第3話
そして、あることに思考を巡らせていた。
あることとはもちろん、
なぜ彼女が噓をついていたのか?
噓をついて何のメリットがあるのか?
「分からない・・・」
謎だけが増えていき、
そもそも、なぜ偽名を使う必要があったのか?
俺に本名を知られたくないから?
ならば、なぜ俺に本名が知られたくないのか?
追求すれば、するほど
まるで、奥地に入れば入るほど、抜け出すことが困難になる樹海に迷い込んだみたいだ。
だが、このまま頭の中で議論を続けたところで、平行線が延々と続くだけだ。
それに、少し勇気が必要になるが、来週、学校で会った時にでも直接本人に訊けば済むこと。
こうして、俺の土曜日は幕を閉じた。
翌日の日曜日。11月だが季節はすっかり冬のようだ。あと2日もすれば12月になり、今よりもずいぶんと寒くなる。
やはり、朝方の冷え込みが辛く、ずっと布団に
「ほら、いつまで寝てるの? 朝食冷えるわよ」
「は〜い」
階段を下りてリビングのイスに座る。
「そうえば、父さんはまだ起きてないの?」
「とっくに蹴り上げて起こしてるわよ。その時にできた患部を今、洗面所で冷やしているところ」
いつもの光景なので温かい目で読んで欲しい。
でも、俺には蹴りを入れて来なかった。
意外と優しい一面も持つ
「
困るからね」
前言撤回。
そんな暴君が作った朝食(意外と美味しい)を食べ終え、自室に戻る。
そして、パジャマから外出用の服に着替え、家を後にした。
向かった先は近くの本屋。俺が休日にすることと言えば、図書館で読書をしたり、本屋で面白そうな本を適当に読んでいる。
今日は、図書館が休館日だったので本屋に来ている。
本屋を適当に回っていると、ある人に出会った。
彼女は書棚の前である作家のシリーズ化された文庫本を見て、なぜか感慨に
“本を見てながら感慨に耽っているJK”
その絵図らが面白く、しばらく観察していると、彼女の大粒の涙が流れる。
「え、なぜ涙?」
その佇まいを見た、俺は一歩踏み出し彼女の下へ足を運ぼうとする。
だが、彼女は唐突に走り出し店の外で出て行った。追いかけようと思ったが、一昨日に初めて会った男子からそれをさせられたらストーカーと勘違いされる可能性が大きい。そう思い追うのは断念。
そして、俺は彼女が元いた場所に移動する。
「この本を見ていたのか?」
本を手に取り、呟く。
彼女は本を持っていたわけではないので、視線から推測するしかなかったが恐らくこれで合っているだろう。本のページをぺらぺらとめくってみると、やはり昔に読んだことがあった。内容もかなり記憶に残っている。
たしか、昔の同級生に同じ本が好きだった人がいた様な気がするが、誰だっただろうか?
昔の記憶を
当時の記憶へのアクセスを本能がブロックしたようにも思えた。
額には脂汗をかいている。拍動は妙な感じに脈打っている。
自分の体調が
帰宅してからは、体調はいつも通りに戻っていた。
昔のことを思い出そうとすると、頭痛が起きるという不可思議な現象。
もう一度、それを試そうと思ったが、頭痛に少しの恐怖を覚えた俺は断念した。
俺、昔に何かあったのか?
そう思いながらリビングでお茶を飲み、一息つく。TVを見ると今社会問題になっている虐めをテーマにしたドキュメンタリー番組が放送されていた。
その番組をボーっと見ていると、スマホからメッセージの着信音が小さく響く。
晴斗からのメッセージだった。
『現代文教えて』
『了解』
返信をして、自室に向った。前に晴斗は頭脳明晰だと言ったが、いくらあいつでも不得意な教科はある。特に現代文は苦手らしく(それでも平均点以上は取っているのだが)、その時は俺が教える時が多々あり、逆に俺が苦手な教科は晴斗に教えてもらっている。実は俺も一応定期考査、校内模試では晴斗に次いで2位だったりするが、やはりあいつには勝てない。俺は要領が悪く結構な時間を勉強に費やす。しかし、晴斗はかなり記憶力が良いからそんなに勉強時間を作る必要が無いのだが、それでもあいつは結構な時間を勉強にあてている。そりゃ、勝てんわ・・・。
翌日。
昨日、晴斗に勉強を教えた後自分の勉強もあったため寝るのが遅くなってしまった。すこぶる眠い俺は、学校を休もうかなと思ったが、家の
授業中は終始睡魔と戦いながら、なんとか寝ることだけは見事に回避。授業内容は全く頭に入ってきていないが・・・。まあ、予習してるから大丈夫だ。
そして、現在、今日最後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴る1分前。
遂に、待ちに待ったチャイムが鳴り響く。心の中ではしゃぐ俺。
帰りのホームルームも終わり、誰よりも早く教室を後にした。
校門を出た時、前方に見覚えのある後ろ姿を発見した。俺はその人を呼び止める。
「神崎さんですよね?」
その人は振り返った。
「はい、あ、あっく・・・じゃなくて大鳥くんだよね?」
俺はずっと気になっていたことがある。そのことを訊くために彼女を呼び止めた。
「はい、そうです。いきなりですが、あなたは転入生ではないですよね? それと神崎という名前も噓ですよね?」
ほぼ前置きも無く、単刀直入に尋ねる。
2人の間に静かな時間が流れる。しかし、その時間も長くは続かなかった。
「やっぱり、ばれるんだね。そうだよ、転入生でもないし、神崎でもない」
彼女はあっさりと自分の噓を認めた。そして、次に訊くことは決まっている。
「な、なんでそんな噓をつい」
「ずっと好きでした! か、彼氏になってください!」
俺が理由を尋ねようとした刹那、彼女の口から衝撃いや爆弾発言が炸裂した。
「は?」
動揺を隠すことが出来ず、つい呆けた声を出してしまった。
「こ、答えは?」
上目遣いで彼女はそんなことを言ってくる。
学校一の美少女と
「・・・・・・」
またしても、沈黙が流れる。
俺にはたった一つだけ曲げてはいけない確執が存在した。
いや、くだらないただの確執かもしれない。
それは・・・
“幸せになっていけない”
「すいません。その告白は受け入れることはできません」
断ってしまった。
いや、断ったのだ。
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