第7話 二章
部屋に戻って、ベッドに優しく降ろされる。
「ほれ、足を見せてみろ」
「……はい」
伸ばした足を、士道が片膝立ちになって手で支えた。
傷口に刺激がいかないよう労りながら足の汚れをふき取り、手当てをしてくれている。
真剣な表情はあの時のまま。
――
だから思わず、最後のセリフが思い起こされた。
あの決め顔はムカつく。が、不覚にも、反射的に言い返そうとしたのに言葉が出なかった時点で密やかながらも負けを認めざるを得ない。
「…………悪くはないです」
「何がだ?」
知らず出た呟きを拾われたようで、一瞬だけ体が固くなる。
「別になんでも――」
反射的にごまかそうとして、だけど正直な言葉に変えた。
「……名前がです。ただ、個人的には本人と全く合っていない挙げ句、話しに聞くサムライが東郷みたいな人だったのが残念ですけど」
「相変わらず辛口だねえ」
士道は飄々と受け流し、治療を継続している。
正直、今更だ。
現に、口をついて出た言葉も精彩を欠いている。
それに、思えば珍妙な誘拐に始まり、今まで襲われなかったという点で紳士の端くれとして認めなくもない。
「正当な評価です。……それとフィオ。私の事はフィオと呼んでください。私もシドーと呼ばせてもらいますから」
「了解したよ、フィオ。そんじゃま、改めてよろしくな」
「……はい」
治療は終わりと、包帯を巻き終えたシドーがポンと足を叩く。
軽くあしらう様は、どう見たって堪えてない証左だ。
その余裕が妙に癇に障る。
ぞんざいな扱いというわけでもないが、子供扱いされているようで腹が立つのだ。
でも、それを言葉にすればそれこそ子供みたいで口に出来ない。
そう思い至ればなぜだか体温は上がってくるし、シドーの方を見れなくなる。
月明かりだけが照らす室内は薄暗い。暗闇に目が慣れた所で顔色まで分かるはずもないというのに、思わず布団に入って目元まで持っていく。
近くにシドーがいなければ、じたばたと転がりまわっていただろう。
「ありがとうございました」
「どういたしまして」
自分のベッドに戻るシドーは背中を見せたまま、片手を振る。
「…………ばか」
やっぱりぞんざいだ。
布団に潜り込む最中のシドーに、その言葉は届かない。
考えがまとまらない中、それでも睡眠不足の体は知らぬうち眠りに落ちる。
二度目の眠りは、何の
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