オペレーション『P』

 アーテーの姿を観測ヘリが捉える。

 転送された画像を見て作戦を練るフユキたち。


「あともう少しで到着か…… フユキ。首尾はどうだ」

「ヴォイさんが頑張ってくれました。そろそろです」


 アーテーと周囲のマーダーがまっすぐに進行してくる。


「いよいよオペレーションPだな!」


 ヴォイが嬉しそうにいう。


「オペレーションPか。……念のため確認するが、パンジャンドラムのPじゃなかろうな?」

「そ、そんなことはないぜ! あくまでパンドラのPだぜ!」

「何故口ごもるのかね? どっちにしてもろくでもないではないか!」


 リックはとても不安になる。

 あらゆる最悪を封じ込めたパンドラの名がつく作戦。嫌な予感がする。


「ヴォイさん。地下トンネルは?」

「こっちは準備万端だ!」


 ヴォイが答える。

 ドリル編隊たちはすでに地上に戻っていた。


「敵目標地点到達。工作部隊。起爆せよ!」

 

 フユキの号令ととともに、シルエットが機械を操作する。

 進んでいたアーテーが突如、姿勢を崩し、地底に飲み込まれた。

 同じく周囲の多数のマーダーも、土砂に巻き込まれ地底に消えていく。


「いきますよ。オペレーションP、第一段階開始!」


 フユキの号令とともに、第二の起動装置を作動させる工作部隊のシルエット。

 落とし穴から無数の爆発音が響く。


 オクタアザキュバンを使った超高性能爆弾だ。

 サーモリック爆弾などの気化爆弾は酸化エチレンや酸化プロピレンなど土壌汚染が深刻化するため、使用禁止兵器となっている。

 

「蟻の巣のような無数のトンネルに、ありったけの爆薬です。落とし穴に落ちたアーテーに逃げ場はなく、爆発の威力も閉所のもの。さしものアーテーとはいえ、無事ではすまないはず」

「なるほど。パンドラの箱さながらに災厄が詰まっているわけだな。オペレーションPの正体がこれか。これほど巨大なピットトラップとは思わなかったよ」

「ヴォイさんたちが不眠不休で掘り続けた地下トンネル網です。落とし穴のためだけのね。ウィスを切れば、2000トンを超える重要です。トンネルが支えられるわけがありません」

「おう! 延々掘ってたんだぜ」

「広さ、深さは?」

「広さは半径500メートル。深さは150メートル程度です」


 しかし、彼らの期待はやはり希望的観測に過ぎなかった。

 地上部分に手をかけ、這い出ようとするアーテー。

 その腹部に再び爆発が起きた。側面のトンネルの爆弾が爆発したのだ。再び落とし穴に落ち、ひっくり返るアーテー。


「あれで倒せないか……」

「傷一つついていませんね。本来は落とし穴に落として、アリステイデスのグラウンドアンカーで倒す予定でした」

「仕方ない。エリスを倒すのに精一杯だったのだ」

「そうですね。可能な限り、やれることをやるだけです。砲撃をお願いします」

「了解だ! 砲撃準備! 撃ち方はじめぃ!」


 リックの渾身の号令とともに砲撃部隊が間接攻撃を開始する。

 大型の対地ミサイルも投入された。

 しばらくすると目映い発光が孔から発せられた。


「プラズマバリアを断続展開したか…… ああなると、ミサイルや榴弾は誘爆させられてしまう。シルエットによる格闘戦しかない」

「自殺行為です。ここには機動力が優れたシルエットは少ない」

「わかっている! しかし、なんとかしないとあいつが穴からでてきてしまう……」


 リックが苦々しげに呟いた。

 砲撃は足止めにしかならなかったのだ。やはりAカーバンクルの高次元投射装甲と爆発物は相性が悪い。


 アーテーは全長が100メートルあるとはいえ、落下した衝撃ですぐに体勢を立て直すことはできないようだった。

 落とし穴に落ちたアーテーなど、この機体が初めてだろう。


 だが、いまだ諦めていない二人がいた。


「待ってください。諦めるのはまだ早い。切り札はまだあります」

「そうだぜ! まだ手はあるんだ。諦めるにはまだまだ!」

 

 二人はにやりと笑った。

 何故か、悪寒が走るリック。


「他に何が残っている?」


 二人は口を揃えて、リックに告げた。


「僕達にはホイール・オブ・フォーチュンマーク2がある!」

「俺達にはホイール・オブ・フォーチュンマーク2がある!」


 リックが青筋を立てて怒鳴った。


「やっぱりパンジャンじゃねーか!」

「落ち着いてリック! 口調口調」

「は。私としたことか」


 フユキに指摘され、我を取り戻すリック。


「プラズマバリアを張っているような相手に何ができるのか!」

「違います。相手がプラズマバリアを張っているからこそ、リアクターを搭載し、高次元投射装甲を持つ地上自走爆雷パンジヤンドラムであるマーク2しか近づけないのです」

「むう。自走爆雷、か…… そんなもんで倒せはしないだろう」

「金属水素たっぷり入ってる! いけるって!」


 ヴォイは自信満々だ。


 確かにシルエットも近づけない以上、自走爆雷をぶつけるというのは正しい判断だろう。

 リックもその事実は認めざる得なかった。


「マーク2とはいうが、何が違うというのだ?」

「ジャイロセンサーがついてるぜー!」

「待て」

「まっすぐ進むんだぜ!」

「不安になるような説明はやめろ!」

「我々は遂にパンジャンドラムの弱点を克服したのだ……」

「コンセプト自体が弱点だからな?」

「でっかいんだぜ! 偉大なるザ・グレートパンジャンドラム!」

「やめい!」


 やはり不安しか残らない。


「ヴォイさん。用意は?」

「バッチリだ! 任せろフユキ!」


 ヴォイの合図とともに、以前より一回り大きい18メートル級のホイール・オブ・フォーチュンマーク2が運び込まれた。

 胴体の部分が以前よりも太い。

 その数四輌。


「何故四輌もある!」

「キリがいいからとコウがいってたぜ」

「説教追加だ!」


 リックは憤慨した。


「60トンある。大抵のアントコマンダー程度なら弾き飛ばす!」

「地上自走爆雷はそういう使い方じゃないだろ?!」


 ツッコミが止まらない。


「では即時投入を。リック。ホイール・オブ・フォーチュンマーク2の援護を!」

「納得してないぞ、私は。……ええい! 皆の者、ホイール・フォーチュンの援護をしろ! 絶対あてるなよ!」

「アーテーを倒す、パンドラの箱の残り物ホープですよ。オペレーションP第二段階、作戦開始ミツシヨンスタート!」


 フユキの号令とともに、四輌のパンジャンドラムはロケット噴射を行い、走り出す。

 並み居るアント型を踏み潰しながら進んで行った。


 人々の希望を乗せて地上自走爆雷パンジャンドラムは走り出し、転がる。


 けなげに。

 必死に。

 ひたむきに。


 マーク2は転がり続けた。

 邪魔をするマーダーを轢き潰し、なぎ倒し、跳ね飛ばして。


 人類の命運はホイール・オブ・フォーチュンマーク2に賭けられたのだ。

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