第13話 番外編 彩香の頭の中

 彩香はお腹を空かしている

 だから食べたいと思っている。それは好物なんかじゃないけども、見ると無性に美味しそうで、それ以外に食べたいとは思えないほどに魅力的見えた。だけど食べようとして手を延ばすと逃げてしまい、素早くて追いつけないので満足に食べたことは無い。


 歩いてはいるけど特に何も考えてはいない。

 なんとなくとか、気になるからとかでもなく、日頃の習慣から歩いているだけでその先に何があるかなんてのは意識していない。まったくの無意識だ。それは以前は通学路として使っていた道だけど関係のないことだった。


 ゆっくりと歩いているうちにもぞもぞと動いている塊があった。

 人が三人、一人は地面に仰向けに倒れていて、その傍で屈んでいる人が二人、いや影にもう一人。その一人の体は半分が轢かれたカエルみたいにボロボロでかろうじて繋がってるだけに見えた。それでもその人は気にしている様子もないし元気だ。


 彩香は空腹以外は何も思わない。

 どんな光景を目にしても驚いたりしない。空腹以外の感情はどこかに無くしてしまっているからだ。だから何かを見ても、それが食べたいと思うものか、そうでないかを本能的に感じるだけ。

 倒れた一人を囲んでいる三人からは音が聞こえてくる。何かをちぎるような音に水のしたたるような音。


 彩香は音なんて気にしていない。右の耳から入って左からスルリと抜けるだけ。それが音とすら認識していない。でも倒れた人が起き上がって歩いたりしてたてた音ならすぐに反応したかもしれない。きっとその後をついて歩いたに違いない。ただもうその人は音をたてたりしないので関係のないことだった。

 四人に近づいて彩香も一緒に屈んだ。倒れた人の首から下は白い芯が露出していたけども彩香は特に気にしなかった。まだほんの少しだけど残っていたから。



 彩香は久々に満足していた。でもやっぱり少し物足りない。

 いつの間にか倒れた人はいなくなっていた。足元に棒切れみたいなものがあるけど特に興味は無い。傍にいた三人にも特に興味は無い。

 雨が降ってきた。彩香は体が濡れても気にしない。ずぶ濡れになっても何も感じない。ぼうっとしていて気怠い感じで自分がどこ向かって歩いているかも知らない。



 しばらく歩いていると行き止まりにたどり着いた。なんだか人もいっぱいいる。そばに居る人達に興味は無いけど、この行き止まりの向こうからはなんだかおいしそうな気配がいっぱいある。

 何かが飛んできて、隣の人の頭に当たった。「うー」とちょっと不快そうに唸っていた。

 足元に丸い物が沢山転がっている。やっぱり彩香は気にしない、だってゾンビだから。

 ただなんとなくだけど、行き止まりの向こうには懐かしいような親しいような気配を感じていた。

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