可変機――シェイプシフター

 R001攻略作戦のブリーフィングが開始された。


「コウ。ヒョウエさん、クルトさん。三人にはR001要塞エリアの封印区画に潜入してもらいます」


 バリーの作戦内容の解説が始まる。


「封印区画には構築技士、プラス一、二名程度しか入れないと聞きます。

「すぐにシャッターが閉じるからな」


 コウが最初に潜入したときもブルーのシルエットが随伴するだけで精一杯だったのだ。


「三人は構築技士。戦闘にも慣れている。まあ、三人ともやられたら人類破滅待ったなしでしょうが」


 EXとA級の構築技士二人がやられる事態は考えたくない。

 だが、彼らを倒せる敵戦力というのも想像がつかないのだ。


「R001要塞エリアは守りも堅いでしょう。どう崩すのです?」

「空挺作戦を行います。アストライア、キモン、強襲揚陸艦二隻で侵攻開始。シルエットを投下するのです」

「四隻同時投入とは思いきったなぁ。こっちの守りはどうするんだ?」

「王城工業集団公司から戦車一万台応援がくるんだ。クアトロ・シルエットも、随時追加。千機は追加されている」

「すげえな、おい」


 戦車一万輌はただならぬ量だ。クアトロ・シルエットはワーカータイプでも通常のベアなみの戦闘力はある。戦闘用のエポスはそれ以上だ。


「クアトロはただでさえ順番待ちだからな。アシア全域のセリアンスロープが集まりつつある状況だ」

「うちもラニウスA1の増産急かしてるしなぁ」

「クルト社はファルケを増産中ですね。バズヴ・カタも傭兵のエース用として対応中です」

「ベテラン傭兵たちも前線に出ていたものは買い換えもできます。追加兵力だけでも防衛できるのです」


 バリーの説明に、コウも納得する。


「リックたち陸上部隊は進軍中か」

「そういうことだ。空挺作戦部隊が前線を形成し、地上部隊と合流する作戦だ。それに頼もしい援軍もいる」

「ユリシーズの転移者企業ですね。日系企業の五行重工業と英国企業系のBAS社と聞いています」

「海洋戦力を中心に大規模戦力を持っていることで有名な二社だ。挟み撃ちになる。軌道エレベーターはそれほど重要な施設なのさ」

「その総力戦のさなか、俺達は潜入するんだな」

「むろん敵も罠を仕掛けているだろうが、軌道エレベーターは爆破するわけにもいかんだろ?」

「出来る細工も限られる、か。わかった」

「お前達の護衛部隊は豪華だぞ」


 バリーはにやりと笑う。自信ありげだ。


「可変機――シェイプシフターを中心にした空挺特殊部隊だ」


 シェイプシフター。現在の可変機シルエットの総称だ。

 技術解放以降、急激に増えつつある可変機シルエットに対し、容姿を自在に変える存在になぞらえてそう呼ばれるようになったのだ


 この呼称が定着し、様々な言葉が生まれた。金属水素生成炉搭載の可変シルエットであるシェイプシフターの内、金属水素生成炉搭載の特殊型はSSS、金属水素貯蔵の通常型はSSとも呼ばれている。


 SはAの上という意味はないが、特別な機体という意味で使われるのだ。


「タキシネタ隊とヒートライトニング隊、ヨアニアのプレイアデス隊の可変機組全てと飛行能力のあるバズヴ・カタ。可変機空挺部隊として作戦を遂行してもらう」


 この編成にはコウも驚いた。

 少数精鋭にも程がある。


「それだけでも凄い戦力だな」

「さっきも言ったろ。お前達構築技士がやられたら人類が敗北だと」

可変機空挺部隊シェイプシフターエアサービス――SASか。地球の有名な特殊部隊のようね」

「それも念頭にあった」


 ジェニーの指摘にバリーは微笑んだ。

 SASは一番有名な特殊部隊の一つ。戦闘機可変型シルエット部隊には相応しいだろう。


「可変機組たあ、豪華すぎねえか」

「可変機組は機体性能自体は並レベルですよ。重戦闘機のヨアニアですら、同系統の機体よりは装甲が薄い。そこで可変機構がないバズヴ・カタ部隊も加えました。それにこの編成でないとあなたたちの機体についていけないのです」

「それは確かに」


 クルトが苦笑する。彼らの機体は一気に間合いを詰めるためにスラスターを強化し、その推力をさらに生かすために飛行能力を加えた機体。

 可変機や同系統高性能機のバズヴ・カタでなければ随伴して護衛などできないだろう。


「軌道エレベーターもそうだが、アシア奪還は重要だ。頼んだぞ、コウ」


 コウは頷く。どのような戦いになるか、想像もつかない激戦の予感がした。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



 アリステイデスとキモン。合流した艦が二隻並んで飛行している。


「よし、空中投下開始せよ!」


 バリーの号令ととともに、グライダーに乗ったシルエットが次々と飛翔し始める。

 シルエット用のグライダー空挺部隊だ。グライダーはコストもさほどかかっていない


 パラシュートも検討されたが、空中での行動権がないことで使い捨てグライダーが開発されたのだ。


 パニックになったのは、アルゴフォースである。

 グライダー空挺部隊に相対するのは重戦車を先頭に、周囲に重シルエットであるアルマジロに乗った、意思を奪われたペリオイコイと呼ばれる住人階級だ。

 

 意思を奪われたといっても、危機を察知する能力も会話能力も、ともにある。優秀なロボットと同様だ。

 そんな彼らが危険と感じるのだ。


 無数のグライダー部隊は十分に脅威といえた。

 降下する部隊は、横一列になり、隊列を組む。後方では投下された部隊が同じ隊列を組み始めた。


 レールガンを持つ重戦車が狙いを定め射撃するが、やはりグライダーは機動力がある。回避行動を取っており、なかなか当たるものではない。


 重戦車エーバー1に乗っているラケダイモンの青年が叫んだ。


「防御陣形を整えよ! 敵はシルエットのみだ! 戦車とシルエットの連携には弱い!」


 ここで上手く戦果を上げれば、さらに報酬、ストーンズ内勢力での地位もあがる。

 失敗すればペリオイコイ行きとなる。必死だった。


「進軍まで時間もある。援軍も存分にあるぞ。お前達は前にでろ!」


 重戦車が後ろで歩兵が前方。

 これはヴァーシャが指示した作戦だ。優秀なものの損耗率を抑えたい、という戦術となる。


 平原を埋める無数のアルマジロが進軍する。

 簡易量産機であるアルマジロの数は十分な脅威だった。


「隊長! 緊急報告です」


 最前列のアルマジロに乗るパイロットから報告が入る。


「どうした?」

「隊長! 空から戦車が降ってきます!」

「なんだと? パラシュート投下か!」

「何もありません。そのまま戦車が降ってきます」

「なんだと」


 アルゴフォースの隊長映像を注視する。

 そこには空から降ってくる戦車が、確かに映っていた。

 


 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「空挺戦車の投下が開始されました!」


 リックに報告が届く。

 リックの画面にも、キモン級から投下される戦車が映っている。


「トルーパー2、任せたぞ!」

「はい。三十分後には合流できます」


 現在トルーパー部隊、総勢千機が荒野を駆けている。

 時速200キロ以上での高速走行は戦車ですら追いつけない。


 まさに騎兵。地上を疾走し、空挺部隊と速やかに合流するのだ。


 戦車部隊も全速移動だ。最高速度は不整地で80キロ程度。

 これでも地球の戦車よりはるかに速く、トラブルもない。500キロ移動すれば一割は故障するといわれるが、アシアではそのような心配はないことが強みだった。


 現地で合流できるのは数時間後だろう。 


 さらに後方には補給部隊や機動打撃部隊が随伴している。それは戦車部隊よりはるかに多い数だ。


「空挺作戦と聞いて前線に壁となる戦車がいないと不安だったが……」


 投下され続ける戦車を見て呟く。

 リックとウンランは付き合いが長い。戦車乗りのリックと、陸戦兵器専門ともいえるウンランが交流を持つのは当然だった。 


「よく見てろよ、コウ。同じ奇想天外兵器でも、ウンラン氏のように運用にもとづいた兵器が大事なのだ」


 万全の信頼をもとに、リックもまた戦地での合流を目指し、進軍を進めていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る