ホバタン

 空中を浮かぶ戦車。

 遠距離から確認しているアルゴフォースからみても、ジェット噴流などは確認できない。


 その戦車群はゆっくりと降下していくのだ。

 シルエットを背に乗せて。


「見事なものだ。ホバータンクとは。戦車の高速展開が容易になる」


 ロバートが隣にいるウンランに話しかける。


 アリステイデスとペリクレスから投下されるタンクは、履帯のないホバータンクだ。

 特徴的な部分は巨大なダクテッドファンの他に、車体と一体化した砲身が付いているところだ。新型の機兵戦車ドラグーンタンクでもある。


 圧縮空気の反作用だけではシルエットと車体あわせての重量を支えきるのは難しい。

 そこでウィスを使った超伝導と量子による空中制御機構を取り入れている。


量子浮揚クアンタムレビテーシヨンの空挺戦車。ピン止め効果とマイスナー効果の二種の力を応用している。第二種超電導状態を利用した量子固定で車体は空中に浮かび、ダクテッドファンで推力偏向を行い上下左右へと推進をする。

 浮かんでいるのでは無く、空中で固定されているのだ。ほわんと浮かぶUFOではなく、空中で止まっている鉄の塊ともいえる。


 ローレンツ力に関した技術であり、まだ数多くの制約があるが、ウンランは実用化にこぎつけた。

 場に固定されているので航空機のような高速機には向かないのだ。戦闘機のように戦える戦車、とのようにはいかない。

 後退能力が低いのも欠点だ。接地し内蔵している車輪を使わなければ後退ができない。


 量子浮揚の最大の利点はその積載量にある。浮揚装置が支えられる重量はホバークラフトの比ではない。


「ホバタン可愛いですよね」


 オペレーターの猫耳少女が微笑む。


 ホバタンの愛称で定着している。

 ふらふらと動く姿が愛嬌があるとセリアンスロープやファミリアには人気だ。

 外観は未来的なバイクのようにも見える、尖鋭的なデザインだ。


「可愛いだけではないんだよ」


 穏やかに微笑みながら、ウンランが自分が構築した機体群を見る。


「さあ、頼んだよ。朱雀ジユーチユエ勁風ジンフォン


 己が構築した機体群にそっと呼びかけた。

 


 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「浮いている戦車など役に立たん! さっさと撃ち落とせ!」


 グライダー部隊より先に地面に降りた敵戦車部隊。

 履帯がなく、大きな反動の砲は積めないだろう。 

 せいぜいミサイルを、二発か四発程度。それならば重シルエットのアルマジロが壁になればよい。


 そう思っていた。


 眼前のアルマジロが一撃で半壊した。

 高次元投射装甲で、装甲も厚いアルマジロが膝をつく。


 予想以上の火力だ。あと数発は耐えられるだろうが、それだけだ。


 そこへ、浮揚戦車に搭乗しているシルエットから追撃が加えられる。

 両手構えの携行砲であった。


「反撃しろ!」


 だが、ホバータンクは予想外の軌道を取り、狙いが定まらない。

 一斉に三方向へ移動したのだ。右、左、そして上空へと。


「な!」


 数で圧倒しているにもかかわらず、予想外の動きにアルゴフォースは対応できなかった。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「レールガンでもないのに、なかなかの火力ですね。ただの滑腔砲でもない。新兵器ですね?」


 ロバートがウンランに尋ねる。


「そうだね。レールガンを積めたら良かったんだけど、ホバータンクでは色々と無理がある。そこで磁気プラズマ砲を使ったんだ」


 磁気プラズマ砲。ウンランの故郷で開発されていた戦車砲だ。

 砲身内に磁場を発生させ、砲弾の発射とともに、砲弾が移動する際の熱と圧力でガスをプラズマ化させる。砲の内部にプラズマ層を作りだすのだ。

 155ミリ砲の砲弾の初速はマッハ7に達し、射程も100キロ近くとなる。


「重シルエットの朱雀ジユーチユエ。ホバータンク型機兵戦車の勁風ジンフォン。これが僕の新兵器だ。いい加減、飛行型高性能機を作らないと、作れないと思われそうでね」


 冗談めかして言っているが、内心は本気だろう。

 ケリーや衣川の可変機に匹敵する、派手な機体だ。


「あのホバータンク勁風そのものは汎用性があるよ。だが専用シルエットの朱雀を載せることで、朱雀のスラスターの補助で加速。最高速度300キロは上回る」

「朱雀は重シルエットですよね?」

「加速は地上で超音速は出せないかな。800キロぐらい。飛行能力を持つよ。たまには飛ぶシルエットも作らないとね」

「重シルエットが飛行するのは死ぬほど厄介です。味方としては心強い」

「高すぎて五十輌ほどしか揃えられなかったのが悔やまれる」

「十分ですよ。もうすぐクアトロ・シルエットも合流する。これで前線を維持できます」


 当のクアトロ・シルエットに乗るパルムは空を見上げ、降下するホバタンを眺めていた。

 その顔は予想外に険しい。


「むう。あれはホバタン……」

「どうしたのですか。パルム隊長」


 エポナに乗るパルムに、エポスに乗る隊員の犬耳型セリアンスロープが尋ねる。


「以前、エメ提督にお聞きしたことがあるのです。提督がコウ様とゲームを遊んでいるとき『やっぱり四脚よりホバタンだよなー。直グレあてやすいしな』と呟いていた、と」

「!」


 セリアンスロープたちに緊張が走る。

 思いもよらぬライバルの出現だ。


「我々は四脚…… ええ。ホバタンに負けるわけにはいかないのです」

「た、確かに。このままではメタルアイリスの新兵器がホイール・オブ・フォーチュンとホバタンだらけになる未来が!」


 コウが聞いたら目眩を覚えそうな誤解が生まれていた。人馬型ケンタウロスを指していった台詞ではない。


「幸いコウ様はスペック厨…… ごほん。高性能機がお好きな傾向があります。我らが活躍を示し、クアトロの改良にこそ、未来があるのだと示さないと!」

「はい!」


 セリアンスロープたちの心が一つになる。

 クアトロ・シルエットはホバタンに敵愾心を燃やしつつ、戦場へ急行した。

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