可変空挺部隊
ホバータンクの投下にあわせて、アストライアから複数の機体が射出される。
ラニウスC型、フラフナグズ、アクシピターだった。
これに随伴する形で、バズヴ・カタが投下され、先行する。
彼らの投下を確認したあと、可変機群が次々と飛行甲板から射出される。
タキシネタ隊とヒートライトニング隊、プレイアデス隊のヨアニアだ。
戦闘機の護衛を引き連れながら、単独で飛行できるシルエット隊は圧巻だった。
これほどの少数精鋭はアシアに他にいないといっても過言ではないだろう。
彼らは特殊高機動部隊として編成された、アシア救出部隊だ。
可変機、飛行可能シルエット合計60機以上になる。
低空を飛行し、侵攻を開始する。
敵地だ。油断はできない。
主戦場を迂回し、森林地帯低空を飛行し、駆け抜ける。
しばらくすると敵の警戒網に接触した。
高速移動する彼らに対空射撃が放たれる。
「シルエットが操作する対空
「わざわざ要塞エリアの外にこんなものを置くってことはよほど重要拠点が近いということか」
クルトが指摘し、黒瀬が警戒する。
武装の有無に関わらず人員や物資を守る掩蔽壕ではあるが、とくに要塞拠点を守る武装した円形状の防御拠点をトーチカという。クルトの指摘の通りロシア語だ。地球では東側諸国の防衛に使われていた。
掩蔽壕に戦車や対空車両を置いただけのものから、専用の対空砲を置いたものまで様々だ。
大規模隕石群から人類を守る要塞エリアのシェルターがあるにも関わらず、トーチカを建造しているということは、重要な軍事拠点であるという証左に他ならない。
眼下にいるシルエットをそのままに高速で上空を駆け抜け、可変空挺部隊は進む。
進むにつれ、対空射撃が激しくなってきた。
「ビッグボス。ここはバズヴ・カタ隊にお任せを!
「こちらヒートライトニング部隊。バズヴ・カタ隊を支援します!」
クルト社の青年が告げる。同じくスカンク・テクノロジーズの傭兵部隊が応答した。
機動力、そして航続能力は彼らがやや劣る。防衛勢力を正面から撃破するには彼らが適任だ。
ヒートライトニングは金属水素貯蔵型タイプ。燃料に限りがある。近接のバズヴ・カタ、中距離のヒートライトニングと連携して戦うのだ。
「頼んだ!」
コウは彼らを信頼し、任せることにする。
バズヴ・カタは舞い降り、戦闘を開始する。
三次元行動――前後左右に加え、上空さえも駆使して戦う特殊高機動部隊に、防衛部隊のアルマジロは為す術もなかった。
重機関砲は、やや上空を飛び回るヒートライトニングに翻弄され、ロケットランチャーに持ち替えようとすると、ヒートライトニングから斬撃が飛んでくるのだ。
バズヴ・カタの装甲筋肉とアクチュエイターが生み出すうなりは、易々とアルマジロの胴体を切り裂く。
接近戦なら実は装甲厚のほうが重要であり、電磁装甲装備のバイソンよりもアルマジロのほうが斬撃の耐性は高いにも関わらず、為す術がなかった。
トーチカはヒートライトニング部隊が一つ一つ丹念に潰していった。
中味は作業用シルエットかアルマジロだ。敵では無い。
彼らが目立つほど、防衛戦力も集中する。
ここぞとばかりに大暴れするバズヴ・カタ隊だった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
予想通りとはいえ、防衛ラインは強固だ。
次の敵は戦闘機パックとアルラーの航空編隊だった。
アルラーに乗っているのはラケダイモン。ストーンズに選ばれし人間だ。
「黒瀬! いくわよ! ここは私たちの出番!」
「了解だ、ジェニー! コウ、お前達は先に行け!」
ヨアニアとタキシネタが対空ミサイルを発射し、パックを撃破する。
後続のアルラーは電磁バリアを使い、対空ミサイルを迎撃しつつ近付いてくる。
可変機同士の戦闘は装甲も厚く、対空ミサイルは決定打になりにくい。
戦闘機同士、ともに低空。空戦を行えるような状況ではない。
双方とも、戦闘機からシルエット形態に変形し戦闘がスタートする。
人型に変形することで、空気抵抗が増しシルエット形態による速やかな降下が可能だ。
上空に人工太陽がある以上、高高度は封じられる。中途半端な高度で戦うより、地上戦のほうがリスクは少ないのだ。
撃ち合い、斬り結ぶ。
アルラーは近、中距離に適応していたが相手が悪かった。
ヨアニアはその巨体に似合わぬ加速度で近接攻撃を主体にアルラーを圧倒する。タキシネタは高速射撃機。背後から援護射撃で応戦する。
その間にコウたちは高度を落とし、二十メートル近い樹木の間をくぐり抜け、要塞エリアに突入していった。
「クルトさん!」
眼前に要塞エリアのシェルターが見える。
コウは、背後から大型のライフル。アンチフォートレスライフルを取り出した。
「ああ。君からもらい受けたこの対要塞ライフル、今こそ使うときだ」
クルトのフラフナグズには二種類の新装備がある。
一つは『真式グラム』。アルゲースがクルトのために鍛えた、直刀の両手剣。
もう一つが、フラフナグズ専用アンチフォートレスライフル『グングニル』。それぞれの機体にフォーカスされたアンチフォートレスライフルだが、最高峰の性能を持つフラフナグズ用に調整されている。
二人が同時に射撃を行う。
どちらも両手持ちだ。装甲筋肉でも反動を完全に殺しきれなのだ。
轟音とともに要塞エリアのシェルターはいとも簡単に崩れ去った。
「通信が入りました。現在、五行重工業とBAS社が要塞エリアで大打撃を与えているようです。大打撃が何を意味するかは教えてもらえません」
コウが二人に告げる。
報告してきたアキの目が虚ろになっており、アストライアまで同様の瞳をしていたことが非常に気になるが、エメが気にするなと言っていた。
何かが起きていることは間違いない。
「ふむ? どういうことだ」
「はは。大暴れってことじゃねえか。新兵器がどんどん投入されて、アルゴナウタイが混乱しているってところじゃねーか」
三人は疑問を感じながらも要塞エリアに潜入する。
「当然いるでしょうね。待ち伏せされていましたか」
クルトの瞳が昏く光る。
決して許せぬ、宿敵を見つけたのだ。
眼前に次々と集まってくる漆黒のシルエット。
クルトの生み出したバズヴ・カタと同系統機。レイヴンがそこにいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます