最新鋭機VS旧式機

 薄暗い通路は突如として終わりを告げる。


 巨大な通路に出たのだ。

 シルエット基準でいっても相当高い天井だ。


「遺跡……ですね。探索者のようです」

「これが探索なら、俺はなりたくないな」


 得体の知れない技術が数多く使われている。

 想像力が無い人間が探索すると、すぐに死ぬことになるだろうとコウは思ったのだ。


「なにか意外ですね。好きそうにみえました」

「未知すぎても怖いよ」

「無謀な人より好感は持てますよ」


 二人は目的の座標に向かって進む。


 レーダーに反応があった。


「コウ! シルエットがいる。気をつけて」


 エメからも通信が届く。


「私が戦う。コウは先にアシアのもとへ」

「二人で対処したほうがよくないか」

「敵が一機とは限らない。そのときはアシア救出を最優先して。これは最後のチャンスかもしれないの」

「最後って……」

「お願い」

「わかった」


 二機は歩行モードに切り替え進んだ。


 目的の座標の前に、そのシルエットは佇んでいた。

 鈍色の機体。質素で外連味が一切ない。

 

 機体の輪郭は、改修前の五番機に酷似していた。前方にいる機体のほうが、やや細身で頭部も小さい。


 そのシルエットから共通回線で呼びかけがある。


「コウ」

「でるよ」

 

 心配そうなブルーに、コウは安心させるように笑いかけた。


 共通回線が開かれる。


「そこのラニウス――お前、鷹羽兵衛か」


 コウの表情が引き締まった。壮年の声は、コウの知った名を告げたのだ。

 ブルーも息を飲む。よりにもよって、とんでもない人物と間違えられたものだ。


 声の主はバルド。デスモダスの隊長であった。


「残念ながら、俺は兵衛さんじゃない」


 返答に迷いながらも、答える。ただし、知り合いと匂わせて。念のための保険だ。


「そうか。――残念だ。兵衛と戦いたかった」


 本当に残念そうな声。


「何か恨みでも?」


 思わず尋ねてしまう。


「いいや? 勝負に負けたリベンジだな」


 簡潔に答えが返ってくる。

コウはそれだけで、好感を持った。理由は自分でもわからない。


「お前もただモノじゃないな。ここは構築技士しか入れない区画だ。先に何があるかしらないが、死んでもらうぞ」

「死ぬわけにはいかないな」


 何があるか、知らない。

 それはコウにとって貴重な情報だ。相手は構築技士としてのランクは低いのだろう。高ければ、アシアと会話できるかもしれないはずだ。


「私がさせない」


 そう言いながら、コウの前にブルーが立ちはだかる。


「コウ。ここは私が。あなたは先にいって」

「しかし」

「あなたと相性が悪い。あの機体――」


 ブルーがいい淀む。

 彼女の機体SAS-F02スナイプも最新の機体の一つだが、集団戦における射撃に特化している。コウのことはあまりいえない。


「五番機からの画像解析完了。TSF-R10ファルコ。接近戦特化のTSW-R1を発展、軽量化した汎用機」


 エメからの緊迫した通信が入る。

 師匠から聞いたことがある。TSW-R1はすでに生産を打ち切り、後継機の生産に入ったということを。

 目の前の敵が、その機体とは。


「ラニウスの発展型だから格闘性能も高い、複合駆動機構。武器は両手持ちの長剣と、これは――ガスト式の大口径二連機関砲」


 ファルコは二砲身が特徴的な機関砲を装備している。二問の砲にみえるが実質一門で、射撃のリコイルを利用してシーソーのように交互に連射する型式の機関砲だ。

 ガトリング砲によりも軽量で構造も単純。信頼性も高い。欠点は砲寿命が短いことだが、これはウィスによる強化で解消されている。


「ラニウスから過剰な装備を除外しコストダウンを兼ねて軽量、高速化してより洗練された機体だと思っていい」

「過剰な装備とは?」

「例えば――四肢に装備する予定だった運動性強化のための補助スラスター用のコネクタを排除。胸部の人工筋肉をより少なくし構造強度はフレームへ依存度を高めてメンテナンス性も向上している」

「わかった。ありがとう、エメ」


 TSF-R10が何を犠牲にしたか、だいたいわかった。

 確かにTSW-R1の運動性の追求は過剰ともいえるほど。多くのパイロットはそこまで繊細な運動性は必要ないだろう――しかし。その先に必要な能力だってあるのだ。


「最新鋭機、か……」


 口の中で反芻した。

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