第13話 三章 幕間



「……アンタ、いつもこんな事してんのか?」



遺跡の最奥ここに着くまでに、命が幾つあっても足りないような罠を何度も越えてきたが故に出た呆れ混じりの問いかけ。

呼称は、胡散臭いオッサンに対する妥協の産物だ。

さすがに、毎回乱闘をするのは骨が折れる。

正直、今でも気を抜けばオッサン呼ばわりしそうになるのだ。

敬語とかはどうでもいいくせに、変な所で気を張らなければいけないのだから面倒くさい。



「おう、楽しかっただろ?」



当のオッサンは見当外れの答えを返し、子供のような笑みで振り返った。

良く分からない遺跡の最奥で手にした秘宝片手に。



「見てみろよ、この輝きを。吸い込まれそうなくらいの妖艶さ。まるで自分の全てを貢いでしまいたくなる最高の女みてえじゃねえか」



素人目にも随分な値打ちモノだという事くらいは分かるが、それだけだ。

確かに、オッサンの手にした宝石細工の中央に嵌められた大きなルビーはどこか怪しい輝きを放っているようにも見える。

けど、所詮は宝石。美女とは似ても似つかない。



「目が……いや、頭おかしいんじゃねえの?」

「まったく。これが分かんねえから、お前さんは子供なんだ」



ガキみたいな大人に言われたくはないセリフだった。



「ガキ扱いすんなって言ったよな、オッサン」

「お前こそ、オッサンと呼ぶなって言ったはずだよな、クソガキ」

「「…………」」



――やるか。



意思の疎通だけは完璧だった。

揃って指を鳴らし、これから起こる殴り合いに備える。

距離が縮まり、殴り合いが勃発する寸前。

遺跡全体が揺れ始めた。



「「…………」」



嫌な予感。

無言の中、視線でお前何かやったかとお互いが責めるように尋ねる。



「よし、逃げるか」



そう言い残し、一足先に脱兎のごとく駆け出すオッサン。



「あ、ずりい!」



それに一拍遅れ、慌てて後を追う。



「絶対にアンタのせいだろ!」

「アホ抜かせ! 俺はこれでもベテランだ。つまんねえヘマはしねえ。お前のほうこそ、知らない内に何かやらかしたんだろう!」

「俺はアンタの後を追ってただけだ。何も触っちゃいねえ!」



崩れ落ちる遺跡。

徐々に酷くなっていく揺れと騒音。

それに負けないよう二人して罵り合いながら、負けじと遺跡を駆け抜ける。

抜かし抜かされ、追いつ追われつ。

オッサンガキには負けないと、意地を張り合っての全力疾走。

結果ゴールにたどり着いたのは、どちらが先かも分からないくらいに同時だった。



「「…………はあ……はあ……、はあ……」」



しばらくは地面に倒れ込み、少しでも多くの酸素を肺に取り入れる。

背後では入口が崩れ落ち、勢いよく土煙が噴き出た。

這うようにしてその範囲から脱し、ようやく一息つく。



「どうだ……。スリル満点で面白かっただろ?」

「どこがだ……。アンタの頭がおかしいって事だけ、良く分かったよ……」

「そうかよ。その割には、良い顔で笑えんじゃねえか」



一足先に立ち直ったオッサンに頭を一撫でされる。そうして一人、ひらひらと手を振って先を行く。

思わず口元に手をやる。

知らず、口の端が浮かんでいた。



「……うっせえ、ばーか」



なぜだかそれが無性に恥ずかしくて、か細い悪態しか吐けなかった。



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