KSX-01X フラフナグズ
「バリー。知っていた? クルトさんが生きていたこと」
キモンにいるバリーに、ジェニーから通信が入る。
「知るわけないって。何も聞いていない。こんなに味方の動きが読めない軍はそうないぜ」
「すみません。これは私のミスですね。私も知らなかったんですが、企業連合の件承諾時に、五人の構築技士から承諾があったと連絡がありました。コウは数に入っていませんから、クルトさんが許可を出したのだと」
コウとバリーの会話にアキがすまなさそうに割って入る。
「あの時か! わかるわけない!」
「TAKABAさんのところにいたみたいね。青いサンダーストームが連れてきたから。コウ君が贈った奴だし」
「シルエットベースなどを除けばTAKABAしかフッケバインの修理はできないですしね。装甲筋肉はTAKABAとクルト社しか対応してませんでしたから」
「そうか。逃げ出してあそこまで。確かにばれると追っ手が凄そうだしな。頼みの傭兵機構が一番信用できないと来ている」
以前のD516要塞エリアからTAKABAがある要塞エリアまではかなり離れているはずだ。
裏ルートや自走、様々な手段を使って移動し続けていたのだろう。
身分を隠しての移動は困難を極めたに違いない。
「バリー司令。アーテー戦に参戦許可を」
アキが切り出す。
「どうした。何か策があるのか」
「はい」
「まじか。わかった。いってこい!」
「あとは私が受け持ちます」
エメが通信を変わる。バリーが頷いた。
「一騎当千に相応しい援軍だ。いけるな」
クルト社やコウを思う。
彼らの士気は確実に上がっているはずだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「コウ。お前さんがこの刀を送ってくれた日にな。うちの会社にクルトさんが飛び込んできたんだよ。驚いたのなんの」
「そんなことが……」
「私は狙われていました。輸送機も使えず偽名で逃げ回り、ようやく兵衛さんの元に辿り着いたわけです。そして彼の力を借り、フッケバインをフラフナグズにまで昇華させました」
KSX-01フラフナグズ。これはクルト一人では到底為しえなかった。
運動性を追求し、飛行能力を加え三次元行動を可能にした究極のシルエット。
逃亡先の鷹羽兵衛は幸いなことに必要なもの、そして必要以上なものを兵衛はすでに所有していた。コウと連携し、ラニウスとアクシピターの改良に勤しんでいたからだ。
コウと鷹羽兵衛、そして飛行に関しては、彼個人の技術の他に、鷹羽兵衛の友人である衣川英治の研究成果がそこにあった。
様々なシルエットの研究成果をさらにフィードバックさせて完成させた機体といえる。
その手に持つ魔剣は、選定の剣。選ばれしものしか扱えない、オーディンが英雄に与えた剣の名前を冠した。これは兵衛がコウに頼んでアークブレイドの製法を聞き出し、試作した大剣だ。
二刀を持つ紺碧のアクシビター。
太刀を腰に抜刀体勢の鈍色の五番機。ラニウスC型
グラムを構える漆黒のフラフナグズ。
三機の機体が並んだ。惑星アシアにおいて、トップクラスの性能を持ち、最高峰のパイロットが乗った機体だろう。
背後から見るメタルアイリスの者たちも気圧されている。これほどの遣い手が揃った戦場に遭遇できるなど、もう二度とないかもしれない。
この三機が揃って負けるはずがない。
そう思わせる何かがあった。
「無粋な敵がやってくるなぁ。――積もる話は後だ。行くぜ、クルトさん、コウ!」
「ええ。あなたと一緒に戦える日がくるとは。兵衛」
「はい!」
コウも心が逸るのを抑えきれない。
逢いたかった人たち。尊敬すべき剣士たちと一緒に戦えるのだ。
三機のシルエットによる、暴虐の破壊が始まった。
高次元投射装甲が紙のように、容易く切り裂かれていく。
嵐のような進行速度だ。
背後にいたバズヴ・カタとエポスが続き、ラニウスやヴュルガーが援護に入る。
マーダーと切り結ぶ三機を追いかけることに必死だ。
あのマンティス型ですら、一刀のもとに斬り伏せられている。
最後のエニュオが崩れ落ちるまでさしたる時間はかからなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「最後はアーテーか。有効打は周囲のケーレスを掃討し、対艦ミサイルといったところか」
コウが呟く。そこへアキから通信が入る。
「今からそちらに行きます。アストライアからもらったデータをもとにウィークポイントを指示します。アーテーのこの部分に斬り込み、内部を貫通させてください」
三人に映像が送られる。アーテーの見取り図に、背面部分に印が表示される。
「はは。無茶いうな、このねーちゃんは」
兵衛が薄く笑う。
「あなたがたなら出来ると信じて」
アキはにこりともせず、告げる。
危険であり、無茶を言っているのもわかる。だが、この三人ならば不可能ではないのだ。
「できますよ。確かにね。私たちならば」
クルトはその事実を認めた。
実際、彼らにしか出来ないだろう。アーテーに直接斬り込むなどという作戦は。
「剣で突き刺すならリアクターは停止します。ここをもしなんらかの形で狙い撃つことができれば、爆破することができます」
「急所、逆鱗の類いだな」
「剣で刺した方が早いと思いますが。もしここを撃つことになったら、急いで逃げてください」
背中を貫通するような射撃は、厳しい。空中から狙い撃たないといけないからだ。
「私たちは総力をあげて周囲のマーダーを掃討します」
ジェイミーが請け負った。是が非でもアークブレイドは手に入れたいと思いながら。
「わかった。頼んだ、ジェイミー。そしてアキ。あの弾薬を使うのか」
「そうです。あれなら私たちも支援できます。危険な武装ではありますが」
「アキとにゃん汰ならやれるさ」
コウは請け負った。彼女たちの援護は心強い。
この三人の誰かが、斬り込めばいい。この三人ゆえに可能なその難行に、彼らは挑もうとしていた。
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