閑話 ランチタイム

現在、アルゲースの足下で、みんなでランチ中だ。


 最初はコウがアルゲースと話しながら、ヴォイと二人で食事を取っていたのが最初だった。

 コウがレーション、ヴォイは蜂蜜ドリンクだ。

 そこへエメがサンドイッチ持参でやってきて、そうするとにゃん汰とアキもめざとく見つけてやってきた。

 皆で食べようという話になり、週一程度の集まりになった。みんな一緒が大事なのだ。


 今はポン子が全て段取りしてくれている。ワゴンカートに豪勢な料理が並んでいる。

 アルゲースもこのときばかり作業を止め、基本は沈黙しているのだが、時折、皆と会話に参加するようになった。


「今日はおにぎりかー。お、卵焼きと唐揚げ!」

「コウ、本当にその二つ好きですよね。私ももう作れますよ!」

「作ってくれたら食べるよ」

「私も作れる!」

「うちも作れるにゃ」

「いつでも歓迎だ」


 他愛ない話をしながら、食事をする。

 アキとにゃん汰は箸の使い方はすぐにマスターした。エメはさすがにちょっと苦戦したが、今はなんなくこなしている。

 むしろ箸使いが一番なっていないのはコウかもしれない。


「メタルアイリスの大規模募集は、要塞エリアでやるっていうじゃないか。お祭り騒ぎになりそうだな」

 

 ヴォイが蜂蜜をスプーンで食べながら言った。


「どこでやるかはまだ決めていない。傭兵機構を通じて募集する予定。まだまだ先の話だけどね。セリアンスロープやファミリアの比率が高い要塞エリアを選びたい。ぜひこちらで、と各地の要塞エリアから招致されているらしいけど」

「そりゃエリア長だって、今のメタルアイリスとは仲良くしておきたいだろうさ」


 ヴォイからみても、現在のメタルアイリスの戦力は高い。

 喪われた技術をふんだんに使った試作兵器群に、その兵器からの量産化。

 さらに今までシルエットに乗れないとされていたセリアンスロープたちを作業人員にできるのだ。


「あっちの思惑はどうでもいいんだけど、市街地にいくことがあったらみんなで買い物行こうか」

「やった」

「いいんですか?」

「嬉しいにゃ」

「あー、俺はパスするぜ。女の買い物に付き合うと長いからなあ」


 何か覚えがあるのか、ヴォイが顔をしかめて呟いた。


「はは。そう聞くよな。じゃあヴォイには留守番任せた。いつでも合流していいからな」

「おう。任せておけ。助けにいってやるよ」

「そんなことしないもん」

「そうですよ、むしろコウの行きたいところを」

「ヴォイなんていつもコウと一緒に居るにゃ。たまには寄越すにゃ」

「おう。思いっきりコウを連れ回せ」


他愛のない話も一段落すると、コウは立ち上がって、皆に告げる。


「じゃあ、上行ってくるよ」

「俺もいかないとな」

「私、まーちゃん手伝ってくる」


 上とはシルエットベースのことだ。コウとヴォイは立ち上がり、奥へ消えていく。

 エメも整備のため、立ち上がった。

 ぽん子は後片付けのため食器を回収して戻っていった。


 残されたアキ、にゃん汰、アルゲースはそのまま座り込んで話を続けていた。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「アルゲース。あなたがここまで人間に肩入れをしたところをみたことがありません」


 アキが寡黙な一つ目巨人に語りかける。


「アークブレイド――惑星間戦争時代の超硬ブレード以上の品。あなたが、試行錯誤してまで作るなんて」

「今まで私に命じて色々なものを作らせた人間はいた。だが、私と一緒に物作りをしよう、などと言った人間は初めてだ」

「私達もです」

「失敗した。怒られる、それはいい。だが、コウは怒らない。自分の知識の範囲で、一緒に考えてくれる。隣でじっと、私の作業をみている。それがどれほど嬉しく、心強いか。私はただの作業機械なのにだよ」

「コウはそう思っていません」

「その通り。彼はそう思っていない。私の横に並び、私と同じものを見て、私と共に居る。だから私も彼をただの人間と思わない。それだけのことだよ」


 アルゲースの言葉は、無機質だ。そのはずなのに、優しい。


「君たちこそ、凄いじゃないか。クアトロ・シルエット。革命なんて言葉では生ぬるい。一種の進化だ」


 アルゲースの言葉に、にゃん汰は満足そうに目を瞑り、頷いた。


「はい。貴方の言うとおり、進化です。私達は人間と同じ機能を持ちながら、欲張って動物の機能を取り入れられ、フェンネルOSに弾かれた」


 にゃん汰が、過去を追憶しながら語る。


「そして後継のネレイスが生まれ、彼らがシルエットに乗れることで、私達の存在意義は人間の人口増加、はん――綺麗な言葉でいえば婚姻用ぐらいでした。中途半端すぎたのです」

「我らセリアンスロープがどれほど、我が身の立ち位置に悩んだでしょうか。ネレイスにもファミリアにもなれない、有機生命体……」


 アキが言葉を継いで、語る。コウに自らを不要品と口走ってしまった過去を思い出す。


「私は――私とにゃん汰は、もうコウから離れられません。クアトロ・シルエットに乗るたび、いや見るたびに、このシルエットがどのような経緯で生まれたか。私達のためなのですから」

「シルエットの本質は、兵器では無く、人間の拡張性。クアトロは間違いなく、私達さえも拡張してくれる…… 私達を通じて、コウはセリアンスロープに存在意義を与えてくれることになる」


 二人、いや三人の思う先は一つ。


「セリアンスロープ。その中途半端な存在。ここまで真剣に向き合ってくれたことなんて、ただの一人でもいたのでしょうか」

「いなかった。少なくとも、私達の周りではね」

「元気なお前たちを見れて私は嬉しい。本当はそのことでもコウに感謝したいぐらいだ。アキ。とくにお前はな」

「コウには内緒ですよ?」

「わかっている。それに、クアトロは私も楽しみなのだよ。普通のシルエットでは作れない武器を作る必要があるからね」

「新型ケーレスにあのランスはとても有効でした!」

「よし。では次は我々の本分の話をしよう。クアトロ・シルエットの姿勢制御について二人の見解を教えてくれ。近接兵装開発に役立てたい」


 三人は兵装開発用ロボットでもある。

 コウが知る由もない、真剣な表情で兵装について語り合う三人の姿が、そこにあった。

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