いたって普通のパンジャンドラム。ただし……

「速いな。あのパンジャン……」


 マーク2は自動車ではありえない速度で転がり続ける。

 あまりの速度に呟いたリックだった。


「時速300キロ以上は出ています。五分もすれば到着します」

「リック。各員に命令だ。対閃光防御最大! 戻れる奴は要塞エリアに避難しろと! とくに航空機は!」

「なんだと? 核でも使う気か!」

「そんなもん使うかよ! 早く!」

「わ、わかった。総員退避準備。避難できるものは要塞エリアに戻れ! 航空機は必ずだ! できるだけアーテーが落ちた穴から離れるんだ! 戦闘中のものは対閃光防御、最大だ!」


 リックも戦車を交代させ、思い切ってコウに通信を繋ぐ。


「コウ。もうすぐホイール・オブ・フォーチュンマーク2が敵アーテーに投入されるんだが、大丈夫なのかあれ」

「……使うか、あれを。リック。安心してくれ。あれはちゃんと考えて作った普通のパンジャンドラムだ」


 そういうものの、コウの表情は昏い。


ちゃんと・ ・ ・ ・とは?」

「本来の目的であった攻城兵器、対要塞としての自走爆雷なんだ。目標に向かって直進し、到着すると自動で横転して胴体の筒を上部に向ける。指向性をもたせて、筒上方もしくは下方に向けて,、指向性をもって爆発するんだ。周囲に被害をもたらさないようにね」

「うむ? そう聞くと普通のパンジャンドラム? のように聞こえるな?」

「そう。いたって普通のパンジャンドラム。ただし……」


 コウは目を逸らした。この表情はコウがやらかした時にやる。


「ただし?」


 ホイールオブフォーチュンマーク2がプラズマバリアをものともせず、落とし穴に落ちていく。

 残りの三輌も次々と勢いよく落とし穴に飛び込んだ。


 落とし穴に落ちたホイールオブフォーチュンマーク2は、巻き込まれて落ちた無数のアント型を踏み潰しながらも、中心地点にいくと縦置きになる。


「ただし、威力以外」


 爆発とともに地獄の扉が開かれた。




 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



 天を衝く火柱。

 空を覆う黒煙。


 遮光していても、リックの顔を照らす発光。

 あまりの威力に呆然としている。


 地獄の扉が、開いたとはこういうことをいうのだろう。

 惑星アシアでみたこともないような、爆発音。

 爆風で木々が吹き飛び、へし折れている。 


 対閃光防御を使っていなければ、失明していた可能性もある。

 見る者すべてを唖然とさせていた。


 安定性の高い虫型のケーレスが爆風で転倒しているのだ。

 そのまま吹き飛んだアントワーカー型もいる。

 爆風も絶大な威力だった。


 爆轟デトネーシヨンが生み出すその威力は絶大だ。

 衝撃波と超高温でアーテーが爆散したのだ。


 ファミリアやセリアンスロープの一部はその爆発に震え上がる。

 恐怖を覚えるほどの火勢と爆発だったのだ。


 ヴォイとフユキはドヤ顔だけ、自慢げな笑みを漏らしている。

 工作員たちは、放心していた。

 

 二キロ先では、巨大な鉄塊が落ちてきた。

 這い出ようとしていたアーテーの頭部だった。


 爆心地グラウンド・ゼロである落とし穴では恐ろしいことが起きていた。

 アーテーの胴体が崩れ落ち、沸騰しているのだ。


 赤熱化し、どろどろに金属を溶かしながら崩れ落ちていく。

 ばたばたとあがいていても、無駄だ。

 下半身からみるみる赤熱化し溶けて、そして炎に飲み込まれていく。


 その爆風は遠く離れたキモン級でも確認できた。


「何が起きた!」

「ホイール・オブ・フォーチュンマーク2が起動したようです。アーテーが……ば、爆散しました! 残ったボディは溶解してます。噴煙は上空八千メートルに到達しています…… すごい威力です」


 あまりの威力に戦闘指揮所のクルーが呆然とする。


「何をやらかした、コウ?」


 バリーさえも呆然とする。


「アストライア。止めなかったの?」

『必要でした』


 その威力の源を知っているのはアキとにゃん汰、そしてエメだ。

 エメはため息をつきながら、その巨大な対流雲を眺めた。


 爆心地の温度は8000度近くまで達しているのだ。

 しかも密閉された落とし穴でより高温状態が持続されている。


「なんだあれはー!」


 リックは元凶に怒鳴りつけてしまう。

 いまだ火柱は天に向かって迸っている。高温ガスがまだ止まらないのだ。


「すごい威力だね」

「人ごとみたいに言うな」

「マーク2に詰め込んだ火薬が爆発しただけだって」


 コウは目を背けたまま、解説した。自分が創ったのだ。威力は知っている。

 だが、シミュレーターと実際に目の当たりにする火柱はまったく違った。ちょっとだけ火薬を多めにしすぎたとさすがに反省した。


 遠く離れたアストライアやディケからも観測できる火柱だ。この二隻のクルーからも色々言われるのは間違いなかった。


「ただの火薬じゃないだろ! 何を! どれだけ使った!」

「……マーク2に金属水素の電子励起爆薬一輌に25トンほど詰め込んだ」


 四輌だとTNT換算で50キロトンの大爆発。

 火柱が上がるのも当然の威力だ。


「あれは無煙火薬の類いだよ。ほら、あの雲。原子雲じゃないだろ。一時間もすれば収まるはずだ。放射能汚染も、死の雨もない。安心してくれ。しいていうなら…… 一度に四輌も使う代物じゃないってことかな」

「よくも使用禁止にならなかったものだ!」

「アーテー倒せたからいいじゃないか」

「 ……確かに、だ。最後のアーテーは撃破できた。それは喜ぶとしよう」


 ため息をつく。


「私とウンラン氏で、三日ほど缶詰は覚悟してもらうぞ、コウ」

「はい」


 本気で怒っているリックに、逆らわないことを決めたコウだった。


 そして明らかにこの事態を想定していたであろう、二人に通信に繋げる。


「落とし穴で使ったのが幸いしたのか、周囲への被害はあまりない。アント型は潰れているがね。ただし、フユキ! ヴォイ! 今後使用計画は厳密に報告するように!」

「了解ですよー」

「サーセン」

「返事が白々しいわ!」


 ウンランを呼んで早く地上戦がなんたるか、叩き込まねば。

 リックが焦燥感を覚えるほどの威力が、ホイール・オブ・フォーチュンマーク2にはあった。

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