アンチフォートレスライフル

 進軍してくる無数のマーダーを、シルエットが迎え撃つ。

 補給を終えた機兵戦車も隊列を組み直し、迎撃するための防衛網に加わる。


 側面打撃を機動力があるクアトロシルエット隊が受け持ち、マーダーの数を減らしていく。

 

 そのなかを三機のシルエットが強引に突き進む。

 先陣を切る兵衛のアクシビター。

 二刀は乱戦でとくに威力を発揮する。


 アクシビターを追い、側面をサポートするラニウスの五番機とフラフナグズ。

 

「サンダーストーム1、換装OK」


 ブルーもまたアストライアで装備換装を行っていた。ワイヤー誘導の対艦ミサイルだ。サンダーストーム隊はすべて対艦ミサイルに切り替えている。

 貫通力もそうだが、ウィスによって強化されるので多少のレーザー迎撃には耐えられるのだ。

 

「リスナーの皆さん! ただいまからアーテー戦に移行します。しばらくメドレーになりますのでご容赦を!」


 さすがにアーテー戦で生放送をしながら戦う余裕はない。

 リスナーに謝罪し、ブルーもまた戦場に飛び立った。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



 シルエットの急激進化は、二つの方向性へ分岐させた。

 それはシルエットの戦闘機化と戦車化だ。もとより、転移社企業が創設されるまでは兵器開発という概念がなかった惑星では、シルエットは装甲車であり、戦闘へリであり、歩兵だった。

 

 可変シルエットと高機動シルエットの登場により、シルエットの高額化と高性能化が桁違いに進むことになった。歩兵であり、戦闘機となったのだ。

 だが戦闘機だけで戦線は維持できない。シルエットは安価かつ高性能を求められる。その答えが戦車化、重装甲と重火力を兼ねたシルエットの登場することになる。


 先陣を切る三機は、戦闘機の代表例ともいえる三機種だ。

 そんな彼らが今、惑星間戦争でも猛威を振るったといわれるアーテーに向かっている。


 これはアンダーグラウンドフォースのみならず、半神半人たちも興味を持っている対戦カードだ。

 撃破された二機はいわば奇襲の類い。超大口径レールガンと、強襲揚陸艦の体当たりでの撃破だ。手段さえしってしまえば対策もできる。


 だが、通常のシルエットにアーテーが果たして倒せるのか?

 惑星アシアが注目するなか、三機のシルエットは援護射撃を受けながら、マーダーの群れを斬り込んでいく。

 マーダーも地上を滑走してくる敵に対応できないでいた。


「コウたちには無茶を言いました」


 犬耳を垂らして凹んでいるアキ。強気で言ったのは虚勢だ。

 本当はあの三人を最前線などやりたくはないのだ。


「その分、私たちも仕事をするにゃ」

 

 クアトロシルエットが、溢れんばかりのマーダーを次々に蹴散らす。

 コウたちに四脚で疾走し随伴してくるクアトロ・シルエットの群れ。

 二脚では不可能の芸当だ。


 20キロ圏内が荷電粒子砲の射程だ。あと10キロ、数分の距離だ。

 

「アキ!」

「はい!」


 にゃん汰がアキに呼びかける。

 二人はまったく同じタイミングで、胴体に備えられた大型の長砲身のライフルを展開させる。


 砲の全長は8メートルを超す。シルエットの全長を超す程の超大型のライフルだ。

 銃身どころか機関部レシーバーやショルダーストックにあたる部分も異様に大きい。


 長砲身のライフルを構え、照準はアーテーを捉える。


 二人は制止し、アーテーを狙う。

 カバーするように、巨大なクロウを構えたクアトロが二人の前に立ちはだかる。


 狙いを定め、撃ち抜く。


 アーテーの装甲を貫通し、内部から巨大な爆発が起きた。遅れて轟音が周囲に響く。

 反動で、後ろに退く二機のシルエット。

 エポナですら衝撃を殺しきれないことに驚愕する周囲の仲間たち。


「何なの? あれ!」


 隊員のセリアンスロープが思わず尋ねたほどだ。


「アンチフォートレスライフル。炸薬を使った対物ライフルの進化系。要塞シェルターも貫通可能です」


 アキが淡々と答えながら次弾を装填する。

次弾はすぐに撃てないほどの反動。最高峰のクアトロシルエットの安定性をもってしても、反動を殺しきれないのだ。


「どんな原理でそんなものができるのよ! しかも徹甲榴弾?」

「あとでゆっくり説明してあげるにゃ」


 にゃん汰が薄く笑った。効果のほどに自信が出たのだ。


「コウが炸薬を創り出ブリコラージユし、にゃん汰と私がコウのために設計したのです。話せば長くなりますよ」

「また裏ボスへののろけを聞かされるのね…… 戦闘中だもんね。長くなるのはわかった」


 まず彼女たちはコウへののろけから入る。クアトロシルエットは伝説だが、長くなりそうな悪寒は気のせいではないだろう。


 コウたちを援護すべく、二人はアンチフォートレスライフルを構え、撃ち続ける。

 惑星アシアでもっとも堅牢な装甲を持つ兵器の一つであるアーテーを撃ち抜くライフル。

 さしものアーテーも迂闊に荷電粒子砲を使うことができなくなった。

 

 アーテーの進行速度が速まった。彼らを速攻で潰さないと、危ないと判断したのだった。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「解析急げ! ライフル程度の小口径でアーテーの装甲を抜くなど……」


 さしものカストルも声を荒げた。

 世界を揺るがす兵器の登場だ。あんなもの、シルエットが携行してよい兵器ではない。


「しかも貫通してから爆発だと? ふざけるな。徹甲榴弾なら中途半端すぎてアーテーの装甲は貫通できまい。徹甲弾なら外観で確認できるほどの爆発など視認できまい。違うかヴァーシャ」

「仰る通りです。相当な異常事態が発生しています」

「ヴァーシャ。アルベルト。何か思い当たる兵器は?」


 沈痛な表情でかぶりを振るアルベルト。ヴァーシャも興味深く画面を見入っている。

 映し出されている画面はアーテー視点のものだ。


 遠目に四脚のシルエットが長大なライフルを構えている。


「皆目見当がつきませんな。レールガンでもなさそうです」

「管制コンピューター。推測を話せ」


 ヴァーシャが宇宙空母の管制コンピューターに命じる。


『推測不可能です。現在用意されている火薬の類いで、あのサイズに納めることは不可能と思われます』

「推測すら不可能、か」


 カストルが苛立ちを隠せない。


「砲撃に関して砲撃卿がわからないのです。私にもさっぱりです。惑星間戦争に該当の武器はありましたか?」

「あるわけがない。あれを倒せたのは限られる。超高性能のシルエットがブレードで切り刻むか、大型戦艦の荷電粒子砲か、それこそ体当たりぐらいなものだ。シルエットが携行できる兵器では歯が立つはずもない。アストライアが惑星間のバランスを崩した要因でもある」

「でしょうなあ…… アシアの知識か? 他の構築技士にも渡さないほどの技術があった、と」

「そういえばアシア二体目が解放されたときに技術解放はなかったな。アシアの解放がいくら進んだとはいえ、解除制限解除項目など知れている。増えるわけがないから当然といえるが」

「だが、わずかに増え構築技士が秘匿した可能性はあるな」

「それは確かに」

「何らかの手段でブリコラージュしたということか。惑星間戦争時代のAIの解析さえ許さぬ天才がいた、と」


 三人は画面を食い入るように見入る。

 現用兵器でアーテーを破壊できるかどうかを。

 

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