セリアンスロープたちの歓喜
キモン級は砂浜に揚陸中だ。
今回戦闘を行った部隊を回収作業を行っている。
防衛ドームより、二両のハンガーキャリアーが戻ってくる。
シルエットは搭載していない。乗っているのは人間だ。
避難民を回収してきたのだ。若い男女やファミリアが多い。
その光景を戦闘指揮所で確認するコウたち。
「D516要塞エリアのクルト・マシネンバウ社の社員と関係者たちね。元エリア長やスタッフも」
「彼らを狙ったという憶測が成り立つ以上、俺たちのところに来た方がいいかなと」
「防衛ドームのドーム長から移動を促されていたみたいね、彼ら。やるせないけど」
今まで、ストーンズのマーダーが追撃を行った例は希だ。
転移社企業が目的であり、彼らを狙ったものであると考えたほうが自然だった。
「落ち着ける場所が出来たなら、そこに移動してもらう。それまではこちらで」
「そうね。うちも人不足だし。構築技士もいる。助かるのは間違いない。水中航行できるキモン級の追跡までは出来ないでしょうしね。もう追われる心配はない」
「それが何よりだ。彼らも協力するといってくれている」
構築技士の資格さえあれば、小さな工場や機械は動かせる。
コウが一括で見ているとはいえ、細かい指示などはさすがに手が回らない。
そこを手伝ってもらえるなら、大助かりなのだ。
「作戦は成功。防衛ドームからは感謝の言葉が届いているわ。今回限りですと伝えておいた」
「正式な依頼じゃないから報酬は出さなくていいし、体の良い厄介払いも出来た。そりゃ連中も大喜びだ」
ロバートが肩をすくめて言う。
報酬はオケアノスから出るものの、本来狙われた防衛ドームも出すべきなのだ。
「防衛報酬についてはクレームを付けておいたよ。さすがに救援依頼を出しておいて傭兵機構を通さない正式依頼じゃないから、は通らないしね。次はお断りする事も、っていったら慌てたけど、私も通信切っちゃったし」
「悪しき前例になりかねないからな」
ひとまず防衛に成功したものの、防衛ドーム側の対応も酷いものだった。
傭兵機構を通していない依頼なので報酬の支払いは無しと通告してきたのだ。エニュオ撃退によるオケアノスからの破壊報酬をあてにしたのだ。
こんな話がまかり通るなら、あらゆる勢力が無料でメタルアイリスに救援依頼を出してくるだろう。悪しき前例とは、そういう懸念のことをいっているのだ。
「戦闘データは取れた。まだ十分な戦力とはいえないが、敵に対抗する力は十分にあると思う」
「エニュオを二回撃破したアンダーグラウンドフォースなんてそういないからね」
「機兵戦車の運用は効果的だったな。合体中は良い壁にもなっている」
リックも頷いた。機兵戦車は基本ファミリアであり、彼らの評判はすこぶる良かった。
「輸送ヘリや重攻撃機も効果的に運用できた。やはり部隊の展開の速さは重要なのだろう」
「そうだ。思い出した。何、あのセリアンスロープのシルエット! いつの間に積み込んだの! いつできたのよ!」
ジェニーがコウの頬に手を伸ばす。慌ててブルーの後ろに隠れるコウ。
「ぶっつけ本番だよ。出撃する間近に、セリアンスロープたちの訓練が終わってさ」
「セリアンスロープがシルエットに乗れるってだけで世界がひっくり返るんですけど?」
「シルエットベース特権かな。だから、人を集めるときはセリアンスロープ専用シルエットはアピールになると思うよ」
「しかも専用なの? 絶対なるでしょ!」
「我らの裏ボスは、いったいどれだけ隠し球があるのやら」
リックも呆れている。セリアンスロープ用のシルエットは四脚ながら腕もある。細かい作業が出来るのだ。ファミリアの負担が減るのは間違いない。
「そんなにないって」
「エニュオの腕を一刀両断したのは? 今確認されているシルエットの剣だと不可能よ?」
ブルーが小首を傾げて追求してくる。可愛らしいが目が笑っていないので怖い。
「いい切れ味だったよね、あれ」
「人ごとみたいにいわない!」
アルゲースのことが言えない以上、ごまかすしかない。
「ところで、クルトさんの安否は不明なのかな」
「やはり敵はクルト氏を狙っているようね。彼の会社の人間もそう推測していた。徹底抗戦を行おうとする彼をファミリアが連れて逃げたとも、敵の激しい追撃にあって死亡とも……」
「確かにクルトさんは最後まで戦う意思を見せていた。もし、自分が狙われていることをしっていたら、果たして会社の人間のもとへ戻っただろうか」
「希望的観測かもしれない」
「わかってる。少なくとも追っ手がいたんだ。捕まってはいない。今は無事を祈ろう。何かあればすぐ助けることができるように」
少なくとも、彼が守りたかった人たちを、今は守れると思う。
今はそれでよしとするしかないのだろう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
コウは格納庫に戻り、出撃した機体状況を確認した。
マールたち整備班が忙しく働いている。エメの機体も見える。
ヴォイが五番機の確認をしてくれていた。
すぐににゃん汰とアキ、他に多くのファミリアに囲まれた。
「凄いにゃ! このシルエット凄いにゃ!」
「コウ。これは惑星間戦争時代も含めての革命です。少なくとも、我々にとっては」
二人が感激している。
他の者も感激していた。涙を流している者もいる。
「そ、そんな大げさじゃないか……?」
恐る恐る言ってはみるものの、全員が首を横にぶんぶん振った。
「我々はこのシルエットに乗れるだけで、死んでも構わないとまで思いました」
「ええ。絶対降りたくないです。コウ様! このまま、私達をこの部隊に!」
狐耳の青年、うさ耳の少女に懇願された。
彼らはにゃん汰とアキの同期。アストライアで眠っていた者たちだった。
「死んではダメだぞ」
「はい!」
正直困っている。崇拝か何かされかねない勢いだ。
アシアやプロメテウスの力であって、彼の力ではないのだ。
「皆にはそれぞれの機体をそのまま使ってもらう。戦闘だけではなく、整備や補給班に回るかもしれないが、それでも問題ないかな?」
「喜んで!」
「ファミリアたちと連携が取りやすくなり、ありがたいです!」
口々に歓喜の言葉が漏れる。
「あとコウ様は禁止」
「え……」
「そんな……」
悲痛な声があちこちから漏れている。
心を鬼にして黙殺することにした。
「部隊の名称は四脚騎兵部隊にしようか。隊長はにゃん汰かな。アキは突っ込みたがる」
「えー」
「了解にゃ。いいね、クアトロトルーパー部隊!」
妹が意外と猪突猛進なのを気にしていたにゃん汰はその提案をすぐに飲む。
「これからセリアンスロープたちが、クアトロシルエットを使って活躍してもらう予定だ。後進の指導もあるからね」
「お任せを!」
「皆、喜ぶと思います!」
予想以上の好反応に戸惑いながらも、彼らを頼もしく思うコウだった。
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