閑話 反逆罪
―どのような罪状でその場に立たれているのか、認識されていらっしゃいますか。
どことなく無機質な女性の声が響き渡る。
全てが白一色の明るい空間に、女性がただ一人立っている。
無機質なその声はその女性に問い掛けているようだ。
「はい。反逆罪の罪に問われています。」
彼女は正面を向いたままはっきりと答えた。
―ご認識通りです。あなたは反逆主義者集団の幹部の一人として捕縛されました。誤認があれば今、この場で異議を申し立てて下さい。
「異議はありません。」
女性は負い目を一切感じさせない、毅然とした態度で応答する。
―減刑の申請についてご案内致します。
特例として、あなたには幹部の居場所をご教示頂ければ減刑が適用されます。
反逆罪には非常に重い刑罰が課せられるのは御存知でしょうか。
減刑が適用されるよう、ご利用をお勧め致します。
なお、首魁の捕縛にご協力頂ければ大幅な減刑、恩赦の可能性もあります。
「折角のお申し出ですが結構です。」
彼女は全く迷うことなく返答する。
―減刑の申請をご利用になられない事、承知致しました。
誠に遺憾ではありますが、刑の執行の手続きを進めさせて頂きます。
刑を執り行うにあたり、不明点などございましたらお尋ね下さい。
あなたに適用される刑は…
「反逆罪がどのような刑になるのかは把握しています。
それより、質問をさせて頂いても良いでしょうか。」
言葉を遮って彼女は質問する。
―不明点ですね。どうぞお尋ねください。
「有難うございます。
刑を執り行うにあたり、家族や友人に対して言葉が残せる。
そのような権利があると聞いたことがあります。
私もそれを利用する事は可能でしょうか。」
―あなたの場合、反逆を教唆するような内容が含まれているか検閲が入ります。
内容に問題ないと判断された場合は指定した家族へとお届けする事が可能です。
「そうなのですね。それは歌でも良いのでしょうか。」
―確認した限りでは前例はありませんが、五分以内なら問題ありません。
「有難うございます。では、実家にいる父に届けて頂いても良いでしょうか。
私が生きた証明に、好きだった歌を贈ります。記録をお願いします。」
―承知致しました。どうぞ。
彼女は歌い始める。彼女が歌う間、静かに彼女の歌だけが響き渡っていた。
彼女は時間に若干の余裕を残して二曲を歌い終え、満足気な表情を浮かべる。
「すっきりしました。ご清聴有難う御座います。」
何もない空間へと彼女は頭を下げた。
―記録にはない曲でしたが、とても素敵だったと感じます。
「審議官でもお世辞が言えるのですね。少しくすぐったいような気分です。」
彼女は少し表情を和らげて説明する。
「先程歌ったのは二曲とも国歌と呼ばれていたものです。
世界がいくつもの国に分かれていた時代があったと聞きました。
その時に国を象徴する歌として存在していたそうです。」
―国が分かれていた時代は西暦時代までですね。
歌が残っている記録は他に見た事がありません。
伝承として残っていたのであれば貴重な資料にもなる事と思います。
内容に問題はありません。あなたの父君にお届けしておきます。
審議官の反応に彼女は満足そうに頷く。
「祖母から伝えられました。先祖代々伝わっている曲ですね。
正確な言葉の意味はよくわからないのですが、何となく響きが美しいですよね。」
―そうですね。貴重な歌を有難うございました。
大変申し訳ございませんが、間もなく刑を執行するお時間となります。
無情に告げられた言葉に、彼女は少し寂しそうな表情を浮かべる。
「さようなら。最後に一つだけ良いでしょうか。」
―どうぞ。
「私が反逆罪である事は承知しています。
しかしあなたは私が何に対して反逆していたか知ってい…」
白く明るかった室内が突然暗転する。
全てを語れる事はなく、彼女は闇へと呑まれていった。
―さようなら。
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