答する。


「ワニ型だったらしい。マーダーでもないということだが…… 爬虫類のマーダーはいないよな」

『いません。アシア。どういうことかわかりますか』

『解析中。力を貸して、アストライア。プロメテウスに呼びかけてるけど遠すぎる』

『そこまで緊急事態ですか!』


 超AIたちも解析できない事態に、ただの人間であるバリーが対処できるわけがない。


「くそ。R001要塞エリア――軌道エレベーター戦ですら前哨戦とでもいうのか!」


 相手の戦力が底知れない。

 

「だめだ。俺が慌ててどうする。頼む。アシア。何かわかったら教えてくれ」

『もちろんよ』


 冷静にいようと努力するバリーと、緊迫したアシアだった。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「こちらP336要塞エリアのフユキ。敵海岸部隊と交戦。被害は大きいですが傭兵部隊が一機鹵獲に成功しました。MCS内のパイロットからは応答ありません」

『さすがねフユキ。決してMCSは開いちゃだめ!』

「了解です。コントロールセンターに運びます」


 その頃、コウの傍にいたアシアが、目眩を起こし倒れかけた。


「アシア?!」


 慌てて支えるコウ。

 ありえない事態だ。彼女はAIであり、ビジョンである。


「……く。ごめんなさい。今私たちの処理がそこまで衝撃を受けた事態が発生したということ。今から私が指示だしていいかしら? アストライア。今の私と接続禁止だよ」

『どういうことですか!』

「何が起きているんだ」

「説明している時間がないっ…… 時間が惜しい。悔しい」


 アシアの顔が苦痛に歪んでいる。それほどの事態だ。 


「わかった。頼む!」

 

 アシアが消えた。

 モニターにアシアが浮かび上がる、それはコウ以外に、バリーやジェニー。ユリシーズの構築技士たちのもとに浮かんだものだ。


『敵未確認兵器解析を完了しました。解析データから所得した敵勢力の呼称に倣いアベレーション・アームズと名付けます。メタルアイリス及び構築技士に告げます。この兵器の徹底排除を』


 皆が画面に映るアシアに注目した。


『敵は最も禁忌な兵器を造りました。MCSのフェンネルOSにマーダーAIを融合させたようです。人間を部品の一部として活用し、MCSの制限を限定的に解除し初めて動くことが可能になる。それが異形の兵器群アベレーシヨン・アームズです』


 その言葉を聞いた者全てが絶句した。

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