APW(あんちぱんじゃんどらむうえぽん)
「なんでよりにもよってパンジャンドラムを二種類も……」
怨嗟に満ちたアキの声がアストライア内の戦闘指揮所に響く。
グレイシャス・クィーンからホバークラフト型の揚陸艇が次々と発進される。その数四十機にも及ぶ。
揚陸艇にはシルエット四機と10メートルサイズのパンジャンドラムがそれぞれ二輌搭載されていた。
「パンジャンドラムはもともと要塞攻略用で、揚陸艇搭載前提で開発されたもの。今こそ出番といえましょう」
嬉しそうなアベルに、エリが疑問をぶつける。
「アベルさん。質問よろしいでしょうか」
「どうぞ! エリさん」
「なぜ地上自走爆雷なのでしょう? 命中率なら大型のミサイルをマッハ10以上で飛ばすか、コストを安く済ませるなら無人のトラックに爆薬を積めるなどの改良をしたほうが安上がりでは?」
「ちぃ!」
「は?」
思わず漏れた舌打ちに、圧を感じるは? だった。
アベルは笑顔に戻り、にこやかに質問に答えた。
「失礼。先ほどデザートのトライフルで胸焼けを。まずミサイルです。弾頭の他に推進剤を載せる必要があります。さらには高次元投射装甲とリアクターを搭載しなければいけません。それだけでも直径10メートル、径3メートルになります。ミサイルとしては非現実的な大きさです」
「確かに」
「次にトラック改良案ですが、パンジャンドラムはあくまで使い捨て兵器。トラックは部品点数3万点以上の乗り物です。コストはトラックのほうが高いのは明白です。パンジャンドラムなら部品点数は多くて千点もありません」
「なるほど。それは確かに」
「おわかりいただけたでしょうか」
大嘘である。
ミサイルは本当にその理由だが、トラックに関しては部品点数が少なくても大量生産しているトラック部品にMCSを抜けば転用可能だ。こちらのほうが安いに決まっている。
パンジャンドラムの材質はナノセラミックだ。これらを大型形成するより、無人トラックの量産ラインを使ったほうが安い。
重要なことはパンジャンドラムであることなのだ。
言いくるめられたエリ艦長。ジト目でアベルの通信画面を見ているアキ。
空気を変えるべく、エメが割りこんだ。
「色々な兵器をブリコラージュされますよね。アベルさん」
「私の仕事は、変化する戦争のニーズに応える実験兵器をブリコラージュすることですからね。パンジャンドラムもまた、ニーズにあわせて進化するのです」
アベルは画像を映し出す。
そこには左右に円錐状になったパンジャンドラムが映っていた。
「これは?」
「エメ提督にはお知り合いに日本人がいる模様。ベーゴマ。ないしベーなんちゃらという日本のホビーを存じてますか?」
「知ってます!」
エメもまたセリアンスロープのブーム同様、暇さえあれば日本文化を調べている。
「疑似フィールドデータをすり鉢状に設定し、パンジャンジャンドラムをベーゴマに見立て、不規則に、かつ確実に目的地に送り込む。それがスピニング・パンジャンドラム。第一弾のパンジャン。これが二十輌あります」
「スピニング・パンジャンドラム!」
なんだかよくわからないが凄そうだ。
「先ほどの航空写真をもとに火薬庫や燃料庫とおぼしき場所を推測しました。早速、これらに向かって放ちましょう」
アベルの指示とともに、シルエットがスピニング・パンジャンドラムが発射される。
二十輌のパンジャンドラムはロケットで走り出し、お互いぶつかり、弾け飛びながら回転しながら突き進んでいった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「パンジャンドラムがきたぞ! カストル様のやはり想定通りだ!」
「アレをもってこい!」
アルゴナウタイ側も対策していたようだ。
「ネットだ! あいつを止めるネットをもってこい!」
「あいつ用の工作車もあっただろう」
パンジャンドラムの襲撃を予期していたかのように、対策用の兵器が現れる。道路と道路を渡るネットと、戦車改造の工作車だ。
「ネットに引っかかったぞ! 安全装置が付いているはずだ。そのまま撃破しろ!」
「大丈夫かよ」
「こいつに搭載できる火薬なんてたかが知れているだろ。 艦内で誘爆したら大変だからな。撃て!」
「わかった!」
アルマジロがロケットランチャーを撃ち放つ。
大量の金属水素が爆燃を発生させた。
安全装置など付いていなかった。
周囲が爆発に巻き込まれる。高次元投射装甲のおかげで多くのシルエットにはダメージは深くないものの、付近にいたものは直撃を受け半壊した。
「やべえ! 安全装置なさそうだぞ! 狂ってやがる!」
「だめだ! やはり工作車を用意しろ!」
「ネットで捕まえろ! ビルの屋上から狙撃する!」
アルゴフォースも次々と手を打ち、パンジャンドラムを撃破していく。
「アストライア。あれ本当に安全装置付いていないの?」
吹き飛ばされるアルゴフォースのシルエットをみて、エメが尋ねた。
『最短有効射程距離みたいなものはありますよ。多分』
「多分って」
『確認する気力が起きなかったもので。あれはロケット推進で自走する爆雷です。ミサイルじゃないですから安全装置など付いていないかもしれません』
「こわい……」
ユリシーズの共同回線に報告が入る。
「スピニング・パンジャンドラム、次々と撃破されます!」
緊迫した声が流れる。
「ネットで対抗か。そりゃ狭い通路走っているんだからネット張れば十分よね」
冷ややかなエリ。
スピニング・パンジャンドラムが破壊される様子をグレイシャス・クィーンはブーンから送られる映像で見ていたが、ジョージが声を発する。
見慣れぬ工作車が映っていたからだ。
「むぅ。あれはAPW。アルゴナウタイめ。卑怯な!」
「APWとはどのような兵器なのですか?」
「
ジョージが今にも歯軋りしそうな形相だ。
『誰かさんのせいで散々な目にあっていますから。対策ぐらいするでしょう』
「あんなのいちいち想定していたら、戦略組み立てられるかな?」
『エメ。あなたはそのままでいてください』
道路を走るパンジャンドラムを、戦車を改造した工作車が受け止める。
巨大な壁のようなドーザーに、ハサミが付いている。
スピニング・パンジャンドラムを断ち切ろうとするが、やはり強固。無理のようだ。
周囲に隠れていたシルエットが肩撃ち式のロケットランチャーを発射し、破壊する。爆風は盾代わりのドーザーで受け止めるのだ。
「くぅ。爆燃をあのような方法で殺すとは!」
「どうみても戦車改造の工作車にハサミ型の
「ただの重機やないかーい」
アキとエリが思わず割りこむ。
「対パンジャンドラム兵器など、奴らは相当追い詰められていると見える」
「主に精神的にだと思われます」
「あんなのが転がってきたら。ねえ?」
アキとエリのツッコミは止まらない。ジョージは真面目にいっているにも関わらず、だ。
「ダメです。ジョージ提督。全てのスピニング・パンジャンドラムが撃破されました!」
「なんだと!」
「驚きはないよね。地上自走爆雷だから。地面走ってるだけなんだからいくらでも対策できるよね」
アベルの報告に驚愕するジョージと、冷淡なエリ。
巨大な自走爆雷など、的でもある。処理の方法などいくらでもあるだろう。
「だが我々は負けない。もはや打つ手はないか? 否だ!」
ジョージは芝居がかった声を上げる。
「そうだろ? アベル」
「はい。私たちには、奴らの想定を上回るパンジャンドラムがあります。APWなどに負けないぐらいのね」
自信満々に答えるアベル。
「今こそ真価が試される本命のパンジャンドラム! 60輌の猛攻に奴らが耐えられるかな?」
ジョージ以外、全員の表情に昏い陰が宿ったのは言うまでもない。
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