巨大ドリル
「ヴォイさんはモグラじゃ無くて熊ですよね?」
「熊だよ。しかしこいつに乗ってるときはアナグマってところか!」
フユキの言葉に、ヴォイが返す。
坑道掘削装甲車は地中をえぐりながら次々と進んで行く。
シールドで固められた外壁も機能しているようだ。空気に触れすぐに固まっていく。
トンネル自体の長さは五百メートルもないだろう。とにかくシェルターをくぐり抜ければ良いのだ。
少し離れたところで身を屈めたシルエットたちが続いていく。
「工作部隊に欲しいですね、これ。凄すぎます」
「作戦終わったら解体するから」
「もったいない!」
フユキがしきりに欲しいと呟き続ける。
「大規模なトンネルならこれだけじゃ無理だと思うけど、シェルター分だけ通り抜けることができるならね」
「外壁は掘削装甲車のウィスで強化もされているのね」
「溶剤にウィス伝搬剤を混ぜてある」
トンネルの壁も強固なようだ。生き埋めの心配もする必要もない。
「もうすぐ地表にいくぜ」
ヴォイから通信が入る。
坑道掘削装甲車は方向を変え、上方に向かっていた。
「天井はAカーバンクルで強化されたコンクリート。下手な鋼鉄よりよほど厚い」
「でしょうね」
要塞エリアや防衛ドーム内にある建物物もAカーバンクルから生成されるウィスを通せば、レールガンを受けようがシルエットが飛び乗ろうがびくともしない。
「そこでこれだっ! カッターフェイス変形!」
カッターフェイスのカッタービットが前方で束ねられ、巨大ならせん状のステップドリルビットとなった。筍状のドリルだ。
「ドリィールッ!」
「だから甲高い巻き舌で叫ぶな! 黙ってやれ!」
ヴォイが渾身の絶叫を放ち、コウが苦悶する。
ドリルが高速回転し、要塞エリアの舗装されたコンクリートを穿つ始める。
「巨大なドリルで孔をシルエットサイズに広げる、か」
バリーが感心している。
「やっぱりドリルはいいよな!」
「ドリルいいですよねえ」
マイクとフユキが巨大ドリルに興奮している。
「やっぱり欲しいなぁ、これ。ねえ、ブルーさん。メタルアイリスで買い取れないかな?」
「役立つのは確かなようです」
具体的な入手方法まで口にしだしたフユキ。ブルーも今はそれほど否定的ではない。
「地上だ!」
坑道掘削装甲車がついに地上に出る。コウたちも続けざま地上に出た。
外と同じく森林地帯だ。
目的地よりもかなり外れに位置する。目的地は工業区画だ。人間は商業区画。
現在地は要塞エリアのなかでも野外区画に位置する。
空を見ると青空が広がっている。シェルターは非対称アシンメトリックマテリアル応用材で出来ており、負の屈折率を持っている。ドーム外の光をそのまま通すので、空が見えるのだ。
要塞エリアや防衛ドームでも昼夜があるのはそのためだ。
「まっすぐ目的地に向かわないの?」
「ああ。座標は前にも示した通り、この森の一角だ」
コウには察していた。
アストライアが示した座標。コウが実際に体験した地下工廠への入り口のように光学迷彩が施された場所に隠されているのだろう。
「コウ。施設内のレーダーには感知されている。ケーレスがそちらに向かう可能性は高い」
エメから通信が入る。
「わかった。みんな移動するぞ」
「俺はいったん戻るぜ。やることがあるんでな」
「ん。わかった、ヴォイ。気をつけてな」
「おうよ!」
のそのそと自分が掘ったトンネルで戻っていく坑道掘削装甲車。不思議とヴォイと同じく愛嬌がある。
編隊を組んで、五機のシルエットは目的地に向かっていった。
コウたちの潜入部隊は目標の座標に到着した。
五番機と後続のブルーの機体の姿がかき消える。
「これは光学迷彩で隠蔽されている隠し通路か」
「俺がトリガーか。しまったな……」
アシアの防衛機構なのだろう。
コウが通るタイミングで、地中に埋まっていた通路の扉が上がったのだ。
コウとブルーが通ったことを確認し、地中に埋まったのだろう。
「ちょうどいい。奴らもこの場所を知らないはずだ。迂回ルートのふりをして暴れてくる」
バリーが状況を分析する。
もし敵勢力がこの通路を敵が知っていたら、もっと警備は厳重なはずだ。
「気をつけてくれ」
「それはお前たちだ。この先、何があるかわからないぞ」
コウは通信超しに頷いて、先に進む。暗い通路を、五号機の暗視装置を頼りに進んで行くことにした。
バリーたち三人は追撃に備え、有利になる場所を探すため移動を開始した。
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