ネクストステージ
「パンジャンドラムはどうでもいい。あの爆発は核ではないのか。ヴァーシャ」
カストルは事実を受け止め、理解しようと努めている。
パンジャンドラムについては深く考えないようにした。
さすがだ、とヴァーシャは思う。アルベルトは茫然自失だ。
「解析終えました。おそらくですが電子励起爆弾の一種かと。金属ヘリウムが有力視されていましたが、ネメシス星系では金属水素でしょう。効率が桁違いの次世代火薬。通常爆薬の範疇です」
アーテーが溶解するほどの威力であり、サーモバリック爆弾ですらない。
あのような兵器が敵にあるのは、驚異であり警戒が必要だ。
「こちらで作れるか?」
「不可能ですね。しかもパンジャンドラムに乗せるなど狂気の沙汰です」
「頭おかしいからな、敵の構築技士は」
アルベルトが苦笑する。ドリル戦車に引き続き、パンジャンドラムにしてやられるとは思わなかった。
「しかしアーテーの装甲を貫いた対物ライフルの正体も判明しました。十中八九これの応用でしょう。ミサイルに使うこともあまりないと思われます」
「どういう意味だ? 新戦術兵器ではないのか」
「切り札であることは間違いありません。あくまで大型マーダー、もしくは宇宙運搬艦限定と思われます。普及させるつもりならばあの対物ライフルの使用者はもっと多いはずです。ロケットやミサイルに載せないのは誘爆を怖れてでしょうね」
「えらく慎重だな」
「威力が大きいというのはそれだけでリスクにもなります。古来、弾薬庫の誘爆の死者がどれほどいたか。敵の構築技士本人か、近しい者にしか使わせないとみました」
「ふむ。では過剰に対応することはないということか」
「コスト面や使用機体の制限もあるでしょう。つまりあの対物ライフルは一般的な装備にはなり得ないと判断できます」
今から想定される、アルゴナウタイの軍隊とメタルアイリスとの戦闘を考慮し、カストルは考え込む。
「一般的ではない装備としては覚悟せねばならんな」
「ええ。狙撃部隊など警戒する必要はあるでしょう」
「対策は任せたぞ、ヴァーシャ」
「お任せください」
ヴァーシャも様々な局面は想定している。
超砲身レールガン採用の狙撃部隊もまた、指示していた。
「新世代シルエットと旧式のマーダーとの戦力比は、ストーンズ内にも衝撃を与えている。どの要塞エリアの管理者もシルエット生産に切り替えている」
「リュピアで開発中のマーダーはどうなったのですか?」
ストーンズを数十年支えていたマーダーをあっさり切り捨てることに疑問をいだくアルベルト。
彼らの多くは意思を奪った人間を使うことは効率が悪いと思っていたのだ。
「それよ。先月大規模な事故があったらしくてな。リュピア本体とも連絡が取れなくなっている。新型マーダーが異常をきたしているらしく、惑星リュピアには立ち入り禁止になった」
「なんと!」
「マーダーの基幹プログラムにファミリアのテレマAIを融合させようとして失敗したらしい。一部はMCSさえ取り込んで異常化して手に負えないとのことだ」
「混ぜるな危険を地でいくようなことを何故したのか……」
「わからん」
どう考えても人間と寄り添うことを行動指針とするテレマAIと人類を抹殺するマーダーでは、融合させるにも相性が悪いはずだ。
超AIの考えることはわからない。
「ではしばらくはマーダーはアシア生産分だけですね」
「そうなる。そのうち、すべてシルエットや他の兵器に変わるかもしれんがな」
カストルは己の端末を眺め、自軍戦力を確認する。
数多くのシルエット、戦車、航空機。これほどの戦力を持っているのは彼しかいない。
彼の提案に乗った他ストーンズも数人いる。これはこれで派閥のようなものだ。
「いよいよ、
「人工太陽の消滅時からが本番です。残り丸三、四日程度。敵はマーダーの駆逐に奔走すると思われます。準備する時間はさほどないかと」
「そうか。いよいよアルゴナウタイの軍隊、アルゴフォースを実際に運用することになるわけだな」
「はい。そのために準備をしてきました。マーダーによる消耗戦などなくても勝てるほどには」
「
カストルは言い切った。確固たる自信に満ちた答えだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
アーテーが破壊され、キモン級のなかで歓声が上がった。バリーは司令席に深く身を沈める。
エリスも倒し、アーテーも破壊した。上出来すぎるだろう。
「ボブ。ありがとう。よくやってくれた。リックとフユキもだ」
「地上に戻るまで待っていてくれよ」
「やれやれ、こっちは気苦労が絶えないよ。Pのせいだな」
ロバートは宇宙にいる。地上に戻るにはコースを修正し、一日程度かかるだろう。
リックはホイール・オブ・フォーチュンマーク2で精神的に疲れたようだ。
「だが、油断はするな。数万といるマーダーがいなくなったわけじゃない。あいつらは撤退などないからな」
「任せておけ。地上部隊、航空支援ともに気を抜くことはない」
地上部隊の要であるリックが指揮しているのだ。バリーも安心して任せていられる。
「次はいよいよ、アルゴナウタイとの戦闘か」
「前哨戦がこれだと気が重いわね」
ジェニーもさすがに慎重になっている、
巨大マーダーを同時に多数繰り出し、前座と言い切った敵の構築技士の言葉に偽りはないだろう。
次のアルゴナウタイとの戦闘が本番なのだ。
「エメちゃんがいなければ、巨大マーダーに押しつぶされて終わっていたな」
「そんなことはありません。みなさんの自助努力のおかげです。バリー司令のユリシーズ立ち上げ関連の動きは見事の一言です」
エメは即座に否定する。ユリシーズの救援がなければエメも危なかったのだ。
それはひとえに、バリーの事前工作、政治手腕に尽きる。
「褒めても何もでないからな! そうだな。戦争が終わったらコウに休暇をやるから遊んでもらえ」
「はい。ありがとうございます」
エメは若干はにかみながら喜んだ。やはりコウといる時間が増えるのが一番嬉しい。
「あと数日、か。まずは方針を決めないとな」
次なる手は――
バリーは布石を打つべく、コウを呼び出し作戦会議を行うことにした。
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