アサルトシルエット
海岸に上陸したキモン級。
続々と展開されていく機兵戦車と装甲車。
最後にクアトロシルエットと、通常のシルエットが発進する。
シルエットはラニウスAである。パイロットの七割がネレイス。ネレイスの男女比も極端であり八割が女性で二割が男だ。
彼らもまたソピアーに開発、アシアによって生み出された人間種を再構築させた生命体。人間の倍の寿命を持ち、容姿に優れ、計算能力も高く理知的な種族だ。
とくに外見年齢は15歳前後から止まり、老化が緩やかだ。百歳過ぎても三十代にみえることから、地球からの転移者からはエルフなどと呼ばれる始末。
以前は男性はネレウスと呼ばれていたが、今は男女ともにネレイスで定着している。
もう人間との混血もかなり進んでいる。多くは人間かネレイスの種の特徴どちらかをはっきり受け継ぐ形となる。ブルーは後者だ。ハーフ、クォーターという概念はない。
彼らは自分たちと同様に生み出され、そして殺され続けているファミリアとセリアンスロープに同族意識を持っている。そして非業の死を遂げる彼らに、己のを無力を感じていた。
P336要塞エリアに、多くのファミリアとセリアンスロープが集まっていると聞いた時、ネレイスもまた、アシアがそこにいることを察したのだ。
予想通り、P336要塞エリアは明言こそされていないもののアシアの気配を感じ取ることはできた。その話はネレイス中心に広まり、また彼らが集まる結果となる。
アシアに生み出されたものの、彼女を守ることも取り返すこともできなかった。今度は守る、と。
メタルアイリスもアシアに対する信奉厚い彼らはほぼ優先して採用した。ネレイスだけで構成される部隊が数多く存在する結果になるのは自然のことだった。
そんな彼らは今、ラニウスA1に乗っている。
AK2に大剣のみ。武装は限定されているが十分だった。
ただし、ラニウスA1は従来より欠点がある。レールガンなど電力消費が激しい武装が装備できないのだ。
電磁装甲のみならず、装甲筋肉を維持するため、大量電力を使用できないという欠点を併せ持つことになった。
そのなかでも異端のネレイスがいた。名はジェイミー。見た目四十過ぎ。実際は百三十を超える。柔らかな顔付きのネレイスには珍しく精悍な顔だ。
ネレイスのなかでも歴戦の男だ。部隊ラニウス1の隊長をしているが、あまり指揮が得意ではないとは本人の弁。
彼はラニウスBに乗っている。メタルアイリス入隊後、即座に購入申請、有り余る資金を元手にラニウスB飛行型への改装を申請した歴戦の傭兵でもある。
「ケーレスを確実に。ラニウスの敵じゃない。しっかり機兵戦車についていくように」
ラニウス部隊はマンティス型と撃ち合っている機兵戦車隊に随伴し、側面に回り込み包囲しようとする別敵部隊を排除に動く。
量産機ラニウスA1。電磁装甲と装甲筋肉を持ち、射撃に対する防御力は一昔前の戦車を優に上回る。
機動力も高く距離を取ろうにも、すぐに追いつく。
コウが持っていた試製大剣は正式大剣となり、彼らの主武器だ。電磁装甲も関係なく切り裂く。
その上空に、ブルーのサンダーストームがやってきた。
60ミリ機関砲は瞬く間にアントワーカー型のケーレスを一掃する。
「ジェイミー。うちの裏ボスおいてくわ。よろしくね」
サンダー1より投下された五番機。ラニウスB型で、特殊な飛行バックパックをつけている。これは昨夜にゃん汰から送られてきたものだ。
残りのサンダーストームも同型機が投下されていく。
「ネメシス戦域を戦い抜いた伝説の傭兵と一緒に戦えるとは光栄です」
コウも聴いたことがある傭兵。彼がメタルアイリスに希望者として現れた時、軽く騒ぎになったほど。
とくにリックが興奮していた。リックも伝説の戦車乗りといえるのだが、その彼が一緒に戦いたいといったほどの男なのだ。
戦乱のアシアを三十年傭兵として生きた男。それは間違いなく過酷だっただろう。
「はは。ただの
にこりともせず言うが、それは本心に思えた。
ネレウス。本来は老人という意味だったらしい。それにかけたのだろう。
彼はコウを高く評価している。アシアを救出し、現在のメタルアイリスを創ったともいえる男。そんなことを成し遂げた男などいないのだ。
「指示をお願いしたい」
皆がコウの指示を待っている。檄かもしれない。
裏ボスと戦える機会はそうないのだ。
コウは少し悩んだが、かねてより思ったことを口にした。
定着するといいな、と思いながら。
『上空より敵の動向は確認済みだ。アーテーは約200キロ先にいる。それまでに大量にいるマーダーどもを減らす。サンダーストーム隊に続き、機兵戦車ドラグーンタンクと、兵装が強力なバトルシルエットは前線を押し上げろ!』
「こちらバトルシルエットのブラックタイガー隊、了解した!」
機兵戦車に跨乗しているブラックタイガーの隊長が応答する。
ブラックタイガーは大口径レールガンとミサイルポッドやロケットランチャーを装備。近接戦には向かないが機兵戦車と同じく強力な射撃武器を装備している。
バトルシルエットという呼称は初めて聞いたが、しっくりきた。思わずそう答えてしまったのだ。
『運動性能重視のアサルトシルエットは包囲を狙い迂回をしてくるマーダーを撃破。戦車隊の側面の一角は俺達が守る。数による包囲を許すな!』
「こちらアサルトシルエット、ラニウス隊。心得た」
ジェイミーが応える。なかなかどうして、明確に指示だ。戦車隊を包囲させるな、だ。
迂回しようとする敵を撃破するには、確かにラニウス隊が向いている。
アサルトシルエットがラニウスのような機体を指すのもわかりやすい。
二人は並び、ともに剣を構え突進する。
襲いかかるマンティス型を二人はタイミングをあわせたかのように、斬り倒す。
背後にいる大量のアント型をあっという間に蹴散らしていく。
「み、みな! あの二人を支援だ!」
背後に続くラニウス隊が我に戻り、あとに続く。あまりに鮮やかな、しかも息のあった動きに見惚れてしまったのだ。
AK2で支援射撃を行いつつ、前線を押し上げる。
二人は無理して、深追いするような形で斬り込んではいない。側面を取ろうとする敵隊列を、タイミングを合わせて斬り倒しているのだ。
通信機は一切反応していない。二人は初対面なのに、阿吽の呼吸で戦っていた。
二人にしてみれば、敵の行動の最適解を読んで、それに対応する最適解を踏むだけである。横に並んでいる男の力量は最初の一振りで理解している。
ならば自分の仕事をするだけだ。お互いの邪魔にならないように動く。マーダーが敵ではないことはわかる。
背後には仲間も居る。同型機だ。何が出来て何が出来ないか、誰よりも理解している。それは量産機として機種を統一した効果でもあった。
二人を先頭とするラニウス隊が、マーダーの数による包囲網を打ち崩していく。
「ラニウス隊すげえな! こっちも負けてられねえ!」
機兵戦車隊も舌を巻く戦闘力だった。
「突撃ってああいうのを言うんだな」
「アサルトシルエットの定義まで変わっちまいそうだ」
転移社企業に対する技術提供を機に、シルエットを取り巻く環境が激変している。
単に戦闘用シルエットという意味でのアサルトシルエットという呼称一つについても同様だ。
この日、コウが発したバトルシルエットとアサルトシルエットという言葉は世界中に広まり、後々まで定着することになる。
信頼性の高い武器を厳選し、二重の電磁装甲、外装の電磁装甲と装甲筋肉を併せ持ち、戦線に突入するラニウスは確かにアサルトシルエットという認識と合致し、海兵隊のような運用となろう。多種兵装使えるオールラウンダーはバトルシルエットの名に相応しい。
現に今も、ラニウス隊は被弾しながらも戦闘を継続している。マーダーが放つレーザーやレールガンが有効打に至っていないのだ。
揚陸部隊の目的は、アーテー到着までに少しでも敵大隊を損耗せしめることにある。
海岸沿いのマーダー軍団は、機兵戦車隊とラニウス隊、クアトロ隊に翻弄されていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「やはり海沿いのマーダーは苦戦中か。ヴァーシャ。お前の言った通りだったな」
「彼らが宇宙艦を使っているのはわかっています。搭載兵器数に限界がある以上、人、兵器ともに精鋭を揃えるのは当然のこと。重攻撃機まで揃えているとは予想外でしたがね」
重攻撃機はエアランド・バトル。全縦深同時打撃を崩すために生まれたようなものだ。冷戦終了後不要といわれたが、二十世紀における湾岸戦争で大戦果をあげ見直しが進んでいる。
逆に価値を下げたのは攻撃ヘリだった。携行できる対空兵器普及による
「主力の山脈沿いの部隊は、敵戦車部隊と正面対決か」
「あちらはあちらで手強い。七万のマーダーとアーテーと進軍させています。全縦深同時打撃はすでに崩壊していますからね。戦力は集中させています」
ヴァーシャは念のため、山脈沿い、海沿い、中央のマーダーを四万、合計十二万用意していた。そこで山脈沿いを七万、海沿いを三万、中央を二万に配置を変更したのだ。
だが制空権を握ることはできない現状、航空戦力ですり潰されているのは目に見えている。
そこで二重の防御を張った。カストルが用意してくれた人工太陽。これでマーダーを守るための空戦は避けられた。
マーダーなど消耗品で良い。その後の戦闘を見据えての処置だ。
もう一つが山脈沿いからの侵攻だ。相手の拠点がもう一つある可能性は高いが、数千メートルを超える山脈を越えての進撃は容易に対処できる。
山脈はP336要塞エリアの守りの一つでもあるが、彼らの進軍の守りでもあるのだ。到着してしまえば、山脈とP336要塞エリアの距離は多少ある。そこを三方向のマーダーで包囲してしまえばよい。
「もうすぐ、山脈沿いのマーダー部隊とアーテーが敵戦車隊の交戦が開始される。要塞エリアの数倍の硬さを持つアーテーをどう攻略するか。見せてもらおうじゃないか」
ヴァーシャ自身興味がある。
「打ち破る手段があると思うか?」
「ありますよ。まだ見ぬ強敵。五千の戦闘機群を退けた連中です。奥の手がないはずがない」
「そうか。では、破れる前提で私も見学するか。所詮、前座だ。そうだろ?」
「その通りです」
本気でこれだけの大量のマーダーを前座と使い捨てる二人に、アルベルトは恐怖を覚える。
だが、彼自身も興味はあった。
もし、あんなものをオケアノスの規制を逃れて破壊できるなら、見てみたいものだ。
核以外の大量破壊兵器も使用禁止なのだ。
予想通りなら爆撃機か郊外に臨時基地を作って、対艦弾道ミサイルを超音速で叩き続けるぐらいしかないだろう。
しかし、彼の予想は裏切られる。
山脈沿いを進軍しているアーテーが爆発を起こしたのだ。
「なんだと!」
全員が絶句する。
「アーテー1、中破しました!」
「何が起きたのか!」
「わかりません!」
「ええい。アーテー自身に原因を探らせよ!」
カストルの叫びに、オペレーターたちが指令を送る。
アーテーのレーダー性能、各種センサーは群を抜く。
「アーテー、敵攻撃地点発見しました。映します!」
そこに映し出されたのは――
「お、おのれい! また貴様かあ!」
アルベルトが絶叫する。まだ見ぬ、異質の構築技士の存在が背後にいると確信して。
「砲撃卿の名を返上せねばならんな。アルベルト」
「私が名乗った名ではないがな! すでにある称号を奪われるのは実に癪よな!」
普段は傍観者であるアルベルトが激高している。
「ヴァーシャ。あれはなんだ」
ヴァーシャも食い入るように映し出された画面を見る。
それは、大きな砲身を背負った装甲の固まりが鎮座している。
ヴァーシャも感嘆とした声をあげた。それは予想もしなかったアーテー攻略法。
「装甲列車に100センチを超える超大口径列車砲。戦車には不可能な芸当ですね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます