宇宙戦艦
大気圏再突入を行った宇宙戦艦は、高高度より大口径200cm三連装砲をキモン級に向けて発射。右舷に命中させ半壊させることに成功した。
時速600キロまで減速し着陸した。
地表に激突した衝撃で、メタルアイリスのP336防衛網を半壊させた。
遠く要塞エリアから離れた場所でのみ許される戦術だ。
そのままの衛星速度で突入していたらあらゆるアシアのあらゆる防衛網が作動し、地表にぶつかるまでに破壊されていただろう。
「ディケ。キモンは飛べるか」
『今は無理ですが、三胴艦構造が幸いしました。中央、左舷の被害は軽微です』
「まずは防御態勢を整える。奴らはこっちに向かうはずだ。、展開した地上部隊はそのままディケの前に防御陣形を!」
緊迫した指示が戦闘指揮所内に乱れ飛ぶ。
キモン級が戦闘態勢に入る。
敵の宇宙戦艦は大型構造物。射程は数百キロはあるだろう。浮き上がって狙われたら、厳しいが相手も的だ。
アルゴフォースも地上基地として運用すると踏んた。
「あんな戦艦初めて見たぜ」
『戦艦メガレウス。かつてアストライアが作り出した七隻の宙戦艦エテオクレス級の一隻です』
ディケが解説する。
「あんなもんが七隻もあるのか?」
『アストライアは各勢力に譲渡しています。ストーンズが保有していたとしても二隻程度でしょう』
「そんなものを引っ張り出すとは、本気ということか」
『間違いなく。、主戦力、旗艦たるに相応しい戦闘力を有しています』
「戦艦だもんな。兵器運用能力は?」
『二十一世紀の戦艦とは若干定義が異なります。大型艦砲と厚い装甲、そして兵器運用能力を求められます。護衛艦隊などは宇宙艦ではないですからね』
「
『宇宙でこそカタパルトは必要ありませんからね。地上での兵器運用能力は劣りますが、搭載量は膨大です」
「作業も何もかもシルエットだ。当然か」
バリーは冷静に考えようと努めるが、スケールが大きすぎてぴんとこない。
現在運用しているキモン級とて今の人類にとっては手に余るほどの大型艦なのだ。
『宇宙空間から我らの動きを観測していたのでしょう』
「文字通り宇宙から見下ろして高見の見物を決め込んでやがったわけか。どこまでも不愉快な連中だ」
吐き捨てるだけにとどまらず、指示を告げる。
「まずは被害状況の確認、あとはP336要塞エリアへ進軍するはずだ。敵の布陣を確認してくれ」
戦闘指揮所にいるクルーに指示をだす。
全員が速やかに指示に従い、情報収集と精査を開始した。
「古来、戦艦には空母艦隊が有効だった。だが戦艦が空母だってんならどうすりゃいい?」
バリーが憎々しげに画面を睨み付けた
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「こちらはどうするか」
エメが苦悶する。
主戦力で軌道エレベーターを奪回したのだ。
こちらに戦力が集中しているのは明白だ。
敵もこちらに兵力を差し向けるだろう。
どちらを落としても、敵の勝ちとなる。
「エメ。一人で抱え込むな」
「コウ!」
隣にいつの間にかコウがいた。
大局をみるのはエメのほうが優れているだろう。今は彼女の責任で判断させたくはない。
「あれが宇宙戦艦か。覚えているよ。アシアがアリステイデス級を持ってきたとき、小型艦って言ってたもんな」
「うん。本当に大きい。どうやって勝てばいいのか想像がつかない」
巨大な艦影をみて、確信する。アシアは事実を述べていただけなのだ。
惑星間戦争時代より、シルエットが戦争の基本だ。目の前に現れた戦艦こそ、シルエットサイズからみて大型艦といえるものなのだ。
「ジェニー。キモンの応援に向かってくれ。アストライアはシルエットベースへ向かわせたい。騎兵部隊を急いで収容する」
「オッケー、ビッグボス」
コウの指示に満足するジェニー。
彼が率先して考えてくれているのは嬉しい成長だ。
「いいの?」
エメがコウに尋ねる。
「シルエットベースが狙われないとは限らない。あの場所ならいざとなったら新しい防衛ライン全般に対応できる」
エメばかりを悩ますわけにはいかない。
彼女の力を借りる必要はあるだろう。だが、必要な決断は自分が下すとコウは決めたのだ。
「でも、宇宙戦艦がいるよ?」
迂闊に飛べば的だろう。エメはその状況を懸念する。
「こちらも宇宙経由でいけばいいさ。アストライア。可能だろ?」
『無論です。コウの提案は理に叶っています。直線上にR336要塞エリアやシルエットベースに向かうより、宇宙へ打ち上がり、再突入したほうが安全かつ速いでしょう』
「だそうだよ。あとはここの守りと、航空部隊をある程度まとめて送りたいが…… 金属水素生成炉でなければ無理だな。かなりの距離だ」
「コウ。その二つについては、提案があるの。通信繋ぐね」
エメが通信を繋げると、グレイシャス・クィーンのジョージとジュンヨウのエリが映し出される。
「君がビッグボスだね。はじめまして。グレイシャス・クィーンのジョージだ。ここの防衛は任せてくれないか。護り通してみせるとも」
「わかりました。お願いします」
初老の紳士の名乗りに、コウは何か重いものを感じた。
即座に受諾する。もとより、頼りになる友軍なのだ。
「同じくはじめまして。岡田絵里よ。エリと呼んで。こちらから零式と二式艇を出します。R336要塞エリアまでなら飛べますよ」
通常の輸送機や戦闘機では難しい距離を飛べると言い切った五行の自信だ。
航続距離に自信があるのだろう。
「わかった。エリさん。頼みます。ジェニー、タキシネタ隊とヨアニア隊、そして零式で編成しキモンへ。二式艇はクルトさんと兵衛さんを中心にバズヴ・カタ隊でいこう」
「編成も様になってきたわね、コウ君」
「そうだといいんだが。ジョージ提督、よろしくお願いします」
「任せたまえ」
鷹揚に頷いた。
通信が途切れたあと、ジョージは優雅にパイプを燻らせながら、呟いた。
「BASはアシアから感謝の言葉を賜った。この星を護り続けた女神がね」
ふっと笑う。
勝算はある。生産ラインはアシアのものとなり、メタルアイリスが誇る最新鋭機が生産されるだろう。パイロットはブーンのファミリアに頼めばいい。
グレイシャス・クィーンは要塞エリア全域に届く艦砲射撃が可能。あの宇宙戦艦と殴り合うわけではないのだ。
「戦争するには誇りが必要だ。女神は我々が護ってみせるとも。ここが私の
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