第2話
そう言い残して、その人は・・・
彼女が過ぎ去って、しばらく俺はただ呆然としていた。その状態が5分ほど続き、図書室に帰ってきた司書さんに声を掛けられ我に帰る。時計を見ると既に昼休みが終わる直前の時間。本を書棚に戻して、急ぎ足で教室に戻った。
彼女は・・・なんというか形容し難いが、“存在が不思議”だった。
午後も、彼女の言い残した言葉、いや彼女の存在自体が気になってそのことを考えていたせいで授業など全く頭に入ってきていない。周りからは俺は放心状態に見えていただろう。
しかし、そのぐらい彼女のことが気掛かりで、思考を巡らせるが、全く
彼女が言い残した『あっくん』というのも昔、誰かに呼ばれていた気がするだけで、確証もない。彼女は初対面の人にあだ名を付ける、かなりフレンドリーな性格をしているだけなのかもしれない。
それになんだよ“存在が不思議”って? 俺は高2にもなって中二病になったのか?
なぜ彼女が不思議かなんていう
そんな思考に
今日は金曜日というのもあって、その開放感に皆の脳は支配され、この後、友人との遊びの約束をしている者。それを横目で羨ましそうに見ながら、部活動に行く者。また、それらを気にも止めず、ひとり早々と家路に着く者。
そして、俺は最後の者に当てはまる。
今日はいろいろ考え過ぎたせいか、俺の身体中を疲労感が支配していく。
早めに帰宅して、リラックスしようと思いながら、家路についた。
翌日の朝、俺のスマートフォンがアラームではなく、電話の着信を知らせている。
「誰だ、休日の朝から電話する奴は?」
俺は半目の状態で枕元に置かれたスマートフォンを手に取る。ディスプレイを見ると、見覚えのある名前が表示されていた。
“神崎晴斗”
目をこすりながら電話に出る。
「もしもし、どうした晴斗?」
『もしもし? まさか寝起き?』
「あぁ、今起きた」
『送ったメッセージ見たか? 今日遊ぼうぜ』
「今日!?」
思わず、大きな声を上げてしまう。
それもそのはず。
俺の友人である神崎晴斗と遊ぶのはよくあることだが、大抵は前日かそれより前に連絡を入れるはず・・・。
『いや、昨日一応、連絡したんだけどなかなか既読つかなくて。無理そうなら後日にするけど』
昨日に連絡なんて来ていなかったような・・・。
そう思い、通話状態のまま画面を切り替えて、無料のメッセージアプリを開くと、ちゃんと、
“明日、映画観に行こうぜ”
“無理そうなら後日でも良いけど”
“あれ? まさか寝た?”
メッセージが来ていた。それも深夜などではなく、割と早い時間に。
「すまん、全く気付かなかった」
昨日は起きていると彼女のことが頭を
「映画に行くんだろ? 了解した」
『ホントに大丈夫なのか? いきなりで迷惑じゃなかったか?』
「大丈夫だ。ちょうど晴斗に会って話したかったし」
『おう、じゃあ正午に駅に集合で』
「OK」
電話を切り、ベッドから立ち上がって支度の準備に取りかかった。
待ち合わせ場所である、駅前の広場に到着。辺りを見渡し、友人を探す。すると時計台付近に何人かのチャラい女子たちが集まって楽しそうに会話をしていたのが目に入る。
何事か少し興味本位で近づいて見ると、女子たちに囲まれていたのは俺の友人だった。
俺に気付いたその友人−晴斗は、
「あ、友達が来たからそろそろ行くね。じゃあね」
そう女子たちに爽やかな別れの挨拶をして、その群れから離れる。
「何事だ?」
さっきまで友人が置かれていた状況は分かっていたが一応、訊いておく。
「
を待っているから無理って断ると、今度は連絡先や好きな女性のタイプとか訊かれてて、ずっと質問攻めだったよ・・・」
逆ナンかよ。
まあ、分かってはいたが・・・。
そう、俺の友人である
容姿端麗。定期考査、模試いずれも校内1位。さらに生徒会長も務めるパーフェクトヒューマン。
そんなパーフェクトヒューマンと友人関係になった経緯は、前回も話した通り、俺は1年生の時から風紀委員をしていた。そして
その共通の趣味というのは映画鑑賞だ。最近、映画観るやつ少ないんだよな。
日程が合う時はたまに映画を観たりして、2人の時間を互いに楽しんでいる。
「よし、
俺たちは映画館が併設されている大型のショッピングモールに足を運んだ。
俺たちが観た映画は相変わらず面白かった。
現在、俺たちはフードコートで食事をしながら、映画の感想などを言い合っている。
そして、俺は今日、
「晴斗に訊きたいこと、あるんだけど」
「うん? なに?」
「なあ、最近転入してきた女子いるじゃん? その女子に話しかけられて、話してみたらなんかこう不思議な感じがして、それ以来ずっと不完全燃焼のままでさ・・・
俺が質問すると
「それは恋だね。と言いたいところだけど、さっきから何を言っているの? 転入生なんて来てないよ。それに神崎という姓はうちの学校では僕だけだったはずだけど」
「え・・・?」
神崎綾子は噓をついていた。
しかし、それは単なる表の噓。
核心は裏の噓にあることに俺は気付かなかった。
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