第八話 水源へ
カレルと別れてからしばらく経つ。
彼はまだ穴の中を歩いていた。
水源を辿るという明確な目的が出来た為、水の流れをじっくり観察しているのが歩みが遅い原因だ。
ずっと気になっていた事だった。
この水がどこから来ているのか。
水源には何があるのか。
知っておくに越した事はないと彼は判断した。
十字の水路が溢れず流れている事を改めて不思議に思う彼だったが、
よく見ると十字路での水の流れにはパターンがあることが分かった。
十字路に見えて段差で交差している場合や、十字路でカーブを描く場合。
三方向からの流れが十字路で一つの流れに集約される時もあった。
毎度の事ながら原理はわからないが、水中に水路があるのかもしれない。
前回と変わらず、彼は曲がり角に目印として草を置いている。
カレルが追ってくるかも知れないという期待もあるので、
草を置くのも少し目立つ所を選んでいた。
カレルが彼に贈ったカゴのお陰で、食料の心配はしばらく必要ない。
知人が居ないこの世界で、自身が何を目指していくべきなのか。
彼が今ここに存在しているのはどのような理由なのか。
今は一体彼がいた時代からどれくらい先の未来で、どのような時代なのか。
長い道中は彼に色々な事を考えさせる。
カレルに出会った事で解決出来た疑問も多かったが、
まだまだ残っている疑問の方が遥かに多い。
閉じ込められているような状況から鑑みるに、
これから新しい出会いがあっても、その人から聞ける情報で完璧に状況を理解出来る可能性は薄いと彼は考えている。
自分一人では思い付く事に限りがある事もカレルに気付かされた。
全てを知るには自分以外の人間と知恵や力を合わせ、
この状況を脱する必要があるのだろう。
水源の情報はその一助となる事を彼は確信している。
新しい出会いへの希望が彼の歩みを支えていた。
彼は根気強く水流を見続け、ついに水源と思われる広間に辿り着いた。
非常に明るい。遠目にもかなり広い事が分かる。
中央には巨大な水のような球体が浮いていた。
彼はその光景を見ても最早驚かない。
単純に「凄いな」という感想を抱く程度には感覚が麻痺していた。
球体から流れ出た水が中央の水たまりに落ちて分岐しているようだ。
広間の入口付近まで近付いて確認した所、三十二本に分かれている。
これが最終的に滝になるのだろう。
彼はそれを見て、自身やカレルと同じような人間が少なくともあと三十人いるのかもしれないと考えた。
いざ広間に入って間近で球体を確認しようとした彼を、突如強烈な違和感が覆う。
何か危険な見落としをしているような気がする。
彼は慌てて身を隠して再度広間を見渡す。
一通りぐるっと見渡した後、
水の球体に視線を戻した時に彼は違和感の正体に気付いた。
水の球体の前に少し大きい人型の像がある。
先程までそこに像などあっただろうか。
彼の背筋を冷たいものが走る。
そのまましばらく眺めるが、像は動く気配がない。
勘違いだったかと彼が気を抜きかけたその時、
像は元々そこに何も無かったかのように突然消えた。
息を呑んで周囲を見渡す。どこにもない。
じっと様子を伺っていると、しばらくして元々そこにあったかのように突然像は姿を現した。
罠だ。
彼はここに来て初めて、直接的な命の危険を感じる。
同時に疑問も覚えた。ここは間違いなく高度な文明だ。
穴の中にセンサーが設置されているなら既に発動している筈だ。
彼が歩き回っていることを気付かれていないはずがない。
あの像は広間だけを守っている。
何かを守る必要があるという事だ。
どのような罠が発動するのかは分からないが、
恐らく銃やレーザーといった、彼が想像出来る攻撃とは全く異なるのだろう。
彼は像が出現してから消えるまでの時間を何度もカウントし、
彼の数えるカウントで約180秒から約300秒の間で出没するのを把握した。
何を守っているのか。
まさか宝ではないだろうと彼は考える。
水源が大切だから守っているとも考えにくい。
自分達が部屋に閉じ込められているという感覚を前提に考えると…。
自ずと答えが導かれる。
十中八九出入口だろう。
どのような罠があるかわからない以上、一人で迂闊に手を出す訳には行かない。
彼は仲間を見つけてから再度来る事を決意した。
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