高機動可変型機体
尖鋭的な形状の戦闘機が四機、多目的戦闘機が六機目的地へ向かっている。
要塞エリアや防衛ドームの過度な接近は禁物だ。
オケアノスが管理する衛星砲から、人類への居住区攻撃と判断されかねない。攻撃を受けるとひとたまりもないのだ。
宇宙より降下する巨大マーダーがいったん陸地へ降下して侵攻するのも衛星砲対策である。巨大隕石から惑星を守るため、地球から人類を転移させた超科学の防衛網は今も盤石だ。
「敵ケーレス迎撃に上がってきます!」
「偵察機の報告通りね。初めて見るドラゴンフライ型。敵も空中を意識し始めたってことか」
ついに空が戦場になりつつあるのだ。
ドラゴンフライ型がモデルであるトンボを模したものならば、機動力は相当高いだろう。
「ドラゴンフライ型、十二機確認。航空撃滅戦開始」
「了解!」
尖鋭的な戦闘機は人間が、多目的戦闘機にはファミリアが搭乗している。
大型機はシルエットの拡張機能で動いているのだ。
「我々はケーレスの地上対空部隊を攻撃します」
「了解。こちら、ドラゴンフライ型と交戦開始」
ファミリアたちでも対地攻撃能力を有する機体は、地上のケーレスに対し攻撃を向かう。
対空レーザーやレールガン。ネメシス戦域から航空勢力を一掃した超音速域の火力はいまだ、敵味方ともに所有しているのだ。
遠距離からの空対空ミサイルを発射。射程は100キロ程度。
ドラゴンフライ型は次々破壊されていく。
「思ったと通り安普請ね。――こっちが過剰戦力か」
ジェニーの予想通り、バッテリータイプだった。
本来は数を揃えるタイプの兵器なのだろう。
しかし、ジェニーの機体のアラームが鳴り響く。
別のドラゴンフライ型が三機、急上昇してきたのだ。
「あの動きは戦闘機じゃ無理ね!」
ドラゴンフライ型は ジェニーの背後を取り、対空ミサイルを放ってくる。
「対空ミサイルまで搭載してるってか!」
どんな回避行動を取ろうとも、ミサイルの回避そのものの回避は難しい。
ジェニーは機体の電磁装甲を展開。プラズマを機体にまとわせる。
近付いてきたミサイルを誘爆させるのだ。レールガンや貫通特化の実弾兵器には効果は薄いが、レーザーやミサイルには有効な防御手段といえる。
欠点は、周囲に人が居ると確実に死ぬということ。地上での使用は非常に繊細な取り扱いが要求される。
「新型の戦闘機を甘くみないで?」
忌々しげに呟くと、回避行動を取りながら、新たに対空ミサイルを発射。
全方位交戦能力を所有する対空ミサイルは、推力偏向ノズルで敵を追尾。背後や真下にいる目標も確実に捉え、撃破する。
残りのドラゴンフライ型も次々と撃破されていく。
残りの航空勢力はなさそうだ。
「航空優勢を確保。こちら警戒態勢に移行。背後よりサンダーストーム隊と輸送部隊、接近中」
「了解。私達は先に地上で待っているわ」
ジェニーたちは編隊を揃えつつ向かう。戦闘機を変形させた。
戦闘機形態こそ、大型バックパックそのもの。戦闘機底面よりシルエットが姿を現し、飛行機そのものが折りたたまれ、大型のバックパックと化す。
シルエット本体とほぼ同等な大きさ。形状は確かに縮んだのに、頭頂部を超える先端に、足下に届きそうなほどの兵装だ。
この新型シルエットこそ、ケニーが彼女のために作ったフェザントの後継機。
美しく、より高く、より速く――SAR-F12タキシネタ。
専用バックパックを前提とした多目的戦闘機機能力を持つ高機動可変型シルエットだ。
構造としては戦闘機を背負っており、シルエット本体に収納されている。シルエットとして活動するときは、戦闘機部分が大型推力偏向スラスターに可変するのだ。
次々と輸送機、そして大型攻撃機サンダーストームがシルエットを運ぶ。
これでシルエット十二機、戦車八輌。そして――地面を疾走してきたクアトロシルエット二十機。セリアンスロープたちが駆るこの騎兵隊は、不整地踏破性に優れており、合流も用意だった。
「揃ったわね。あとはドリルのあいつ次第、か」
「そのうちやってくる」
「第二陣の輸送部隊も間に合ったようね。では行きましょうか。――第二次アシア救出作戦、第二段階へ移行。全軍進軍せよ!」
迫り来るマーダーたちを視界に捕らえる。
戦車部隊の号砲によって戦いが幕を開ける。
数は敵が十倍近く。戦力の質はこちらが圧倒的。
サンダーストームが発する対地攻撃を受け、ケーレスたちは瞬く間に数を減らしていった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「管制センター。援軍は?」
『現在エニュオ三機。テルキネス五十機を用意しています。五時間後到達予定です』
「遅い! 二時間以内だ!」
『物理的に間に合う味方勢力はいません』
画面に最寄りの戦力が映し出される。
援軍を出してくれる各地の要塞エリア跡地が表示された。
「くそ。みな己の保身ばかりか。ここが落ちたらアシアが奪われるのだぞ……」
男は己のことは棚にあげ、仲間に対して罵倒する。
人間不信で、居住区画の人間の自由意志はほとんど認めていない。
マーダーたちの整備用に飼い慣らしているだけだ。
つまり、傭兵部隊はいない。
多数のマンティス型やテルキネスで十分と踏んでいた。その数二百。それらが指揮するアント型は千を超える戦力だ。
だが、敵は数が少ないものの、高性能な機体を所有しているようだ。とくに航空戦力を有する傭兵など聞いたこともない。
高次元投射装甲を持たないアントワーカー型など、足止めにもならないのだ。
現に、瞬く間に二百を超すアント型が撃破され、敵の被害はなし。驚異的な戦力だ。アシアごと制圧が目的なのだろう。
この拠点を奪うことによって、ストーンズ勢力下に突然人類の拠点が生まれるのだ。
普通なら奪い返せばいいが、敵はアシアを味方につけている上、個々の戦闘力が高い。簡単に奪還とはいかないだろう。
パウロスはモニターを見て気付いた。
「ん? なんだ。あのシルエット…… 胴体が馬のように。四脚型だと! おい! シルエットは四脚型など不可能だろうが!」
『はい。不可能です』
「あそこにあるぞ! 惑星間戦争時代ですら存在し得なかった兵器がな!」
『解析不能です。あのような形状のシルエットを作っても、人間には操作不可能です』
「テレマAIどもか!」
『ファミリアには人間の四肢を操作する権限は発生しません』
「可能性は?」
『貴方はその質問に答える権限を持ち合わせていません』
「所詮C級構築技士の体か。くそ」
彼の評議会での立場は上のほうだ。構築技士の体を欲し、認められた。
だが、望んだB級ではなくC級構築技士だった。
BとCの権限は大きく異なる。パウロスはそれが不満だった。
「くそ。何故だ。何故私が管轄しているときに、このような理解不可能なことが起きる……」
苛立ちを隠そうもせず吐き捨てるパウロス。
「敵の戦略は読めている。どうせまたモグラのように穴でも掘って侵攻してくるのだろう。ならば話は簡単。もぐら叩きだ。敵の数は知れている。数で押しつぶせ!」
パウロスが管制センターのAIに叫ぶ。
「最後の砦は私自身だ。私がアンティークで出る!」
パウロスは自らの出撃を決めた。
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