ダブルドリル――アルキメディアン・スクリュー
「ここは私にお任せを。あなたたちは先にいってください」
「しかし!」
「行くぜ、コウ。ここはクルトさんがやらなきゃいけねえ、仕事だ」
レイヴンはラニウスCやアクシピターよりも高級機といえる。
眼前のレイヴンは十二機。一人では荷が重い。
「ええ。ヒョウエさんの言うとおり。奴らは私から奪い取ったもの。私が始末をつけなければいけません」
クルトはグングニルを構え、おもむろにレイヴンに放った。
直撃を受け、のけぞるレイヴン。一撃では落ちないのはさすがといえた。
「わかりました! お願いします!」
コウはクルトの決意を目の当たりにし、進むことにした。
五番機とアクシピターが高速で遠ざかる。
二機を追いかけようとするレイヴンをフラウナグズが背後から叩き切る。
レイヴンを二機逃がしたが、死ぬのを怖れたレイヴンに取り囲まれる。まずはクルトのフラウナグズから排除を決めたのだ。
「残り九機。――いくぞ、害鳥ども」
クルトが吼え、レイヴンとの戦闘が始まった。
五番機とアクシピターに追いつくべく、二機が加速する。
進んでいた五番機とアクシピターが突如振り返り、横切りを行う。
レイヴン二機はあっという間に両断された。
背後から迫る敵を斬るのは、どの流派にもある。
コウが行った背後への攻撃は突き技だ。いきなり胴体を刺し貫かれたレイヴンが体をくの字にしたときには、上段斬りで右胸部装甲を破壊されていた。
「やるねえ、コウ君」
兵衛もあっさりと仕留めていたようだ。
「五番機のサポートのおかげですよ」
「よくいうぜ。頼もしい」
兵衛にとって、コウと一緒に戦うことは心躍る体験となりつつあった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
R001要塞エリアのそれぞれ5時の方向、7時の方向から二つの空母打撃群が進行している。
五行重工業は旗艦、商船改装空母『ジュンヨウ』を旗艦とした空母打撃群だ。アストライアと同じく、周囲の護衛艦は通常のリアクター搭載の、護衛艦隊だ。
旗艦はもともと五行重工業が、ストーンズの襲撃に備えるべく用意していた商船用の輸送艦艦が元だ。高速移動が可能な
この大型高速輸送艦はAスピネルではなく防衛ドームと同じAカーバンクルを使用している。宇宙艦に近い防御力を持つ。そうでもしなければ、護衛もない輸送船がマーダーの襲撃に耐えられるはずもない。
その商用輸送艦をを五行重工業が来たるべき日に備え、改装したのだ。
かつて地球の企業が客船を改装した空母から名を取った。
五行重工業が制作する兵器の命名規則は、日本語表記を元にしている。艦船はカタカナ表記だ。
五行の誇る軍艦はショウヨウだけではない。そのなかでも特殊な強襲揚陸艦があった。
先頭を進む、破砕強襲揚陸艦。これもジュンヨウと同じくAカーバンクルのリアクターを採用している。
破砕強襲揚陸艦『ソウヤ』。
南極や北極など、氷に覆われた極限地域作業を行う資源開発用研究船だったが、多数のシルエットと観測機を搭載されていることを受け、強襲揚陸艦に改造され軍艦となった。
ジュンヨウを中心とする空母打撃群の後方にアストライアが到着した。
航空支援を行うためだが、現在は必要ない。
「彼らが要塞エリアのシェルターを破壊するそうですね」
オペレーターに戻ったアキが告げる。
「そう聞いています。突破口は五行が。その後、BAS社が続くそうです。もしうまくいかなかったら私たちが手伝いましょう」
その心配は杞憂だった。
破砕強襲揚陸艦ソウヤの船底から、巨大なドリルがせり出した。しかも二本だ。
そのドリルは長く、船体全体とほぼ同じ長さだ。
『アルキメディアン・スクリューも兼ねている、双ドリル強襲揚陸艦ですか。あの構造、陸地も想定していますね。なんて変態的な……』
アストライアも呆れる変態構造。
巨大なドリルは、沼地や破氷用のはずだが、攻城用破砕兵器としても運用できるようにされていたのだ。
低速だが陸地もいけるだろう。地面を削りながら、だ。構造的に平坦な道は不向きだ。
「ヴォイみて! ダブルドリルだよ!」
興奮したエメは思わずヴォイに連絡をする。
「なに? おお、すげえ! さすがコウの故郷の企業だ!」
「それは関係ないと思うけど凄いよね!」
『コウに見せてはいけません。アルキメディアン・スクリューを使った陸地走行のドリル戦車を作りかねません』
「それだ! ドリル推進のドリル装備戦車!」
『あ。……いけませんよ、ヴォイ!』
本気で慌てるアストライア。
「コウに相談だな!」
『く。しまった!』
ヴォイの通信が切れた。
本気で焦るアストライアをよそに、巨大なドリルに目を輝かせるエメだった。
エメの見ているさなか、ソウヤは眼前のシェルターの左右に穴を開けた。
ラムで壁面の中心を一突きしてやれば、すぐに破壊できるだろう。
「聞こえますか。アストライア。ここから先は、BAS社が要塞エリアの攻略に入ります。もうすぐ到着とのことです」
ジュンヨウの女性艦長であるエリ・オカダから連絡が入る。
「了解しました、エリ艦長。レーダーにも新たな空母打撃群と友軍信号確認できました」
オペレーターであるアキが返信する。
友軍信号とともに巨大な艦影が見える。
「あの戦艦、ものすごく大きいね」
エメが映像をみて驚く。
巨大な艦影は、アストライアよりも大きい。
『BAS社の超弩級戦艦グレイシャス・クィーンですね。全長1.5キロ。装甲空母と航空戦艦を組み合わせたコンセプトを持っているようです。宇宙にこそ行けませんがかなりの戦闘力を誇っています。新造された軍艦では最強の一角を誇るでしょう』
「艦長はジョージ・アーブノット提督ですね」
アキが補足をしてくれる。
「BAS社はどんな会社なの?」
「英国系企業ですね。一点豪華主義だと言われています。あのグレイシャス・クィーンにお金をかけすぎて、かなりの財政難だとか。噂によると失敗した兵器をそのまま量産して使うレベルだそうです」
「だ、大丈夫かな」
不安げなエメにアストライアが答える。
『英国特有の先進性と伝統を重んじる企業のようですね。兵器開発は英国とともにある、といっても過言ではありません。陸軍では戦車、主力戦車を最初に開発したのは彼らです』
「凄そう」
『凄いですよ。さらにいえば海軍は驚異的なものばかり。超弩級戦艦を始め、航空母艦の概念は英国が提唱し日本が最初に作りました。ホバークラフトや甲板駐機を増やすための着艦用アングルド・デッキ。そして垂直離着陸機もまた革新といえる航空機でした』
「歴史を誇りに思うのもわかる気がする」
エメは素直にアストライアの言葉を聞いた。
アストライアも余計なことを言わないようにしたのだ。
『友軍に公開されている兵器のデータリンクもできます。隠しているのがいくつかあるようですが、公開されているものは確認しましょう。レーダーで確認する限り、戦艦の他に空母一隻、護衛艦複数は同じのようですが』
データリンクを行ったアストライア。
その顔はどんどん澱んでいく。
『エメ……』
こんな力のないアストライアは初めて見た。
「どうしたの?! アストライア」
『提案があるのですが』
「うん」
すがるような、懇願するような視線にエメは若干引いている。
『今すぐ引き返してシルエットベースに戻るというのはどうでしょうか』
アストライアは真顔でそういった。
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