量産型フッケバイン――バズヴ・カタ
形勢は逆転しつつあった。
メタルアイリス側の勢力は、クアトロ・シルエット隊八機に加え、再出撃で空輸された機甲戦車隊四輌とシルエット。そして重攻撃機に輸送された通常武装のシルエットも四機参戦したのだ。
重攻撃機サンダーストーム隊は大型対地ミサイルでエニュオを攻撃。地上部隊の支援に回っている。
交戦中に、に装甲車打撃部隊や補給部隊の後続部隊も到着したと連絡が入った。
ビーグル型との熾烈な戦いも続いている
あまりの装甲の硬さに、シルエットも接近戦仕様に切り替える。銃剣や両手剣を構えてて斬りかかっていた。
ビーグル型の厄介なところは、飛行形態があるところだ。
突如として加速、突進からの攻撃。パワーがある分厄介だ。この角は突進攻撃用も兼ねているのだろう。
「コウ。ここは私達が抑えます。当初の計画通り、エニュオを!」
アキが叫ぶ。
「わかった、アキ! そろそろ行こうか。フユキさん」
五番機のバックパックが、飛翔用の翼を展開する。
「了解です。では、行きますか。量産型フッケバイン――戦鴉バズヴ・カタの出番です」
同じくフユキたちも同様の翼を展開した。
KSR―21バズヴ・カタ。戦鴉という名を持つ機体は、クルトから送られてきた図面の機体を量産したものだ。
再生フッケバインは新機構を多数取り入れ、新世代のシルエットに相応しい機体となっていたが、いかんせんコストが天井知らずになっていた。
そこでフッケバインの特徴を継承しつつ、量産したのがバズヴ・カタだ。
内蔵されたデトネーション・エンジンは外付けにし、過度な小型化を避けたのだ。これにより機体は一回り小さくなることに成功した。
駆動方法は人工筋肉と、軽量化を想定した光学迷彩発動可能なナノセラミック装甲。
フッケバインと同様、脚の特徴もそのままの、三前趾足状である。
同様の機体は鷹羽でも量産を開始した。クルトの意思を継ぐべく、鷹羽兵衛が尽力を尽くしたのだ。TSR-21ヤタガラス。日本風の名前だ。
特筆すべきは、その運動性能。非常にコストが高い機体ではあるが、それでもフッケバインに比べて五分の一程度に抑えてある。フッケバインが採算度外視すぎた過剰な設計だったともいえる。
四機はそれぞれ、変更推力スラスターをフル稼働して機体を飛翔させる。
コウは正面へ。バズヴ・カタたちは迂回しながら張り付いた。
「コウ! ダメ! 突出しすぎ!」
思わずブルーが叫ぶ。
コウは勢いあまったのか、ちょうどエニュオの真正面に立ったのだ。
エニュオはハエを追い払うべく、巨大な前足を巨体に似合わぬ速度で振りかぶり、五番機を薙ぎ払おうとする。
「なっ!」
ブルーを始め、多くのパイロットたちが絶句した。
「はっ」
裂帛の気合いとともにコウが抜刀し、その前足に合わせ、孤月を振るう。
孤月が閃き、巨大な前足が空を舞う。ただの一撃で両断されたのだった。
地面に突き刺さる前足が、その出来事が事実だと物語っている。
「あの発光する武器なんなの……」
目視したブルーが呆然と呟く。考えられない切れ味だった。
五番機はそのまま上昇し、頭部を斬りつける。
地面にいるテルキネスが対空射撃を行うが、エニュオの巨体を利用してうまく躱していた。
「コウ君が敵を引きつけているうちに、我々は、と」
機動力を生かしエニュオの側面に取り憑いたバズヴ・カタ。
それぞれの機体が巨大な足に何かを巻き付けている。
フユキの機体も尾の攻撃を警戒しつつ、ワイヤーをエニュオの足に巻き付けていた。
「総員離脱。五秒後、起動。五、四、三、二、一!」
ワイヤーが発火する。それぞれ手に持っていたワイヤーをすかさず切り離し、同時にワイヤーが爆発する。
生成した金属水素を注入した、ワイヤー型爆弾だった。
関節部に異常が発生し、エニュオは地面に伏せる格好となった。そこへ戦車とシルエットの火力が集結し、集中砲火を見舞う。
コウも刀を納め、AK2に持ち替え射撃戦に切り替えている。
すかさずエニュオから離れるバズヴ・カタ。運動性もさることながら、翼を展開し離れる移動速度もかなりのものだ。
彼の周囲をサンダーストーム隊が取り囲む。吊り下げられたロケットランチャーをエニュオに向けて放っていた。
爆発が何度も起きる。一発一発は威力は少ないが、四機編隊による集中攻撃だ。確実にダメージとなっている。
護衛しようにも、火力が凄まじく近づけないテルキネスをシルエット隊が片付けている。
そこに空から化鳥のように舞い降りるバズヴ・カタ。
「遅いんだよ!」
圧倒的な運動性能を生かし、側面に回り込むバズヴ・カタ。テルキネスは構える槍を振り回すこともできず、脇腹を切り裂かれた。
周囲にいるテルキネスが援護射撃に入るが、バズヴ・カタは灰色の羽、偏向推力スラスターと補助翼を使い、すかさず空中に退避する。
見上げて追いかけようとするも、別のバズヴ・カタたちが舞い降りてが、次々とテルキネスを両断していく。
ここまで高性能なシルエットは、テルキネスのデータには存在せず対応もできなかった。
クアトロシルエットも近接戦に突入している。アキのランスがテルキネスの胴体を貫き、にゃん汰のAK2はスタージを破壊していった。
砲撃が止む。
エニュオを守ろうとしたのか、ビートル型の残骸があちこちに転がっている。エニュオ自体はまだ動いていた。
コウは弧月を鞘に納めえ、真上に移動する。
そのまま、エニュオの胴体――リアクターがある部位に急降下する。
落下の勢いを利用し、直前で抜刀する。そのまま背部装甲を貫いた光り輝く刀身の先端は、稼働を続けるリアクターを切り裂いた。
エニュオの複眼が大きく輝き、そして光を失い、停止する。
「こちらアイリス1。エニュオ破壊成功」
コウがキモン級に連絡する。
戦闘指揮所では歓声が上がった。
「引き続き敵残存部隊を掃討する」
コウは油断していない。
それだけ告げ、通信を切る。
勝利はそう遠くない。その場にいる者が皆、確信した。
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