ドリル編隊

「敵部隊、撃滅確認。後続部隊、そろそろかな」


 ジェニーがモニターを確認する。


「到着まであと六分程度」


 モニタに現れたヴォイが返答する。


「いくぞ! ドリル編隊。フォーメーションVだ!」

「オッケー!」


 ヴォイが絶叫し、彼らが駆る兵器が映し出される。

 それぞれ乗っているファミリアが返答する。


 それはVの字型に隊列を組んだ、ロケット噴射して推進するドリル搭載兵器の集団だった。

 熊であるヴォイを筆頭に、狸、アライグマ、レッサーパンダ、スカンクで構築されている、ドリルをこよなく愛する作業人員たちによって構成されたチームだ。


 以前作成した坑道掘削装甲車をさらに小型化、高性能化。移動用ブースターと車輪を装着したタイプだ。

 全長六メートルを超える巨体を支えるためのトレーラー型ブースターは、宇宙ロケット運搬車と、地上超音速車をもとに作成された。

 二十輪に及ぶ巨大な車輪と、背面に装備された巨大なブースターで敵地に急行。現地でブースターをパージして自前の履帯で移動を行い、シールドマシンに変形掘削し、侵入経路を作るのだ。


「各機散開! 設定されたポイントを侵攻せよ!」

「了解!」


 ドリル戦車はそれぞれ目的の方角に散る。


「壮観ね、ドリル戦車」

「誰も坑道掘削装甲車って言ってくれないからな。ドリル戦車方面に全振りした」


 プラズマ焼却炉を利用した、プラズマレールガンも装備してある。

 レールでは無く、プラズマガスに電気を流しレール変わりにして、磁性体を加速させる原理のレールガンだ。


「なんで拗ねてるのよコウ君!」


 コウのため息交じりの呟きにジェニーが焦る。


「実際いい手だと思うよ。ドーム内の敵は防衛に戦力を振っている。そして一カ所ならそこを集中的に叩かれる。だけど、五カ所なら?」

「戦力を集中させてもいいし、分散させてもいい。バランス問題だけどね。だけど、敵も味方も五択の読み合いに持って行ける」

「地中対策は難しい。敵はドーム内で籠城戦よね」

「次の一手は、フユキさんだな」

「こちら工兵部隊。作業は順調ですよー」


 敵が籠城するなら、正面の障壁を破壊するのだ。必ずしも地中の坑道から潜っていく方法だけが潜入手段ではないのだ。

 通常は数時間はかかる作業だが、今や彼らには様々な手段がある。一時間もかからないだろう。


「全軍ポイントBへ移動。そこから、どのルートを使うか作戦を説明します」


 ジェニーの号令に、メタルアイリスのアシア救出部隊は移動を開始した。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「同時トンネルだと!」


 MCSのなかでパウロスが絶叫する。


『はい。敵勢力はシェルター外から五カ所、地面に潜ったことを確認しました』

「予想地点は?」

『これらの通りです』


 画面に映し出されたマップは広範囲にわたる。


「ほぼ半域じゃないか!」

『五機のドリル戦車が作る出口は一つとは限りません』

「そんな時間ないだろう」

『各機が二カ所出口を作っても、十個の出口です。戦力を分散させ見張るか、集中して対策を取るかです』

「分散させろ! 戦闘が起きた位置に戦力を集中させればいいだろ。数はこちらが圧倒的なんだ!」

『――緊急警告。正面シェルターを敵勢力が破壊を試行しているようです』

「シェルターの破壊なぞ、数時間はかかるだろうが!」

『シェルターの破損具合から、あと四十分後には破壊されると思われます』

「あ……あ……」


 あまりのことにパウロスは言葉に詰まる。


「つまり坑道は陽動だな。わかった。各地に見張りを置いて、正面を主に警戒せよ!」

『了解いたしました』


 そして彼は思い知ることになる。


 五つのトンネルのうち、最後に掘られたものと、その前に掘られたトンネル。その二つのトンネルからメタルアイリスの部隊が飛び出たことを。

 二手に分かれた部隊はすぐに合流し、手薄なコントロールセンターに殺到した。

 慌ててマーダーたちが追いかける。


 市街地で各個撃破され、あっという間に千機以上のマーダーは数を減らしていった。

 地下にいるパウロスは、コントロールセンターから壊滅の方を受け、言葉にならないうめきを漏らすのが精一杯だった。


 市街地での戦闘が発生している間に、コウとジェニーはアシアに教えてもらった隠し通路を使って、封印区画へ向かっていた。

 コウと一緒にいることでジェニーが妨害されることもなく、二人は最深部目指して進んで行く。


通路の先に、巨大な区画が現れる。

 最深部に通じる道に、シルエットが立ちはだかっていた。パウロスだ。

 彼の機体はアンティーク・シルエット、アルマロス。両腕に見たこともない、長砲身の武器を構えている、美しい流線型のシルエットだ。


「コウ君。あの機体!」

「わかってる。アンティークだな。ストーンズ、だろうな」

「ああ、逢えた。ようやく、逢えた。殺してやる…… ストーンズ!」

「ジェニー?」


 ジェニーが見たこともない表情で殺気立っている。目が血走って、今にも飛びかかりそうだ。

 タキシネタはすでに戦闘態勢。背中の巨大なバックパックが水平になっている。


 惑星間戦争時代のシルエット。その戦闘能力は凄まじい。


「貴様が侵入者か。どちらかが構築技士だな? 投降しろ。命だけは助けてやる」


 共通回線で、二人に呼びかけてくる。


「それで生きたまま肉体を奪おうって奴か? ごめんだ」


 コウがそのまま返答し、ジェニーの顔が驚愕に歪む。彼女含むネメシス戦域の人間の多くは半神半人の仕組みは知らなかったのだ。

 この事実はアシアと会話できる、一部の構築技士しか知らない。


「そうか。知っているか。禍根は断たねば。私の機体一機で、惑星アシアのシルエット二十機分に相当するんだぞ」


 言葉に嘘はないだろう。

 アンティーク・シルエットは戦闘機であり戦車であり、人型なのだ。


「ジェニー。あいつのとどめは……」

「何言ってるの。確実に倒す。私かあなたで。それだけよ」

「わかった」


 ジェニーは自らの手で、という思いはなく、確実な抹殺を望んでいる。

 深い事情があるのだろう。コウはその殺意を否定しない。


「さあ。始めよう。すぐに床に這いつくばらせてやる。――瞬殺だ!」


 パウロスの絶叫が、戦闘の幕開けとなった。

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