第四話 脱出準備
外へ出るとは決めてはみたものの、
やはり出入口がどこにあるのかという疑問に話が戻る。
分かりやすい出入口が存在しないのは最早明確だ。
無ければ作るしかない。
まずは空を見上げてみる。
あの太陽のような照明は高度な技術だが、明らかに太陽ではない。
天井についていると仮定すると、登れば辿り着ける道理になる。
天井から出られる可能性があるかを探る為、
割れたらどうしようと思いつつ彼は空に向けて太めの枝を投げてみた。
しかし、彼の投擲力では何度投げても届く気配がない。
天井はとても高いようだ。あるいは天井など無いのかしれない。
そもそも空に天井があったとして、辿り着ける手段がなかった。
彼は別の手段を考えることにする。
次に地面を見下ろしてみる。
掘り進めばもしかしたら外に出られるかもしれないと彼は考えた。
掘るだけであれば、大掛かりな道具などが無くても何とかなるかもしれない。
しかし仮に地面を掘り進んだとして何があるだろうか。
彼は想像してみる。
一番良いのは直接外に繋がっている可能性だ。
脱獄みたいで気分が悪いが、抜け出すことが可能になるだろう。
次に良いのは館内の別のフロアに出る可能性だ。
ここがどのような施設なのかを理解することが出来る。
リスクとしては脱走した事が他者に伝わってしまい、
元に戻される可能性や最悪殺される危険性がある事だ。
あまり想定したくないケースとしては、
他の全く同じような部屋の天井に繋がってしまう事だ。
ここと同じ構造である可能性が高いのであれば、天井があの高さだ。
その部屋の主とコミュニケーションをとれる可能性も、
まして降りて話をする可能性もかなり低いと考えて良いだろう。
最悪のケースとしては、
掘り進んだはいいが底は非常に硬い物質で出来ている可能性だ。
しかもこの可能性が一番有り得そうだ。
徒労に終わった事を嘆くまでに時間がかかる。
地面を掘る時間が読めない。
失敗した時に次の計画を練るまでの気力を練るのが大変そうだと彼は考えた。
しかし現段階ではこの案が有力候補だ。
空間のループが天地に左右している可能性もゼロではない。
地面を掘る以外の選択肢も見つけたいというのが彼の本音だ。
抜け穴みたいなものがあれば、と考えた所で彼は勢いよく身を起こす。
滝が発生している所は穴ではなかっただろうか。
滝の水を普段から利用しているにもかかわらず、めったに見上げる事はない。
確証はなかったが少し大きな穴から水が流れ出ていたはずだと彼は思い出す。
彼は滝のある方向に走り、
「あった。」
と思わず声に出した。
少し離れた正面から見る穴には奥行きがあるように見える。
人が立って歩いても問題ない高さと十分な横幅があった。
水の流れもそこまで急ではない。
これはあの穴が本当に入れる構造であれば行けるのではないだろうか。
彼の鼓動が高鳴る。
あそこに行くにはどうすれば良いだろうか。
彼は真っ先に針葉樹を思い浮かべる。
多分折る事は出来る筈だ。高さも問題ない。
表面が滑らかなので、少し木登りの練習が必要だ。
木を折ってから滝の付近までは転がして持って行くとして、
それからどうすれば良いのだろうか。
果たして細いとはいえ、木を持つことなど出来るのだろうか。
彼の疑問は尽きない。
そもそもあの穴が入れるかどうか。
穴に木を立て掛ける事が可能を確かめるのが先決だと彼は考えた。
彼は太陽に向けて投げていた枝を滝の麓に持って来て、
穴に向かって投げてみる事にする。
枝は穴の中に向かって飛んでいき、水と共に落ちてきた。
成功だ。確かに穴には奥行きがある。
その事実に彼は興奮する。
次に穴の縁を目掛けて枝を投げ始めた。
数度目のトライで枝が穴の縁に命中し、
確かな手応えと共に落下する事が確認出来た。
木は穴に立て掛けられるという事だ。
彼はこの空間に脱出出来る大きな可能性を見出した。
木をどのようにして起こし、立て掛けるのか。
案外やってみれば簡単に起こして穴に立て掛ける事が出来るのかもしれないが、
彼には確信が無かった。
木は一本しかないので、折った後に出来なかったでは済まされない。
どうすれば良いだろうか。彼は途方に暮れながら木に向かって歩く。
折れた木が乾燥するまで待って軽くする方法もあるが、非常に時間がかかる。
確か半年は掛かるはずだと何かの番組で聞いた事があった。
そこまで先延ばしにする事は出来ない。
いずれにせよ木登りの練習をしてから木を折るという彼の結論は変わらない。
まずは木登りの練習を行う事に彼は決めた。
穴に上手く木を立て掛ける事が出来ても、
登っている最中に木が転がってしまう可能性がある。
上手く登れない可能性も考慮にいれた体重移動を身に付けなければならない。
最悪の場合は立て掛けた木が外れてしまい大怪我をする事も想定される。
彼は入念に木登りの練習を行った。
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