秘密兵器

「フユキさん。ポイントCで作戦を続行します」

「わかった。私も同行します。工作車から必要な武装を補給し、部隊の者は下がらせますね」


 ブルーの言葉にフユキは同行を申し出る。

 三機のシルエットは工作車にいったん立ち寄り、ポイントC地点に向かった。


 ポイントCではバリーとマイクが、履帯が装備されている車両を護衛していた。この車両にヴォイが搭乗しているのだ。


「ありがとう! ヴォイの護衛、助かった」

「これぐらいお安いご用さ。とんでもないもの作ったんだな、コウは」

 

 その車両はあまりに異形だった。乗り物、と表現したほうがいいかもしれない。

 筒を車両前部に備え付けている。そして筒と同じ大きさの、円状のシールドに囲まれていた。その形状は21世紀のトンネル掘削機、シールドマシンに酷似していた。

 二連結車両でヴォイは後部に乗っている。


「コウ。何これ」

 

 得体の知れない兵器に、思わずブルーが尋ねる。


「……シールド坑道掘削装甲車」

「シールドって目的が違うシールドですよね?」

「大丈夫。意味は共通している。普通のシールドとしても機能しているから」

「リックが見たら珍兵器っていいそうです。賭けてもいい」

「自覚はあるんだ。それ以上言わないで」


 矢継ぎ早にブルーに詰問されたコウは力無く呟いた。


「まさかコウ君。地面を潜って進むつもり?」

「うん」


 フユキの質問に、答える。


「これってジェットモ……」

「シールド付き坑道掘削装甲車」


 危険なワードを呟きそうになったフユキを遮るコウ。


「火力ないよね?」

「ドリル内蔵してるから、こいつ」

「やっぱりドリル内蔵してるのか!」

「さっきから二人だけで意味通じる会話はやめましょう」


 フユキとの会話に拗ねたようなブルーが割りこんでくる。


「ごめんごめん。ヴォイ。頼んだ」

「いくぜ!」


 ヴォイが喜び勇んでシールド戦車を起動させる。


「カッターフェイス起動! スクリューコンベア起動開始! 土砂変換アーク炉最大稼働!」


 熊が叫ぶながら、パネルタッチで次々と各種の装置を起動させていく。


「いちいち装置名を叫ばなくていいからな、ヴォイ!」

「シールドジャッキオォン!」

「何故叫ぶ」

「20世紀のアニメにでてくる兵器はそう叫ぶと学んだぜ! エレクター作動開始!」

「やめろ」


 フユキが口を押さえて笑いを噛み殺している。ツボに入ってしまったようだ。

 冷たい目で無言のブルーが通信に映っている。胃が痛くなってきた。


 カッターフェイス。巨大な扇風機状のカッタービットが地面を掘削していく。

 土砂をスクリューコンベアで回収し、機体の焼却炉で土砂を燃やしていくのだ


 燃やした土砂は有機物は燃え、残りは主に二酸化ケイ素、シリカとなる。

 エレクターから投射される散布剤に混ぜ、トンネルの外壁を強化していく。

 削岩、土砂の排出、坑道の補強を全てセットで出来るようになっている。


 トンネルは直径は六メートルほど。シルエットなら屈めば移動できる。


 他にもカッターピックを装備したアームや土砂除去用のドーザーも装備などを内蔵してある。

 連結車両の前部に作業機械と土砂と有機物を燃やし、シリカに変換するアーク炉を詰め込んであり、後部車両は脱出用兼戦闘用だ。自衛用の有線ミサイルと機関砲を装備してある。


 坑道掘削装甲車はカッターフェイスをジャッキアップし、斜めにして地面を掘り進む。

 凄まじい速度だ。二十一世紀では一時間数メートルしか進めないが、コウの作った地底走行車両は十分で五十メートル以上。

 ウィスによる耐熱性能、カッタービット性能向上と、土砂排出を兼ね備えた構造で大幅なスピードアップを果たした。


「これは凄いな」


 バリーも呆れる掘削スピードだ。もう車体が地面に潜って見えなくなる。


「よくこんな戦車思いつきましたね」

「要塞エリアを守るシェルターの破壊方法ずっと考えててさ。馬鹿でかいエニュオみたいなものは用意できないし。なら地下はどうだと」

「逆転の発想ですか」

「地表のコンクリートならシェルターより楽に破壊できる。土砂が問題だったんだけど、モデルになった生き物の話を思い出してさ。生き物は木を掘り進むのに自己完結してるなら、こっちも同じ事できないかなと」


 そして完成したのがコウなりの地底戦車だったのだ。地球の技術では絶対に不可能だっただろう。まず土砂を焼却しシリカから外壁補強材を作ることが無理だ。


「モデルの生き物って?」

 

 ブルーも気になったのか尋ねてくる。


「フナクイムシという、虫ではなくて貝なんだ。見た目はみみず系ワームでかなりグロいから調べないほうがいいかな」

「わかった。絶対調べない」


 ブルーはぶるっと身を震わせた。そういうところは女の子らしいと、コウは場違いな感想を抱く。


「そろそろいいぜ。トンネルも固まってきた」

「わかった。すぐに行く」


 ヴォイからの通信で、五番機は身を屈めトンネルに入る。ブルーとフユキが続き、最後にバリーとマイクが周囲を警戒しながらトンネルに潜っていった。

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