生産工場残存データ

 軌道エレベーターの制圧が完了し、アルゴフォースが撤退を開始した。


 次々と五行重工業の零式とBASのバザードがシルエットに変形し内部に突入する。

 

 防衛部隊を打ち破ったリックの地上部隊もR001に要塞エリアに潜入した。


「敵防衛部隊、撤退を開始します。Q221要塞エリア方面です」


 ディケの戦闘指揮所内で、オペレーターが報告する。

 バリーが手を振った。


「よくやった。追撃は肝要だが深追いは禁止だ」

「伝えます」


 バリーは端末でアシアを呼び出す。


「アシア。軌道エレベーター施設の制圧にも成功した。天井のハッチやシェルターの開閉管理はお願いできるか」

『もちろん。任せて』


 バリーは表情を若干曇らせ、アシアに語りかける。


「少々気になることがある。R001要塞エリアで生産されていた兵器生産工場の残存データ確認を頼みたい」

『生産兵器? 種別でいいかな』

「ああ。どんな兵器をあの場所で生産していたか、知りたいんだ」

『わかった』

「アルゴフォースが運用していた戦闘機と可変機が手に入ったらめっけもんだが」


 見たことがない敵兵器の運用データは手に入れたかった。

 とくにあの可変機は要注意だ。


『運用履歴はすぐ見つかった。戦闘機はコールシゥン、可変機はアルラーだね。ちょっと待っててね』


 アシアは一瞬沈黙し、しばらくすると再びバリーに語りかける。


『あなたの悪い予感はあたったみたいよ』

「さて? そんな話はしたかな」

『とぼけないで。重工業地帯でもあるR001でこの生産数、生産量。戦闘機はパックのみ。戦車はエーバー1という重戦車。2もあるみたいだけどここでは生産していない。シルエットはアルマジロにバイソン。ジョン・アームズ製の兵器がほとんど。重要な兵器データは置いてないと予測していたってことよね』

「まあね。ここなら可変機やフッケバイン系のシルエットも作ることは可能だよな」

『軌道エレベーターで材料には困らないもの。余裕だね。つまり、あなたの読み通りR001は陽動ってこと』

「外れて欲しかったなぁ」


 気の抜けた声。

 とはいっても人工太陽でレーダーは殺され、主力がどこにいるか不明なのだ。

 手の打ちようがない。


「こんな高級な餌で何を取るつもりだ。シルエットベースか、P336か。どっちもそこまでのものではないだろう」

『そこまではわからないわ。軌道エレベーターを全占拠など、彼らの手にも余るという判断じゃないかな』

「そうだろうな。全力で取り返しにくるし、守り切れないなら効果的な餌、ということか。ありがとう。アシア」


 アシアとの通信を切り、思案するバリー。


「ロバート。ジェニー。リック。フユキ。いいか」


 彼らを通信で呼び出し、告げる。


「敵の抵抗は強力だったが、やはり本気とは言い難い。R001要塞エリアは陽動と判断した。人工太陽ももうすぐ消滅するだろう。その後の展開に備えないといけない」

「あの戦力で陽動といえるなら、よほど兵力は潤沢なのだね」


 リックがため息交じりに呟く。

 ようやく前線を切り崩し、要塞エリアに入ったのだ。


「そのようだな。ボブ。お前はすぐにP336要塞エリア近くの海域に展開してくれ」

「了解だ」


 現在主力はR001要塞エリアに集中している。

 アリステイデスとペリグレスは行動を共にしている。兵器の搭載量的に、二隻運用しなければならなかった。


「ジェニーにも戻ってもらうかもしれない」

「もちろん」


 ジェニーはタキシネタで常に戦場にいる。現在はアストライアに戻っていた。


「フユキ。P336要塞エリアの司令官はお前とブルーしかいない。頼んだぞ」

「重責ですね。やるだけはやりますよ」

 

 フユキも不敵に笑う。


「R001要塞エリアからP336、シルエットベース。防衛ラインが面ではなく線なのが唯一の救いだ。補給ラインさえ構築できれば、こちらの勝ち。だが敵の部隊展開は読めず、そして早い」


 彼らに守るべき防衛ラインが示される。

 R001とP336、そしてまたがる山脈のなかにあるシルエットベース。確かに面ではなく縦のライン。

 一度制圧されても奪回しやすい点はあるが、戦線が伸びたことも意味する。軌道エレベーターは絶対に手放せない。


「リック。急遽戻ってもらうことになるかもしれん」

「わかっている。人工太陽が消えたあとに迅速に判断しよう」

「戦線が桁違いに拡大した。正直一傭兵部隊と企業集団でやるレベルの戦争じゃないが傭兵機構が頼りにならん。相手の戦力がP336に向かうか、再度軌道エレベーターに向かいこちらの主力を潰してくるか。どうでるかだ」


 守勢に守る羽目になることは自覚していたが、実際になってみると予想以上に辛いものがあった。


「幸いP336は王城工業集団公司からの陸上戦力が応援にきてくれている。補給も問題ない。対応はできるはずだ」


 自らに言い聞かせるようにバリーは告げる。

 万全に万全を重ねても、不安が拭いきれなかった。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


 予想通り人工太陽が消滅し、半日が経過した。

 補給を進める。


 R001要塞エリアは散発的な戦闘は発生しているが、アルゴフォースは最寄りの防衛ドームに撤退を開始している。

 アシアも要塞エリアを自由に動かせる状態だ。問題はなくなった。


 P336要塞エリア付近で巨大な爆発が発生した。


 同時に、キモンにも巨大な爆発とともに衝撃が走る。

 続けて二度、同じ衝撃が加わった。


「ぐ…… なんだ!」

「キモン、右舷被弾! 装甲を貫通し、中破!」


 オペレーターが緊迫した声をあげる。


「万が一に備え、損傷部位の隔壁閉鎖を!」


 バリーがとっさに指示をだす。


「どこからだ!」

「上空からの大口径レールガン攻撃と思われます。はるか上空から位置エネルギーを利用した艦砲射撃です!」

「ディケ! 動けるか?」

『無理です。厳しいですが最善の行動は取ります。ファミリア、セリアンスロープたちに依頼してダメージコントロールを急ぎます』

「損傷部位のダメージコントロール最優先! チャフ、デコイ、防御兵装なんでもいい! ばらまいてくれ!」

「周辺部隊被害大! 現在被害こちらの被害状況も確認します!」


 次々と深刻な報告が入る。


「R336要塞エリア前方、王城工業集団公司の展開部隊の被害が大きいです! 約戦車二百輌が壊滅状態とのことです!」

「一撃でか! 何が起きた!」

「観測ヘリから転送された映像、でます!」


 その映し出された姿は――


 巨大な三連装砲を三門兼ね備えた艦影。

 副砲も巨大だ。


 脳裏によぎる言葉をそのまま口にする。


「う、宇宙戦艦だと……」


 バリーが呟いた。

 2キロを超える巨大宇宙戦艦が、地表に鎮座していた。

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