電撃戦

戦場に大鴉は嗤う

 K113防衛ドームは敵の侵攻を受けていた。

 マーダーのような無人の殺人機械ではない。

 ストーンズ所属のシルエットだった。


「なんだ…… あのシルエットは……」


 防衛部隊に所属していた、アンダーグラウンドフォースの傭兵が呟く。

 見たこともない、漆黒のシルエットに蹂躙されたのだ。


「う、速い。た、たす……」


 狂ったように機関砲を乱射する、前方の味方。

 あっという間に大剣で切り伏せられた。


 無数に転がる装甲車と味方のシルエット。

 敵はわずか十二機のシルエット。


 僚機のライフルが火を噴く。敵シルエットに直撃するが、装甲表面に火花みたいなものが走り、弾痕が残るだけだった。


「まさか、ありゃ最新鋭の電磁装甲かよ!」


 機動力も彼らのシルエットの比ではない。

 異形な脚はカラスのようなつま先をしている。


「く、来るな!」


 叫びながら応戦するも、僚機の上半身がない。腰辺りで両断されている。

 敵機は運動性能特化しながらも、非常に硬いのだ。


 警告音が鳴り響く。

 背後を取られたのだ。

 

「なんだと!」


 そこまで機動力に差があるのか、とパイロットは自嘲する。

 味方が崩壊した今、勝ち目はないだろう。


 圧倒的な機動力の差。彼らの多くは銃器を使わず、その手にもった大剣で味方を倒したのだ。


「チェックメイトだ。傭兵さん。――投降したら命まで取らねえぜ」


 投降を呼びかける男。

 バルドであった。


「……投降する」


 味方も殺された者は少ないようだ。無造作に切り捨てられてはいるものの、MCSが無事なものは生きている。


「レイヴン部隊。コントロールセンターを制圧せよ」

「は」


 バルドの命令に、背後の漆黒の機体が駆け出す。


「やりましたね。隊長」


 副長のマイルズが声を掛ける。


「三つ目の防衛ドーム制圧だ。少数部隊でな」

「レイヴン部隊、いけますね」


 マイルズたちが乗る機体。

 それは、クルトが作り上げた量産型ヒュッケバインのバズヴ・カタのリネーム機。強奪したクルト・マシネンバウ社の工場をそのまま使ったものだった。



 工場のデータの多くは廃棄されていた。

 だが、アルベルトがデータ復旧に成功したのだ。戦場で奪い取ったフッケバインの機体や、試作パーツの残りから解析。あとは試行錯誤で探り当てた。


「ああ。そしてこのコルバス。フッケバインの再生機らしいが、性能も桁違いだぜ」


 バルドが乗る機体こそ、フッケバインの復元機。レイヴンとは一線を画す能力を持つ。

 A級構築技士がいなければ解けない封印は、ストーンズの使者が解除していった。今まではできなかった芸当だ。


 とはいっても様々な組み合わせが解かれただけ。それを構築せねばならなかった。

 フッケバインの試作パーツを元に復元され、外観の形状は大きく変わった。だが性能は近い。耐久度においてはオリジナルを上回っている、アルベルトの天才的な能力が生かされた。


 だが本人が納得しない。性能含めて完全再現を試みるアルベルトを、必死で妥協させたのだ。

 現在は半神半人用に、確保された金属水素炉を用い少数量産体制に入っていると言われている。


「後続の重戦車部隊と、破城車両、そろそろ到着します」

「あの砲撃狂に感謝だな。防衛ドームぐらいの壁ならぶち破ってくれる」


 人類側が多くの技術を得たように、彼らから強奪した兵器でストーンズ側の傭兵も、強化されていった。

 金属水素炉は貴重だ。彼らに与えられた十二機のレイヴンとコルバスは、破格の待遇だ。敵の構築技士と実際にやりあったことから、ストーンズ側の信頼を得られたことが大きい。


「俺たちだけで防衛網を余裕で突破できた。だが、これらの戦力を持った敵がいるってことだな」

「こちらはストーンズ指揮下にあるため、正式な軍隊のようなものです。敵にそれだけの財力を持つ者がいるのでしょうか?」

「いるさ。メタルアイリスって連中がな」

「確かに我らは負けました。ですが、あの時はストームハウンドとの連合軍。一緒になったところで、この戦力に匹敵するとは」

「それ以上さ。何せ、このコルバスの技術を引っ張り出した構築技士がいるんだ。あいつらは。金なんざ唸るほどもってんじゃねえかな」

「本気でいってますか?」


 上官がそこまで敵を買うなどとは珍しい。

 あの時、彼らは撤退した。少なからず消耗していたはずだ。


「アルベルトのおっさんの受け入りさ。だが、俺もそう思っているぜ。コルバスほどの機体を持っているかはわからないがな」

「できるだけやり合いたくないですね。こんな風に楽に制圧できる戦場であって欲しいものです」

「そういうな。これだけ楽勝だと張り合いもなくなる」

「隊長は……」

「おっと、コントロールセンターの制圧が完了したそうだ。これでストーンズ様のマーダーも無しで人類側の拠点を奪ったことになるな」


 バルドは遠くにそびえ立つコントロールセンターをみて呟いた。

 圧倒的な戦力だった。


「捕虜にした傭兵は、こちら側の傭兵と」

「そういうこと。金、飯、女。これだけ与えたら、大抵なびく」


 殺した方が早いが、傭兵を仲間にして戦力を増やす必要がある。

 

 ストーンズ側もまた、確実に戦力を精鋭化させるために動いているのだ。


「アレオパゴス評議会に連絡しよう。まだまだ何か企んでそうだ。しばらくは使いっ走りだな」


 バルドが嬉しそうに呟いた。

 そこには戦場があるのだ。腐肉を喰らう、大鴉の群れにはちょうどいい。

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