コックピット内ラジオ!

「はーい! グッモーニン! ダスクバスター、ならぬモーニングバスターの時間です。今日の私はコックピットの中から! 戦場から生放送でお送りいたします!」


 ブルーのやけくそ気味にハイテンションになっていた。


「コックピット内からリクエスト受付中でーす!」


 笑いを堪えるのが必死なコウが、現在サンダーストームを操縦している。

 後続には同じくサンダーストーム隊が続いている。すべてアストライアから発進した機体だ。


「建築部隊のみなさん! 徹夜作業お疲れ様です。今日のリクエストテーマは列車。ということで列車に関する曲のリクエストを受け付けたいと思います!」


多くの者がその放送を聴きながら戦闘準備を行っている。


建築部隊は嬉しそうにラジオの音量を上げる。まさかのリクエスト通過だ。

 

 伏兵たちは丘陵にいる。多くのシルエットが大口径の砲を持ち、身を伏せている。塹壕代わりに臨時の壁を展開する。進撃ではない。防衛戦なのだ。


「さっそく。では最初のナンバーは建築工兵部隊からのリクエスト! かの名曲。ジャズで『A列車で行こう』です!」


 多連装ロケット砲部隊や、榴弾砲部隊が所定の位置に移動。

 地上部隊の最初は彼らの出番。砲撃がメインとなるのだ。


 その数は多い。多くは半装軌装甲車に搭載されており、射撃後は要塞エリアへ補給に戻る。乱戦になれば、装甲車の出番だ。


「はい。次々リクエストがきていますね。次の曲はなんとエメ提督から! 大切な人と遊んだ、格ゲー列車ステージの曲です、とのこと。では次のナンバーは 『クリキントン』です。どうぞ!」


 リーコン部隊が奥深く侵攻する。軽快な音楽をBGMに。

 カスタムされた機兵戦車とシルエットが二両。カスタム内容は極限までの軽量とレーダー能力の向上だ。


 前線観測員リーコン。彼らの目的は敵の威力偵察にあらず。砲撃部隊への、誘導位置を指定することにあるのだ。


「まだまだいきますからね! おっとそろそろ攻撃状態に移ります。私のパイロットがまだ不慣れなので、ごめんなさい」


 この不用意な一言があとで問題になるとはブルーも想像つかなかっただろう。半ばアイドルと化しつつある自分を自覚していない。

 私のパイロットは誰だ、とリスナー間で話題になったのだ。

 事情を知っている者は恐れ多くて口に出すも憚られる裏ボスのことだと察する者もいたが、それはそれで問題になる。裏ボスのことになると彼らの口は堅い。


 P336要塞エリアの天蓋が開き、そこからサンダークラップ編隊が飛び立つ。

 高高度が封鎖されているような状況だったが、サンダープラップやサンダーストームは低空での戦闘を主として生み出された重攻撃機。

 今回の戦いこそ、本来の用途といえる。


「次のラジオネームは常連のウィンターツリーさんです! 子供の頃、最初に買ってもらったゲームの1stステージBGMに採用されたクラシックとのことです! シューベルト作曲『軍隊行進曲』です!」

「ふ。フユキめ。この進軍のなか、軍隊行進曲とはなかなかやるな」


 リックが好きなクラシックだ。この曲とロッシーニのウィリアムテル序曲をよく聴く。

 軽快に軍隊行進曲が流れ始めた。クラシックタイプではなく、テンポを速くしたピアノの連弾による演奏が流れ始める。

 ラジオネームでバレバレなフユキだった。


 軍隊行進曲にあわせ、戦車部隊が進軍する。

 彼らは傘形陣形を取り、各地に配置する。シルエットは背が大きく的だ。彼らが要なのだ。


 その後ろを戦車駆逐者仕様の大口径砲を積んだ装輪装甲車と装軌装甲車が続く。砲撃部隊より前へ、そして戦車部隊を確実に支援するのだ。

 同時に機兵戦車と随伴シルエットが続く。


 軽快なブルーのトークに乗って、P336要塞エリアは惑星アシア最大の陸戦に入ろうとしていた。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


 

「アーテーの詳細データ、か」


 戦闘指揮所で、バリーとジェニーは作戦を練っている。

 戦闘機部隊は様子見だ。いざとなったら低空飛行で戦闘に参戦する予定だが、今は航空戦力を温存したいところ。無理な出撃は控えている。


 アストライアから送付された惑星間戦争時代のアーテーのデータは、唸るほどだった。


「マンティス型と同様の巨大な鎌に内蔵された大型荷電粒子砲二門装備。そして最大の威力はその尻尾、とはな」

「シャコって蟷螂マンティス海老シユリンプだもんね。センサーも凄い。何より強力な二重外骨格。要塞エリアの二倍ほどの厚さに内部は装甲筋肉。関節部分も隙がない」

「どんな大砲があの装甲を抜けるってんだろうな」


 ため息をつきながら、アーテーのグラフィックを眺めた。


「荷電粒子砲は地上では制限がきつい。あんなのは超高熱の水鉄砲だからな。射程は20キロ。それ以上超えるとブラックピークで止まる。だが、直撃だと要塞エリアのシェルターを一撃で破壊できる」

「海中、海上移動できる化け物でしょ。海だと冷却と金属水素補給は海水使いたい放題」

「まがりなりにもシャコがモデルっぽいからな」


 シャコを模した兵器が地上を闊歩するなよ、と文句を言いたいほどだ。


「20キロ近付かれる前に勝負を決めないとね。先のマーダーの大軍だけど」

「時代遅れの雑魚とはいえ、数だけは多いからな」

「多分うちの主力戦車ファイティングブルの装甲を抜くことはできないね」

「エニュオもな。そりゃシルエット数機じゃまだ無理だが……」


 アキから通信が入った。


『報告します。現在P336要塞エリアを中心に三方向から進軍。主力大隊と思われる集団は3時の方向と7時の方向、そして遅れて5時の方向から。すべての方向にアーテーを一機確認しています』

「最低3機か」

「8~10時の方向は海。10~1時の方向は山脈だからね。そこから迂回し包囲、空いた穴を5時の方向から埋めるというところか」

「じゃあ、俺らは7時の方向をぶん殴るとしますかね」


 バリーがにやりと笑う。


「向こうが全縦深同時打撃なら、こちらはエアシーバトル、いや、原典通りエアランド・バトルか」

「どう違うの?」

「そんなに変わらないさ。いくら全縦深同時といっても、攻めてくる方向性はやはりある程度必ずある。そこを取り囲んでたこ殴り」

「包囲して殲滅するのはどっちも変わらないのね……」

「だが、相手が包囲網を完成する前に叩く機動力が必要だ。機動防御ってやつだな。そして機動力は兵器性能で埋める。今の俺たちだろ?」

「確かにね。劣勢差を兵器性能で埋める、か」

「そう。さっさと倒さないと長引けばアルゴナウタイとの戦闘で疲弊しちまう。速攻で決着をつける」

「マーダーに損耗率による撤退はないしね。オーケー、司令。速攻は賛成よ」


 バリーはキモン級艦内にアナウンスを行う。


『バリーだ。強襲揚陸を行い、マーダー勢力を一気に叩く。スターソルジャー隊は対地攻撃準備。揚陸部隊は機兵戦車隊と支援車両、最後にクアトロとアサルト部隊だ』


 艦内が慌ただしく動き始める。


『アストライア級航空部隊は待機で頼む。可変シルエット含めてだ。何せシルエットが全部出払う。何かあったら露払いを頼むぜ』 

『了解しました』


 エメが艦内放送を含め、バリーの指示をアストライアに伝える。

 

『揚陸作戦、開始だ。いくぞ!』


 司令と思えぬ荒っぽい号令とともに、キモン級は陸を目指し始めた。

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