第三二話 各兵団の作戦計画
第二十五軍の作戦計画に基づき、第五師団は新嘉坡に対する作戦計画を発表した。
新嘉坡島攻略計画
第一 方針
一、師団は逐次別紙要図(省略)の態勢に移行し厳に企図を秘匿しつつ周到綿密なる諸準備を整いたる後X日夜「マラユ」河口両岸地区より「ジョホール」水道を渡河し速かに先づ「テンガ」飛行場東西の線に次で「ブキットバンヂヤン」(473高地)付近の要線に進出し敵尚降伏せざるに於ては新嘉坡市街北半部を経て「チヤンギ」要塞(新嘉坡島東端)を攻略席捲す
第二 攻略部署
二、軍隊区分
杉浦部隊
長 杉浦少将
歩兵第二十一旅団
独立速射砲第二中隊
戦車第一連隊の中戦車
野砲兵第五連隊(中隊欠)
衛生隊約三文の一
第二防疫給水部の一部
河村部隊
長 河村少将
歩兵第九旅団(歩兵第四十一連隊欠)
独立速射砲第一中隊
野砲兵第五連隊山砲一中隊
工兵第五連隊の一中隊
衛生隊約六分の一
第二防疫給水部の一部
砲兵隊
野砲兵第五連隊
工兵隊
長 横山大佐
独立工兵第十五連隊
第三戦車団工兵隊(第三中隊と一小隊欠)
通信隊
師団通信隊
輜重隊
輜重兵第五連隊
渡河作業隊
長 横山大佐
独立工兵第十五連隊
独立工兵第五中隊
第三戦車団工兵隊
独立工兵第二十六連隊
第六師団第二十一渡河材料中隊
架橋材料第二十七中隊
建築勤務第五十八中隊の一小隊
予備隊
長岡部大佐
歩兵第四十一連隊
捜索第五連隊
独立臼砲第十四大隊
衛生隊
第五師団衛生隊(約三分の一と約六分の一欠)
師団直轄部隊
戦車第一連隊(中戦車一中隊欠)
兵器勤務隊
第二野戦病院
第四野戦病院
第二防疫給水部(一部欠)「
物資蒐集班
三、各部隊任務
1 杉浦部隊
Xー一日夜迄に別紙要図の位置に於て渡河を準備しX日Y時行動を開始し砲
兵隊の突撃支援射撃に膚接して敵岸に一斉上陸し所在の敵を撃砲して前方に
地歩を拡張しX+一日朝迄に「テンガ」飛行場南端に進出す
特に速射砲の一部を要図の位置に配置し敵艦艇の跳梁を阻止す
2 河村部隊
Xー一日夜迄に第一回上陸部隊を以て哩標六付近に爾余を以て要図の位置に
於て渡河を準備しX日Y時行動を開始し砲兵隊の突撃支援射撃に膚接して敵
岸に一斉上陸し所在の敵を撃破して勉めて前方に地歩を拡張す
3 砲兵隊
Xー一日夜迄に別紙要図の位置に陣地を占領しX日朝より攻撃準備射撃を実
施し敵沿岸防禦施設を破壊すると共に敵砲兵を制圧す
第一線両部隊の渡河開始直前より左の如く突撃支援射撃を実施す
第一回 二分間
間隔五分
第二回 三分間
間隔二分
第三回 四分間
第三回の最終弾は曳光弾を発射し「ハ」「ニ」「ホ」の地区に射程を延長す
爾後戦況の進展に伴い先づ山砲大隊を「A」より渡河せしめ第一線両部隊に配属す
主力の前進に関しては別命す
4 渡河作業隊(工兵隊)
Xー一日夜迄に渡河諸準備を完了しX日Y時より師団の渡河に任じ渡河終了
後別紙軍隊区分の如く工兵隊となり師団主力に追及す
渡河作業隊長は別に指示する所に基き渡河作業計画を立案す
5 通信隊 輜重隊
別に計画する所により行動す
6 予備隊 師団直轄隊
Xー一日夜迄に別紙要図の位置に於て渡河を準備し第一線両部隊の渡河進捗
に伴い概ね別紙要図態勢の順序に敵岸に上陸す
上陸後の行動に関しては別命す
予備隊長はXー一日夜迄に別紙要図の位置に速射砲を配置し敵艦艇の跳梁を
阻止す
四、杉浦河村両部隊の戦斗地形境
「マラユ」河河口 「メラウ」河
(線上は河村部隊に含む)
第三 各部隊の編成装備
五、各部隊徒歩編成を立前とす
但し指揮連絡用として最小限の自転車を携行することを得
六、砲兵隊は牽引車のみ携行し戦車隊及捜索連隊軽装甲車隊は自動貨車を携行せ
ず
工兵第五連隊は自動貨車一〇を携行することを得
七、各部隊は弾薬糧秣運搬等の為左記標準に拠り自動貨車を哩標六付近に待機せ
しめ渡河の進捗状況に応じ要すれば渡河し其の主力に追及せしむ
左 記
師団司令部 三
旅団司令部 二
各歩兵連隊 五
捜索連隊 三
砲兵隊 一〇
戦車連隊 一〇
其の他の部隊は右に準じ必要最小限の自動貨車を準備待機せしむ
第四 攻略準備間の行動
八、各部隊は厳に企図の秘匿に勉むるを要す
之が為左記事項に留意す
1、昼間の部隊行動を許すも勉めて敵機に対し其の行動を秘匿す
2、夜間屋外の炊事を厳禁す
3、土民の退避を徹底的にし間諜行為の絶無を期す 又便衣を纏える兵を時々
河岸付近に行動せしめ住民の退避に伴う異状感を呈せざる如く勉む
4、敵岸に退避する住民の絶無を期す
5、第十八師団作戦地境方面より進入する自動車部隊は其の行動特に音響等を
敵に察知せられざる如く留意す
九、水道北岸に進出せる各部隊は厳に工事を実施し渡河準備竝に待機間損害の局
限に勉む
十、歩戦砲工各部隊長は特に現地に就き緊密なる協定を行い渡河実施に方り、齟
齬なきを期すると共に統合戦力の発揮に遺憾なきを期す
第五 通信連絡
十一、攻撃準備間
1 各部隊は現集結地出発以降攻撃準備間松作命丙第六六号に拘らず無線の使
用を封止す
2 渡河準備間に於ける通信網の大要付図第一の如し
十二、攻撃実施間
イ、「ジョホール」水道の渡河間
1、第一回渡河部隊の彼岸達者(状況に依り渡河の中途)と共に無線の封止
を解除す
2、師団通信隊は一部を以て成るべく第一回渡河部隊と共に渡河し水底線を
沈設し師団戦斗司令所乗船時迄之と杉浦部隊間の連絡を確保す
之が為渡河作業隊に於て舟艇一を準備す
3、無線通信の封止解除後に於ては各部隊は同一通信手段の重複各種副通信
の利用を策するの外特に五号又は六号無線機に依る電話連絡の活用に勉
むるものとす
4、渡河間に於ける通信網の大要付図第二の如し
ロ、渡河後
1、師団は渡河後有線を主通信無線を副通信とし前者の幹線は「ブロエステ
ート」ー「テンガー」飛行場ー「ブキットパンジャン」を連ぬる道路に沿
う地区と予定し師団通信隊は戦斗司令所を基点とし主として両旅団及砲兵
隊間の有線連絡に任ず
尚無線は前記部隊間の副通信として使用するの外特に師団司令部と遠隔せ
るが有線連絡不可能なる部隊と師団司令部との連絡に使用す
又通信中枢は師団戦斗司令所の新嘉坡島上陸と共に概ね該島成北岸近くに
之を推進す
2、渡河後に於ける有線網の構成に方りては状況の許す限り在来施設の利用
に勉むるものとし特に重要なる部隊間に在りては被覆線を使用す
但し在来施設の利用に方りては之が使用に先立ち関係部隊相互直接協定し
之が利用区分を厳守するものとす
3、渡河後に於ける通信網の大要付図第三の如し
第六 補給衛生
十三、諸隊は渡河に方り左の如く弾薬糧秣を携帯す
1、携帯弾薬は為し得る限り多数
野砲連隊は概ね連隊携行定数
2、糧秣は左の基準に拠る
イ、各人
精米三日分(内二食分は行厨とす)
乾パン二日分
携帯缶詰肉 三ケ
調味品 粉醤油粉味噌五日分
携行食塩 砂糖各二回分
ロ 、第四野戦病院
重患者食 五百名 一日分
十四、野砲兵第五連隊は渡河に方り携帯する弾薬の外渡河前に使用すべき弾薬を
六日正午迄に師団弾薬集積所より受領し陣地付近に集積準備す
此の際特に企図秘匿に関し留意す
輜重隊はX日より渡場(「ホーナンエステート」)付近に弾薬交付所を爾
後なるベく速かに新嘉坡島内西部「エスブローエステート」付近に推進し
主として歩兵の重火器手榴弾薬の交付に任ず
戦況の進展に伴い「ジョホールバール」方面よりの補給することあるを予
期し該方面よりする補給を準備す
尚逐次中間集積所軍需品を前方に推進す
十六、師団経理部長はX+三日以降渡場付近為し得れば新嘉坡島内に糧秣交付所
を開設し糧秣交付に任ず
十七、第一線部隊に有力なる衛生隊の一部を配属す。衛生隊主力は当初其の一部
を以て水道北岸地区の患者収容に爾余の主力は成るべく速かに渡河し新嘉
坡島内の患者の収容に任ず
十八、第二野戦病院はXー一日夜以降速かに一半部を以て「スンゲイタンガエス
テート」付近に病院を其の他の一半部を以て「ホーナンエステート」付近
に患者療養所を開設す
第四野戦病院は戦列部隊に跟随して渡河し先づ各一半部を以て「エスブロ
ーエステート」西南方約二粁付近に患者療養所を又西部「エスブローエス
テート」付近に病院を開設す
十九、渡河作業隊は自隊衛生部員及舟艇にて以て水上救護班を編成し「ジョホー
ル」水道上に於ける発生患者の救護の上衛生隊に引継ぐ
右患者多発する場合は反航舟艇の一部を以て患者収容に任ず
二十、第二防疫給水部は新嘉坡島に進出後は主として敵の医学的謀略の有無を検
索し之が対策の遺憾なきを期す
第十八師団の作戦計画は次に如くであるが、原本史料はなく、後に作戦参謀が纏たものが「戦史叢書」に記載されている。
第十八師団命令
一、敵は「シンガポール」島に敗退し最後の抵抗を企図せるものの如く、師団正
面の敵情別紙要図の如し
二、師団はX日Y時「テービンルント」及「ツアン」付近より「ジョホール」水
道を強行渡河し、前岸地区の敵を攻撃して勉めて神速に「テンガ」飛行場西南
地区に進出し、「ブキテマ」付近に対する攻撃を準備せんとす
飛行第七十五戦隊及独立飛行第七十一中隊は師団の作戦に直接協力す
第五師団との作戦地境左の如し
三一七高地(ギルギヒル) 一五一高地(南四粁) ぺるぺ河、サリンブル河
河口、テンガ飛行場西端、四三七高地(ブキテマ西北二粁)を連ぬる線
三、左翼隊(歩兵第百十四連隊基幹)は砲兵射撃に連繫し「テービンルント」付
近より一五〇高地及一〇五高地の敵を攻撃し神速に穿貫突破してX+一日払暁
迄に「テンガ」飛行場西南地区に進出すべし
四 右翼隊【歩兵第二十三旅団(歩兵第五十六連隊(一大隊欠)欠)基幹】は砲
兵射撃に連繫し「ランデイングテージ」及「ツアン」付近より三〇高地及二一
五高地に亘る間の敵を攻撃し、神速に穿貫突破してX+一日払暁までに「テン
ガ」飛行場西南地区に進出すべし
五、両翼隊間の戦闘地域の境界左の如し(線上は左に続す)ブア河河口、一五〇
高地西北方五〇〇米凹角海南端、一五〇高地、△二七七高地、△一九三高地東
南五〇〇米蔵菜園西端、同南方一三〇〇米道路屈曲点、同南方一〇〇〇米丁字
路、同東南一四〇〇米疏菜園北端を連ぬる線
六、砲兵隊はX日天明迄に主力を以て「ツリー」(ツアン西方七粁)付近に、一
部を以て「ボツテリイ」付近に陣地を占領し主として左記任務に服すべし
1 敵陣地の破壊及敵砲兵の制圧 全火力
2 突撃支援射撃(渡河正面前線付近の陣地設備の破壊)
全火力
3 第一線上陸以後敵後方の射撃(逆襲阻止及交通遮断)
「セリムブン」付近約二大隊軍砲兵約一大隊はX日早朝よりX+一日一
五〇〇まで師団正面敵砲兵の制圧に任ず
七、予備隊(歩兵第五十六連隊(一大隊欠))は右翼隊の渡河に引続き該方面よ
り渡河し成るべく速かに「テンガ」飛行場西南側に向い急進すべし
八、予は左翼隊正面より渡河し、爾後左翼隊と行動を共にす
第十八師団長 牟多口廉也
近衛師団は、軍命令によりテブローに進出展開し、師団司令部をテブローに開設、陽動作戦のために、水道東端にあるウビン島に進出占領して、シンガポール攻略の準備を進めた。二月七日、西村師団長は師団の作戦を発令した。
近衛師団命令 二月七日二四〇〇 テブロー
一、敵陣地の状況別冊親情報第二十号の如し
軍は八日二四〇〇第十八師団を以て「ぺルパ」河以南地区より、第五師団を以
て「マユラ」河河口両側地区より、水道を渡河し、当面の敵を突破し、努めて
神速に先づ「テンガ」飛行場地区に進出し、次で「ブキテマ」方向に敵を攻撃
す。特に第五師団は、有力なる一部を以て「マンダイ」付近の敵を勉めて背後よ
り攻撃し、師団の陸橋方面よりする攻撃を容易ならしむる筈、第五師団と師団
との作戦地域は、九日〇〇〇〇以降「スンダイ」河、「クランジ」河口、道標
十二哩を連ぬる線とし、線上は師団に属す
軍砲兵隊は、八日朝より九日一五〇〇迄主力を以て第五師団、一部を以て第十
八師団正面に対する敵砲兵を制圧し九日一五〇〇以降主力を以て師団の戦闘に
協力す
二、師団は陸橋西側地区より「ジョホール」水道を渡河、当面の敵を突破し、一
挙に「マンダイ」南側地区に進出、軍主力の作戦を有利ならしめんとす
渡河は九日夜と予定するも別命す
三、歩兵団は、九日日没迄に「ジョホール」西側地区に於て渡河を準備し、二二
三〇其の第一線部隊を以て陸橋西側地区に上陸し得る如く同地を発し、当面の
敵を突破し、概ね南北に通ずる送水管に沿う地区を一挙に「マンダイ」四二二
高地東西の地区に進出すべし
四、左側掩護隊は、東西に通ずる送水管に沿う地区を、一挙に「センバワン」河
左岸地区に進出し、同地付近を確保して師団主力の左側を掩護すべし
特に一部を以て海軍基地方面に対し警戒すべし
五、歩兵団と左側支援との戦闘地境は「マンダイケチル」河の線とし、線上は左
に属す
六、砲兵隊は、逐次諸準備を完成しつつ、八日夜一部を以て「テブロー」河口東
北側地区及「クランジ」河口対岸に主力を以て南部「ジョホール」東西の地区
に陣地を変換し、左の任務を服すべし
⑴ 渡河準備間
イ、九日払暁以降「カンポンクランジ」及「ウッドランド」を各中心とする
半径一六〇〇米の線(以下迫撃陣地線と仮称す)内方及外方約一粁の線以
内の特火点及敵砲兵の破壊又は制圧、特に「ウッドランド」西南に通ずる
鉄道及道路に沿う地区の特火点永久家屋の破壊
ロ 、一部を以て「クランジ」河に潜伏する敵小艦艇の撲滅
⑵ 渡河実施及爾後の攻撃間
イ、攻撃準備射撃
迫撃陣地線内方及外方約一粁の線内の特火点 敵砲兵の制圧
師団長 西村中将
別紙 軍隊区分
歩兵団
長 小林少将
近衛歩兵団司令部
近衛歩兵第三連隊第三大隊
同 連隊砲及速射砲中隊各半部
近衛歩兵第四連隊
独立速射砲第一大隊の二中隊
近衛工兵連隊第三中隊
衛生隊三分の一
左側掩護隊
長 淵少佐
近衛歩兵第五連隊第二大隊
同連隊砲中隊二分の一
同速射砲中隊
近衛工兵連隊第一中隊の一小隊
戦闘救護班一
砲兵隊
長 野村大佐
近衛野砲兵連隊(第一、第三大隊の各一中隊欠)
戦利砲兵一中隊
工兵隊
近衛工兵連隊(第一、第二中隊の各一小隊)
渡河作業隊
長 鈴木大佐
独立工兵第二十連隊
独立工兵第二十六連隊の一中隊
予備隊
近衛歩兵第五連隊(第二大隊、連隊砲中隊半部)
爾余の諸隊
戦車第十四連隊
師団通信隊(無線二分隊 有線一分隊欠)
近衛輜重兵連隊
兵器勤務隊
衛生隊(三分の一欠)
第一野戦病院
第二野戦病院
第十二防疫給水部(四分の一欠)
各兵団は攻撃準備に向けて行動していたが、攻撃開始日にまで四、五日しかない状況で、特に渡河に関する舟艇の準備等忙殺していた。砲兵隊は陣地配備が終わるや、シンガポール島に向けて砲撃を開始したが、英国側も反撃の砲撃を行なってきた。大砲の弾を出来得る限り貯蔵して、有効射撃を行うべく計画を以ての砲撃戦となった。
刻々と上陸日が迫っていた。
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