第4話 準備できた?(プエラ次第)

リーチナーが影に潜って何故か黙りこくってしまったところでようやく今の服装に目が行く。今の格好は最終日でフィールドに出ることを考えていなかったので動きやすさ重視の格好だ。今から会うのがギルメンだったら何の問題もないがこれから来るのは一様部下に値するNPCたちだ。上に立つものはそれにふさわしい格好というものがある。

豊富な衣装データクリスタルから何が良いかを探しているとふと、とりわけ一緒に行動することが多かった084おやじさんからもらったデータクリスタルを思い出した。



「084さ~ん、プレゼントって何ですか?」

「ミゾンさんこんにちわ。ログインしていきなりそれですか?」

「あ、こんにちわ~。だって、メールでプレゼントがありますよなんて書かれてたら気になるじゃないですか~」

「そこまで気になるものですかね~?まぁとりあえずこちらをどうぞ」

「お。データクリスタル?」

「ええ」

Tesテス、ですよ084さん」

「あ、そのルール生きてるんですか?」

「生きてますよ~!!」

「分かりました~。Tesテス、防具のセットを記録したデータクリスタルです」

「うそっ!セットのデータクリスタルってめっちゃ高かったですよね?」

「ははは、それほどでもないですよ。一か月ほど昼ご飯を抜けばどうにかなる程度です」

「いや、ダメでしょ!女性なんだから体には気を使わなきゃ!」


「お~い、それじゃあ俺たちは気にしなくていいのかよ~」


「そうでーすよーだ!ソルトさんたちは男なんですから少しは我慢してください!」

「あははっ、厳しーなぁミゾンさんは」

「そんなことないですよ~。それで!中身は?」

「え~とですね。ここ謁見の間に椅子、あるじゃないですか」

「教皇椅子ありますねぇ」

「そのの教皇椅子に座れるのはあなただけじゃ無いですか」

「座る予定はありませんけどね~」

「予定に無くてもスクショのために座ってもらうかもしれませんよ?それで、座った時にかっこいいように、言わば『教皇装備』的な奴を作ってきましたよ!」

「え!!なにそれ!?強そう!」

「ふふ~ん、ランラン姉妹に手伝ってもらったりしまして何とかできましたよ~。具体的にはですね――――



ああ、あの頃は新人さんが入ってきたりと楽しかったな~。

過去の光景を思い出しながら衣装変更特殊技能スキル――課金もした結果、五十種類以上の装備を登録できるようになった――に登録してあった『教皇装備』を選択する。ユグドラシル時代と違いスクロールから選択するのではなく、頭の中に思い浮かんでくる登録衣装からこれだ!というのを選ぶ感じに近かった。

はっきりとした感じがせず不安が残るが、非常時に両手を空けておけるのは心強い。あとで練習でもしてみよう。

光も出さず一瞬で変更された衣装は白を基調としていた。というよりほとんど白しかなかった。とはいえ、同じ白ではなく明るさが場所によって違っていた。

露出が控えられ、体に沿うようなきつめの胴に開きが浅めの長いスカート、つまりはドレス。それに肘まで覆うことが出来る長い手袋。靴はピンのローヒールで頭には黒子頭巾。の白色バージョンだから白子頭巾といいべきだろう物をかぶっていた。

顔を隠す布のせいでわずかに視界が白いがとほとんど行動には影響はないだろうことが予想できる。布は顎下までの長さで左右下には風で布がめくれないように重りとして十字架がつけられているが重さはあまり感じない。少々役目を果たせる物か不安だ。

右下についている十字架を持ち上げてみると、そのデザインには見覚えがあった。

「これってノンソーロム神殿の十字架よね~」

その十字架はノンソーロム神殿のいたるところに見つけることが出来るもので、ギルドメンバーのみんなにもこの十字架をモチーフにしたアイテムを配布したりしたことがあったのを思い出す。

サービス中に教皇椅子に座ったことがなかったため着ることがなく、今まで気づかなかったが084さんたちの細かいつきこみが伝わり頬が緩む。

「すごいわね~。多分ランラン姉妹が手伝ったのってここよね。084さんはキャラ専門でこういったアイテムは苦手だったもんな~」

というかこの装備、防御力がちょっと頭おかしいレベルで高い。変更する時に謎パワーで教皇装備に関する情報が伝わってきたのだが神器級ゴッツには及ばないがの防御力なら戦士系が相手でも二分は耐えられる防御力だ。見た目だけではなく素材には貴重アイテムを山ほど使っているはずだ。いつの間にこんなものを作れるほど集めていたのか。ギルド倉庫に大きな変動はなかったから一から集めたはずだ。

そのやる気と根性に素直に敬意を抱く。

けどまぁ、動きにくいことで・・・・。

長いスカートのせいで足を大きく動かすことが出来ない。戦闘時には激しく動くことが多い私にとっては窮屈でしかなかった。

「この見た目なら大丈夫かな?リーチナー、どうこの格好」

『ミゾン様の威厳と美しさが引き出されていると思います』

「そう、よかった~」

リーチナーが影にいる間は伝言メッセージで会話か。どこからともなく声が響くとかいうホラーにならなくてよかった。

『ミゾン様。正面大扉前に反応が十、十二人の守護者トランプだと思われます』

ついに来たか。

「ここから声をかければいいのかしら?」

『いいえ、それでははしたないと思われます。シスターや天使にさせるべきかと』

シスター達レベル一NPCは自室に避難させているから今扉の前にいるのは門番の智天使ケルビム・ゲートキーパーか。衣装変更の感じからして頭の中で念じればいいのだろうが思考というはっきりしないものは不安だ。

門番の智天使ケルビム・ゲートキーパー、扉を開けなさい」

これで反応がなかったら恥ずかしいどころではないがどうやら聞こえたのか、もしくはしゃべったことで開けるという動作が思考されたせいかわからないが扉が震え、開かれていく。

完全に開かれた扉から入ってくるのはリーチナーの報告に合った通り十人。

その中には人間種も異形種もいる。

縦二列になっていた彼らは入る前に一礼をし、謁見の間に入ってくる。

入ってきた彼らは私までの距離がカーペット全体の三分の一ほどの距離に来ると今度は横二列になったあと膝をつき、頭を下げた。

集めたのは私だ、私が何かを言わなければならないだろう。

十二人の守護者トランプの皆さん。よく集まってくださいました。素早い集合、私はうれしいです」

「いえ、遅くなっしまい申し訳ございませんでした」

私が聞いた三人目の声は渋いおっさんの声だった。名前はたしかクダツ。オールバックなのに痛さを感じない顔つき、顎鬚とオレンジが所々入ったジャケットも相まっておっさんというよりダンディなおじさまという感じだ。

他の九人の様子を見るとクダツが言ったから言葉には出さないけど同じ思いなのだろうことが微妙な頭の位置から読み取れた。

「そんなことはありません、ですがそう言うなら許しましょう」

「ありがとうございます。ミゾン様」

ここまではお決まりなのだろう。上司が部下のねぎらいを言葉をかけ、部下がそれを遠慮し謝罪、そのあとでもう一度上司がねぎらいをかけることでやっと受け入れる。

うん。ドラマとかで結構見たなぁ~。

「さて、今回はお話をするために集まってもらったのですがそのまえに、十二人の守護者トランプよ、名乗りなさい」

何となく「よ」とつけてしまったが教皇が言いそうな言葉かなぁ・・・・。



Tesテスタメント


全員が立ち上がり、一番端にいたクダツから礼をする。

十二人の守護者トランプの一、クダツ。今ここに」


次に例をするのは長い白髪をもつ筋肉質な女性。

十二人の守護者トランプの二、ナルン。今ここに」


続いて、一切飾り気のない、ただ人面の仮面をつけただけの細身のゴーレムが、

十二人の守護者トランプの三、パボン。今ここに」


亀が立っったような黒色の異形が、

十二人の守護者トランプの五、モーティスクラ。今ここに」


純白の六翼を持つ有翼女性が、

十二人の守護者トランプの六、クーモンド。今ここに」


青髪を一つに束ねた吸血鬼が、

十二人の守護者トランプの七、エルヴァージュ。今ここに」


黒髪で右目を隠す小柄な女性が、

十二人の守護者トランプの八、ジェンフィー。今ここに」


金髪をショートボブにまとめた女性にそっくりなオトコの娘が、

十二人の守護者トランプの九、イリエボ。今ここに」


紅赤の髪の束を二つ揺らす女性が、

十二人の守護者トランプの十、ギリア。今ここに」


髪を逆立たせたエルフの男性が、

十二人の守護者トランプの十一、シュバンラテフ。今ここに」


そして、クダツが再び頭を上げる。

「任務中のプエラ、および欠番の十二を除く十二人の守護者トランプ十名。い

ま御身の前に」



ゆっくりと、偉そうに私はうなずく

Tesテス。それではお話もとい、会議を始めましょうか。でも、そのまえに――」

教皇椅子に座ったまま異空間から長剣を取り出し十人の中心あたりに投擲する。

私の手を離れた長剣はヴェールをかすかに揺らしその先へ、クーモンドとエルヴァージュの間に突き刺さる。

十二人の守護者トランプはなぜ私が同士討ちフレンドリーファイアもどきを行ったのか理解できず、硬直する。その間

お~う。ユグドラシルと同じ感覚でやったけどアイテム欄に入れていた武器がとれてよかった~。もしとれなかったら指差しする予定だったけどこっちの方が緊張感でるよね・・・。

などとくだらないことを私は思っていた。

衣装変更と開門の時から何となく予想していたがこの世界では結構思考が大切らしい。

この後いろいろと検証の必要があるだろう。

でもその前に続きだ。

十二人の守護者トランプとあろうものが何故警戒レベルを最大に上げているのに即時戦闘可能状態ではないのですか。驕っているのですか?であれば話になりませんよ」

右足を床に叩きつけ怒りを表す。

「も、申し訳ございません!」

十二人の守護者トランプ全員の顔に怯えの色が浮かぶ。特に長剣の付近にいた二人は震えが結構な距離があるここからでもわかるほどだった。

直後、全員が完全武装になる。衣装変更のアイテムを持たせているため変更は一瞬だ。

「偉大なる御方の前で武装をするのは失礼に値すると思っておりました」

ナルンが恐る恐る意見を口にする。

Tesテスたしかに通常時では不敬でしょう。ですが今は非常時です。もしもに備えてください。それともなんですか?その武器を私に振るうほどあなたたちの忠誠は低いのですか?」

「い、いえ!一切そのようなことは考えておりません!!」

勢い良く立ち上がるナルン。

「ならかまいません。ですが非常時でも私に敬意を持ってくださってありがとうナルン」

会釈をし、上げた顔でナルンに微笑む。

直後ほかの十二人の守護者トランプの視線がナルンに突き刺さる。その視線は嫉妬のように感じた。

十二人の守護者トランプにとって私に褒められるってそんなにうらやましいことなのか?後で他の十二人の守護者トランプも褒めないとギスギスしちゃうのかな?それは嫌だな。

「も、もったいなきお言葉!ありがとうございます!ですがミゾン様、我らごときに頭をおさげになるのはおやめください。我々にそこまでの価値はありません」

ナルンがかぶりを振ってそう喋った。

う~ん。十二人の守護者トランプにとって会釈レベルでも頭を下げるのは駄目らしい。上に立つというのは難しいなと実感する。

だがさっきの発言に聞き逃せないところがあった。

「ナルン」

できる限り優しく。母親が子供に諭すように。

「あなたたちはとても価値がある存在です。具体的に言えばこの神殿そのものより価値を感じています。ですからそのようにおのれを卑下しないでください。私は悲しいです」

事実、ノンソーロム神殿を失ったとしてもNPCかぞくさえいれば私は満足するだろう。

「ミ、ミゾン様・・・・・!我々のことをそこまで・・・・・。ミゾン様により一層の忠誠をここに誓わせていただきます!!」

ナルンが再び膝をつき首を垂れる。

さっきまで一人で立っていた状態だったので勝手にもう一度膝にをついてくれてよかった。うまく姿勢を下げさせる理由が私には思いつかないからね。

Tesテスでは話を戻しましょう。頭を上げてください」

十二人の守護者トランプが頭を上げやっと話し合いができる状況になった。

「あなたたちは今十二人の守護者トランプが十一人だと思っていますね」

そう、私は話を切り出した。

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