第4話

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 しばらく俺と彼女の間には静かな時が無機質に流れる。その沈黙を最初に破ったのは俺だった。

 「本当にごめん。告白してきてくれたのに断っちゃって」

 「理由を訊いてもいい?」

 ・・・理由、

 理由なんて俺にも分からない。

 俺にだってなぜ“幸せになってはいけない”という確執を持ったのか分からない。

 必ずきっかけがあるはずだが・・・。


 俺は今までそのがなんだったのかを考えようとしなかった。その理由は恐らく、理性と本能がに触れることを避けていたのだ。

 理性と本能が避けていたからには必ず、何かのがあるはず。

 今、それを明らかにしてちゃんと彼女に伝えるべきなのだろう。

 について潜考し始めた俺の脳内に、ある容姿すがたが見えた。しかし、

 「・・・うぅ・・・う」

 昨日本屋で起きた頭痛が、再び俺の脳を冒し始める。それに前回とは全く痛さのレベルが違う。立つのも一苦労だ。

 だが、その痛みも時間の経過と比例するように段々と痛さが増していく。

 ついに、立つことが困難になった俺はその場に頭を押さえながら倒れ込んでしまう。

 彼女の心配してくれる声が遠くに感じる。

 そして、視界が完全に真っ白になった瞬間、俺の意識は途絶えた。



 視界がぼやけている。白い天井には明かりがあるはずなのに、絶妙な加減で眩しくない。横を見ると、白く清潔感のある壁だった。

 「あ、起きた? 大丈夫?」

 逆の方向からの声がして、その方向に目を向けると少し心配そうな面持ちをした母さんが椅子に座っていた。

 「ここは・・・?」

 俺がそう呟くと、

 「病院よ」

 と、細い声音で返してくれた。

 「あ、俺あの時に倒れて気を失ったのか・・・」

 たしか、告白を受けて昔の記憶を探っていたらひどい頭痛で、そのまま気を失ったっけ。この自分の謎の体質には辟易していたが、まさか病院にお世話になることまでになるとは思いもしなかった。

 俺が目を覚ましてしばらくすると、部屋に看護師と医師が入ってきた。

 その後、医師からの診察が30分程度で終わり、

 「脳にも異常が見当たらなかったので貧血でしょう」

 と言われる。

 でも、この頭痛の正体が気になって医師に発問をした。

 「少しおかしな話しかもしれませんが、過去のことを思い出そうとすると激しい頭痛が起きるんですけど・・・」

 自分で言っていることが途中で恥かしくなり、言葉を途切れさせてしまう俺だったが・・・

 「そのとはある特定の出来事があった過去ですか?」

 医師は俺の発言を真摯に受け止め、言葉の続きを促した。

 か・・・。 

 でもなにかがあったことは事実だと思う。問題はそれが何かということ。

 「たぶん何かがあったのでしょうけど、それが思い出せなくて」

 医師は俺の言葉を聞いてしばらく沈思し、ある言葉を発した。

 「恐らくですがPTSDの可能性があります」

 うん? 国連の機関の名のようなアルファベットが出てきて、頭にクエッションマークが浮かぶ。

 続けて医師の口から、

 「PostTraumatic Stress Disorder。日本語では外傷後ストレス障害と言います」

 恐らく最初は英語を言ったのだろう。全然分からん。発音が良すぎて全然分からん。その後何て言ったの? 英語の発音の良さに気を取られてその後の日本語まで聞き逃してしまった・・・。

 俺が閉口していると、

 「外傷後ストレス障害は過去に生死を彷徨うような恐怖体験などをした場合、心にトラウマが生まれ、その体験を思い出させるきっかけに触れた時などに急に思い出したりすると恐怖がこみ上げてきたりする心の病気ですね」

 え? またしても頭にクエッションマークが浮かぶ。

 生死を彷徨うような恐怖体験なんてしたないんだが・・・

 「まあ、それ以外にも犯罪や虐待、家庭内暴力などで患者さんもいらっしゃいます。でも気を失う程の症状が出る人は少し珍しいですね」

 うーん、医師が示した他の過去の体験にもヒットする事柄は無いな。

 「心療内科に紹介状を書くことも可能ですが」

 「1週間程度様子を見るということでもいいでしょうか?」

 心療内科の受診も考えたが、横にいる母さんの心配顔を見るともう少し時間を置こうと考えた俺の提案。

 「分かりました」

 医師はその提案を快諾し、俺たちは診察室をあとにした。


 帰路の道中、母さんの車に揺られながら俺はさっきの医師との会話を思い出していた。

 「、か・・・」

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Reunion 藤ノ宮コウジ @EtouTakeaki

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