瞬殺
ジェニーのタキシネタが一歩前に出る。
五番機は一歩下がり、柄に手をかけ待機した。
襲いかかるアルマロス。
その速さはデトネーションエンジンで加速したかつての五番機より速い。
だが、ジェニーはそれを上回る速度で加速する。
「なっ!」
「さすがケリーね。相手の動きについていける、最高のシルエット!」
アルマロスは武器を構え、タキシネタを狙う。
光線がタキシネタに触れた瞬間、表面は赤熱化するが、タキシネタは回避行動を取りつつアルマロスに近付こうとする。
高速機動するタキシネタは、レーザー照射による加熱、装甲を融解するまでの時間を与えさせない。
「なんて出力のレーザーガンなの…… さすが惑星戦争時代の武器ってところか。だけど、タキシネタならっ!」
「ばかな! 普通ならあの一撃で溶けているはずだ!」
お互い、予想外の戦闘能力に驚愕する。だが、新世代シルエットは機動力、防御力ともにアンティークに追随していたのだ。
ケリーが、ジェニーのためだけにカスタマイズした、究極の速度特化シルエット。尖ったコンセプトの機体を作らせたらこの男の右にでるものはいまい――
ジェニーは高周波ブレードを取りだし、一気に斬りかかる。
「は。ならば、そこのでくの坊から減らすだけだ」
ジェニーと強敵とみたパウロスは、アルマロスを五番機に向かわせる。
このアンティーク・シルエットはさらなる加速。地上域で音速を超えた、ありえない運動性を誇っていた。
「コウ君!」
まさかいきなりコウを狙うとは思わず、慌てて姿勢制御する。
大型バックパックの偏向推力ブースターによって加速、飛行能力は高いがどうしても小回りは利きにくいのだ。
アルマロスは背面から二本のサーベルを取り出す。
惑星間戦争時代の超硬質材を切り裂くサーベルだ。
五番機はさらに身を屈める。腰の鞘が水平となり、迎撃態勢を取る。
アルマロスが浮いた――
シルエットを超える高さに浮かび上がり、一気に降下し五番機を狙う。
鈍い切断音が鳴り響く。
五番機は一歩踏み出し、弧月を振り終えていた。
「え」
袈裟切りにされ機体が両断されたアルマロスが地面を這いつくばった。
五番機は鞘から抜いた刀を鞘引きし、鞘を水平に引く。これによって刀の軌道は扇型となる。
同時に鯉口の角度を斜めにし袈裟斬りの軌道に持っていく。こうすることで縦横の空間軸へ、強烈な斬撃を放つことができる。
いわばアルマロスは、刃の軌道に自ら飛び込み、両断されていったのだ。
「なんで…… なんで腰の刀で肩から両断され……」
理不尽な斬撃に納得いかない不満を漏らしつつ、パウロスは事切れた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
コウは、地球にいたときのことを思い出していた。
鷹羽兵衛の孫であり、剣術で知り合った鷹羽修司。プライベートでもよく遊んでいた。
二人は好きな格闘ゲームで遊んでいた。ふと、修司が呟く。
「剣術と格ゲーは似ているよな」
「そうですか?」
歳が上なので自然と敬語になるのだ。
「ほら。ゲームは技の判定が強くて、発生が速くて、隙が少なくて威力が高い技が強いじゃないか」
「そうですけど、そんな都合のいい技、あんまりないですよね」
「持っているキャラが強キャラだな」
侍をモチーフにしたリメイクゲーを二人は遊んでいる。修司は二刀の隠密剣士、コウは居合い系キャラを嗜んでいる。忍者のほうが多い不思議なゲームだ。
「剣術は速さ、隙の少なさ重視。居合いはタイミングと判定の強さ重視、のように思える」
「それは、あるかも。間合いが計れないからこそ居合いが生きますし」
「ま、うちのじいさんのような達人だとそんな小細工関係ないけどな!」
「七段でしょ、兵衛さん…… ってその当て身痛すぎ! 昇り系取らないでください!」
「なんでこの中段判定なんだよ! それにそのキャラのしゃがみ大斬り、でたらめな当たり判定すぎるだろ!」
「イミフな当たり判定ですから、これ。インチキ対空といってください」
かつてフユキが解説したことがある。
居合いは一工程多い。抜く、という動作が加わるからだ。振り下ろし、切り上げ。抜いている構えからの技を派生させるには、やはり一手多いことは不利だ。
だが、居合いにも利点はある。鞘の裡。いわば間合いを測らせないことによる、抜くタイミングから勝負を仕掛けるのだ。
抜刀から横斬りにすれば、技は速く抜ける。袈裟切りを行えば出は遅いが襲いかかる相手はかってに巻き込まれる。
速さを追求すれば、鉄砲の如くと言われる斬撃となる。居合いが飛び道具ともいわれるのは、抜き撃ちの疾さを極めたものが発する攻撃からだ。
剣術の剣の軌道は、攻防一体となっているのだ。それは居合いに限ったことではない。だが、鞘というギミックを利用することによってタイミング、軌道を自在に変えることができるのは大きな利点。
抜刀の一撃で倒せない場合は、剣術の勝負となるが、そも居合いは平時の兵法。だからコウは補う意味で剣術を学んでいたのだ。
居合いという武道一つとっても流派によって目指すべき指向性は違う。より疾く抜き撃つもの。技の正確さを極めるもの。隙を極力なくし、最適化の動作を行うことを重視するもの。他にもあるが、コウの流派は一番最後を重視していた。
敵の動きはあまりに素人すぎた。フェイントも駆け引きもなく、タイミングさえない。ゲームのできの悪いCPUのほうがまだましな動きをするだろう。超反応なクソゲーは存在するが、敵パイロットがそこまで対応していない。
どんなに速い攻撃でも、タイミングさえ読めれば対処は簡単だ。
判定の強い攻撃を、置いておけば良い。
アルマロスを両断した攻撃。それこそ、修司が見ればでたらめな当たり判定に巻き込まれていると大笑いすることだろう。
腰にある刀の斬撃が、斜め上から振ってくるとは思うまい。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「瞬殺だね」
ジェニーがぽつんと呟いた。装甲が硬いアンティーク・シルエットとは長期戦を覚悟していたのだ。
「勝手に飛び込んできたからカウンターになったみたいだ」
アンティークの加速速度も凄まじかった。高度の関係で超音速には届かないだろうが、時速1000キロを超える猛スピードで攻撃圏内へ飛び込んできたのだ。
その自機の加速度ゆえ、斬撃のダメージも凄まじかったに違いない。
「拍子抜けしちゃった」
「なんか、ごめん」
「いいの。確実にとどめを刺せたし」
二人は背後の残骸をそのままに、最深部へ向かうことにした。
この残骸だけでも莫大な金額になるが、今はアシア救出が最優先だ。
そこへアシアから通信が入る。彼だけのようだ。
『コウ。私を助けたら、そのアンティークのMCS、後部座席に大きな装置がついている。そこからカレイドリトスって石が入っているから、取り出して」
「わかった。機体も回収しようか。もう少しだ。待っていてくれ、アシア」
『うん! ありがとう、コウ!』
コウたちは封印されていたアシアの分体を解放し、アルマロスの残骸を回収する。
「なんでMCSが生きているのに、パイロットが死ぬんだ」
「奴らはそういうふうに出来ているみたいよ。機体が行動不能になったら死ぬみたい。捕虜対策かな?」
「そっか」
死ぬなら仕方ない。アンティーク・シルエット相手に余裕などないのだ。
ジェニーが上半身と飛ばされた左腕を、コウが下半身を担いで、脱出する。
「メタルアイリス、アシア救出部隊に告ぐ。作戦は成功。全軍撤退開始!」
歓声が湧き上がり、
五番機の手には、MCS後部座席にあった装置が握られている。
『コウ、ありがとう!』
「よかった。これで二人分のアシアだな」
『ふふ。二人扱いなのね。嬉しい』
「アシアもヒトだからな」
『うん。ほんとにありがとう。でね、五番機が握っている、それなんだけど』
アシアは語り始めた。
その事実は恐るべきものだった。
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