エポナ――騎兵の守護女神
サンダーストーム1が着艦体制に入る。
推力偏向エンジンを操作し、そのまま垂直に着陸する。
「サンダーストーム1、六番エレベーターへ移動を」
「了解」
戦闘指揮所より連絡が入る。
今からターン・アラウンド――再出撃準備に入るのだ。
エレベーターが降下し、整備格納庫へ移動する。
今から弾薬、装甲チェックが始まるのだ。
機体はシルエットが牽引している。
「機体損傷なし。二十分後には再出撃します」
「了解。誰か連れていく?」
「はい。アイリス4のメンバーをお願いします。投下の際には気をつけて」
アイリス4は主に自前の機体を使っている者たちだ。最初に運んだチームのような高性能機ではない。
投下時は十分な減速が必要だった。
「わかりました」
艦内のホイストで釣り上げられ、シルエットが格納される。
その間に、武装も換装されている。
巨大なドラムマガジンが交換された。これは60ミリガトリング砲弾用。弾倉ごと交換するのだ。
見ると六番エレベーターより次々とサンダーストーム隊が戻ってきている。
「整備班、対地攻撃用の誘導ミサイルをお願い。次はエニュオなの」
「了解!」
整備班のアライグマが勢いよく返事をする。
対エニュオ戦に備え、初速は遅いが威力の高い、ワイヤー誘導の対地ミサイルが用意された。
サンダーストームは対地ミサイルのなかでは最も威力が高いものに換装された。
現在地上部隊も上陸を果たし、現地へ向かっているはずだ。
「準備できました! ターンアラウンド、行けます!」
「12分、十分速い。――サンダー1、でます」
再び、戦場に向かうべく、ブルーが駆るサンダーストームは五番エレベーターに乗り、上昇していった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
エニュオの進行方向を塞ぐように進軍する、メタルアイリスの強襲部隊。
防衛ドームが破壊される前に撃退しなければならないのだ。
「もうすぐ交戦レンジです。一方的に攻撃されるだけですがね。敵はエニュオと、マンティス型、そしてビートル型。アント型がいないとは。生産が追いついてないのか、それとも――そんなものに回したくないのか」
「というと?」
「制圧した無人工場は主にケーレスの生産ラインにされると言われています。D516要塞エリアを落とした彼らは、生産に回せるはずなのに、それをしていない。多分、残存した戦力を振ってきている」
「後々厄介そうだな」
現状、攻めてくる敵勢力が増えないことは確かに喜ばしい。
だが、その生産ラインで何を作っているのか。それが問題だった。
「背が高いというのは不利ではあるんだが、あそこまで硬くて大きいと十分な利点になるな」
エニュオからの砲撃が始まったのだ。
エニュオのように巨大だと、見下ろす形になり十分に視覚内に入ってしまう。射程内になるのだ。
距離が遠すぎて牽制に過ぎないが、まともに直撃を受けたら即破壊だ。
「この数では、さすがにあの軍勢を止めることはできません。荒れ地では、こちらに向かっている味方の進軍速度も下がっており、戦車隊が到着する時間までまだあります」
「かといって、このまま砲撃を受け続けるわけにはいかない」
「そうですね。迎撃にでましょう」
機甲戦車を再び合体せ、八両の車両として展開する。
随伴するのはコウたちの高機動機だ。
迂回しながら、進軍を待つ。
ついに彼らからも攻撃できる距離に入る。
「敵はビートル型が三十機ほどですね。クワガタが多いです。カブトは一ダースほどですね」
「クルトさんのデータで確認済みだ。クワガタは随伴機だ。メインは高次元投射装甲があるカブトのほうになる」
「そう思うと結構な戦力です。慎重に行きましょう」
互いの砲撃が始まる。
やはりライノセラス型が硬い。レールガンの直撃を受けてもびくともしない。
随伴するスタージも厄介だ。厚い装甲に大口径のレーザー砲。レールガンほどの威力ではないにしろ、十分な威力はある。
コウたちのシルエットは機甲戦車を壁にしつつ、射撃戦を行っている。
遠目にみえていたエニュオも、近付いてきた。周囲には、多数のテルキネス。
「これは、味方が来るまで持ちそうにないですね。時速120キロ以上で不整地を疾走できるような機体、ないからなあ。航空機の輸送が間に合うか、どうか」
二十一世紀の戦車での不整地の最高速度は50キロ程度。惑星アシアでの戦車でも、時速80キロ程度が限度だ。
「そうでもないよ、フユキさん」
スタージが突如、地面に崩れ落ちた。機体に孔が空いている。
続けざま、直撃を受け蜂の巣になる。
「にゃん汰。アキ。先に来たのか」
「兵は神速を尊ぶ、にゃ」
「お任せあれ」
MCSに乗った二人が応答する。
遠目に見える二機の異形のシルエット。
それは見たことがない、四脚のシルエットだった。にゃん汰機はAK2を構え、アキは長大なランス型の武器を構えている。
QSTー01エポナ。
アキとにゃん汰のために作られた、戦闘特化の四脚型強襲巨兵。
騎兵の守護女神の名を冠した機体は美しかった。
エポナがランスを担いで駆ける。近接戦はアキである。
分厚い装甲のライノセラスを易々と貫通する。
「いっけぇ!」
アキの絶叫とともに、ランスの先端が展開。先端から凄まじい勢いのプラズマが放出される。
金属水素を燃焼させた、徹甲爆破型ランス――コウがアキのために作り上げた最新兵器だった。
その隙に攻勢に転じるメタルアイリス隊。
にゃん汰も援護に加わり、その後ろから量産戦闘型のクアトロ・シルエットQSTー02エポスが到着し、射撃を開始する。
「四脚のシルエットだって! ありえるのか!」
隊員の一人が声を上げる。味方さえも驚愕する秘密兵器だ。
「完成して操作訓練を終えた機体を急いで搭載したんだ。説明する暇なかったな。セリアンスロープ専用シルエット、クアトロ・シルエットだ」
「裏ボス、凄いもの作りましたね!」
隊員が感心する。
「四本脚の全力疾走、不整地踏破能力は履帯の比じゃありませんね。まさに、危機に駆けつけた騎兵隊だ」
フユキは、その移動速度に納得がいったようだ。四脚の歩行安定性は二脚の比ではない。不整地を一気に駆けることなど余裕だろう。
「コウ君。あの武器は」
「ああ、その話はあとで!」
見覚えがある型式の武器を問い詰めようとするフユキに、コウは戦闘に戻るよう促す。
「最高の機体にゃ! ありがとにゃ、コウ!」
にゃん汰が戦場を駆け巡りながらAK2で確実にスタージを片付けていく。
「凄い。バックパックの補助もなく、あの運動性と機動性。ありえるのか」
隊員が呆然とするほどの圧倒的な運動性能。
ビークルスタージ型が圧倒いう間に蹴散らされていく。
彼女たちを強敵と見定めたライノセラスが、アキの前に立ちはだかる。
レールガンの直撃を受けても、彼女のシルエットは揺るがない。
「このバースト・ランスはまさにライノセラスなど重装甲を貫くため。――行きます!」
アキは先陣を切って駆ける。
慌てて背後の者たちが援護する。
「流れはこちらにある。いくぞ」
コウの号令とともに、メタルアイリスは攻勢に転じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます