超軽量可変機
「敵戦闘攻撃機の迎撃にでます。発艦準備急いで」
氷塊空母が敵戦闘攻撃機であるパックの攻撃を受け始めていた。
空母ジュンヨウから、迎撃するための戦闘機が準備される。
「敵はパックか。双発機のほうは、高度不足というところね。ならば、こちらが非常に有利」
エリが状況を分析し、号令を発する。
艦上戦闘機が出撃に入る。
「七式! 発艦せよ!!」
ファミリアたちが乗る艦上戦闘機が、ジュンヨウから飛び立つ。
五行重工業の構築技士堀込が開発している。機動力重視の単発戦闘機だ。
「零式、続いて!」
甲板からせり出す零式と呼ばれたシルエット。
前腕にあたる部分と、下腿部にあたる部位に巨大な装甲を施している。
だが、それ以外の胴体、上腕部、大腿部は細い。棒きれのように。これほどまでにボディのラインが細い機体はそうないだろう。
頭部は一見モノアイのように見えるが、バイザーを上から覆っている。
射撃時はバイザー形態だが、格闘時はバイザーを上げて斬りつける。格闘形態ではバイザーが鉢巻きのようだ。実際防御も兼ねているのだろう。
零式が発艦する。そのまま上昇する。それぐらい推力に余裕がある機体なのだろう。
彼らとともに七式戦闘機がカタパルトから飛び立つ。
零式小隊が戦闘に入る。
敵戦闘機パックを驚愕させる上昇能力をもって、戦闘機の上を取る。
対艦ミサイル仕様のパックは機銃でしか攻撃できない。
「まさか!」
パックに乗っているパイロットが驚愕のあまり叫ぶ。
上昇中の人型シルエットが目を離した隙に、三翼機の戦闘機形態へ変形していたのだ。
「可変機だと!」
パイロットが驚愕する。戦闘機に可変できるようなバックパックが目視できなかったからだ。
変形は二種類ある。タキシネタのように戦闘機そのものを背負い、シルエットになると縮小させ背負うタイプ。
ヨアニアや、アルゴフォースのアルラーのように、戦闘機の主要部分は背負い、そのほかの各パーツは身に纏い追加装甲にするタイプ。
零式は第三の変形。もしくはヨアニアの亜種ともいえる。
最低限のパーツ以外を残し、全身に装着するが、戦闘機のパーツ以外は極端な細身。戦闘機パーツがなければ骨格とMCSのみのように見えかねない貧相さだろう。
戦闘機状態から考えるに、デルタ翼は前腕部に、垂直尾翼は両足。水平尾翼と単発エンジンは背中に装備だ。推力偏向ノズルは背部と四肢、それぞれに装備されていることになる。
変形した零式は対空ミサイルを複数装備。また戦闘機とシルエット両形態で使える75ミリ機関砲を装備していた。
胴体部分は背後だが、コンパクトに背負われている。
戦闘機状態の零式の特徴的なクロースカップルドデルタは軽量化、機動性向上が見込める。
極限までに加速と高機動を求めた機体といえよう。
機体設計の幅も広がり、ヒト型変形時も飛行機の制約を減らすことができる。
ラニウスと同じデトネーションエンジンを搭載し、四肢全てに推力偏向ノズルを付いている。メインは単発の大型エンジン。
ラニウスは四肢の動きのサポートとして斜めデトネーション波を四肢の運動動作のサポートに使用しているが、零式はデトネーション波を身体操作の主動力にしているのだ。
『五行重工業…… これまた変態的な可変機を作りましたね。金属水素貯蔵型で、あの機動力。相当な超軽量機体。機体本体の重量は15トン切っています』
アストライアも呆れる変形機構だ。
『装甲が極端に薄いことが欠点でしょうが、利点でもあります。パイロットの技量によって露骨に差が出るシルエットです。人を選びますが戦闘力はかなり高いと思われます』
「零式、凄い!」
思わずエメも感嘆の声をあげる、その機動性と戦闘力。
シルエット状態の零式とパックがすれ違いになる。
零式はすかさずライフルを左腰に吊り下げ、右肩の戦闘機本体に仕込まれた太刀を取り出し、パックを上から突き刺した。
コールドブレード――本来なら冷間加工用に使われる、様々な原子を加えた冷間ダイス鋼に改良を加え、シルエット用のブレードに転用したものだ。トライボロジー特性が隠れた切れ味にも貢献する。
高次元投射装甲で強化された装甲も、同じウィスを通した状態なら易々と斬ることができ、靱性も高い。
「ありがとうございます。エメ提督。いまだ五行重工業は金属水素生成炉を購入できません。機動性と運動性、航続距離、そして価格を兼ね添えた機体を作ったのです」
エリが礼を言う。自社兵器を褒められて嬉しいのだ。
五行重工業は本来、戦車やシルエットを得意とする会社だが、航空機は技術不足で手が出せないでいた。そこで技術開放が行われ、一気に研究が進んだのだ。
「その代わり装甲と積載はトレードオフです。現在この場にいる零式は三百。それだけ量産性に優れた証拠ともいえるでしょう」
「失礼ですが、傭兵への販売価格は?」
アキが興味津々だ。
「そうですね。50万ミナ程度でしょうか。日本円で50億円ぐらいです」
「安い…… タキシネタの300万ミナは金属水素精製炉だから当然としても、簡易型のヒートライトニングが80万ミナだからそれよりも安いです」
コウのために数機購入しておこうかとさえ迷い始めるアキだ。
『アキ。大至急、零式の戦闘全て、詳細に録画してください』
「了解です。ですが、そこまで?」
『さっきのアレとコウと引き離すためには、刀好きのコウにはちょうどよい目くらま…… 話題反らしに使えます』
「その意見には賛成ですから、最後まで言い切っていいですよ。アストライア。遠慮はいりません」
彼らが見ている間も零式は次々とパックを撃墜していく。
背後にいる七式も軽快な単発軽戦闘機で、確実に支援していく。
だが、露骨な弱点はそのまま露呈する。
「危ない!」
地上からのレールガンと対空機銃を同時に受けた零式が受けた。
それらをなんとか回避するものの、別のパックから放たれた対空ミサイルを受け、左腕と左の推力偏向スラスターが損傷した。
シルエットの武装に使われる燃焼式軽ガス方式のライフルやレールガンはマッハ5~9はある。回避は不可能だ。だからこそ生まれた高次元投射装甲であり、電磁装甲なのだ。
装甲が脆い。外観からもわかるように位置取りや機動力、運動性による回避を追求した機体だ。
回避行動と敵機との位置取り。パイロット技量で対処するしかない。
電磁装甲ではあるが装甲厚そのものが薄い欠点を解消できるほどではないのだ。
スラスターは生きている。撃墜された零式は回避行動を取りつつ海面をかろうじて飛んでいた。
零式をかばうべく、七式とエッジスイフトがカバーに入った。
「二式! お願い! エミリー!」
「任せて!」
エミリーと呼ばれた狸型ファミリアが応える。
エリの命令を聞くまでもなく、すでに向かっていた。護衛艦隊に随伴していた航空機が零式を救出するべく向かう。
二式大型航空艇。
水陸両用機で、飛行機であり、船だ。巨体はサンダーストームを上回るほど。
空母打撃群を補佐する、輸送水上艇でもある。
装甲を重視した巨大艇は、空飛ぶ装甲車だ。空戦、対地能力もそれなりにある。
巨大なタグデットファンを装備し、両翼にはフロートが付いている。
フロートは海面と接触し、内蔵されているウォータージェットを駆動させ海面を疾走する。
機銃攻撃を受ける零式をかばうように覆う。多少の被弾などもろともしない、この機体もまた空飛ぶ装甲車のようなもの。
そのまま零式を回収し飛び立った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「地上からの砲撃が厄介ですね」
「ええ。ビルの屋上から狙撃機のシルエット、そして沿岸部には大量の防衛シルエットです」
エメたちが状況を分析中だ。
「艦砲射撃で攻撃を行っているが、小さいのは苦手でね。ブーンはビル街を中心に移動。敵航空基地や弾薬庫を中心に攻撃している」
460ミリの主砲を保つグレイシャス・クィーンもシルエットサイズではなかなか有効打にならない。
「ご安心を皆様。今海中でブリコラージュが終わりました」
にこやかな笑顔のアベルが、通信に割って入る。
「アベルさん。今度は何をやらか……何を構築されたんですか?」
付き合いが長いエリが嘆息とともに尋ねる。
「驚くことなかれ。皆様にこれを」
全員に転送されたのは、R001要塞エリアの詳細な航空写真製の地図。2D地図と航空写真地図の切り替え可能なわかりやすい地図だ。
「これは?」
「友人たちのおかげです。ブーンは写真偵察を行いました。対地攻撃はついでなんですよ。彼らから送られた写真を合成し、たった今作成しました!」
胸を張るアベル。
『見事な出来です』
アストライアも認めた。
R001要塞エリアは強奪されて三十年以上経過する。
内部構造も変わっているだろう。
今手元に送られた詳細地図は現在の航空地図。敵の終結位置や、補給路も予測可能だろう。
重要拠点の予測も一気に行いやすくなる。補給線を立てる可能性まである。
「これは見事です。驚きました」
エリが頷く。驚くは棒読みだが、アベルは優秀なのだ。ただ、単に変な方向でも優秀なだけ。短い付き合いでわかっている。
「では我々は揚陸作戦に移る。よろしいかな、エメ提督」
「お願いします。アストライアに陸上戦力はないので」
「了解だ。揚陸作戦を開始する。目標はこの航空地図で分析を開始しろ。揚陸艇準備急げ!」
ジョージが命令を発する。
航空戦艦であるグレイシャス・クィーンは多目的艦。シルエットの運搬能力も高い。
「大変危険ですから、五行殿は我らの揚陸後に上陸を」
「了解しました。初手は何をするのです?」
エリの問いにジョージが目を逸らした。
不気味なものを感じ、エメが思わず割りこんだ。
「え?」
「私の新兵器をもって、敵要塞攻略戦を実施します!」
自信満々なアベルが、ジョージの代わりに応える。
「奴らにみせてやりますよ。真のパンジャンドラムというものを! 二種のパンジャンドラムを用い、敵重要拠点の粉砕を行います!」
アキと画面端のアストライアが両手で顔を覆ったのを、エメは見逃さなかった。
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