第2話姉についてアレコレの巻

 ときは元号が平成にかわるほんの少し前。ところはT県の西のはし芯斗市中那村。

 ウチは、古い木造の日本家屋である。家族は姉と私、そして弟と父と祖母。


 姉について思い出すことを書いていこう。

 緒方カズ代、T県立高校三年、応援団所属。容姿端麗にして成績優秀。また永津流拳術の使い手である。

 すきなアイドル(?)は「本郷猛」。姉は「仮面ライダー1号」に変身する本郷猛の大ファンなのだ。


 ペットといっていいのかわからないが、可愛がっている動物はいる。イノシシの「カブ」と「マグ」である。

 昨年の冬、猟友会のひとがイノシシを仕留めたとき、まだウリ坊だったこの二頭を保護したのだ。渡賀さんと円村さんがどうしようか悩んでジョウ治師匠に相談したら、かれは自分の家の空き地にウリ坊小屋を造り、自治体の許可もとって飼いはじめたのだった。どんどん成長し、もう大人のイノシシと変わらない。姉は、この二頭を世話し、二頭もまた、よくなついた。名前をつけたのも姉である。ちなみに次の子がきた場合、名前は「ドク」になるそうだ。

 今は、板づくりの塀で囲んだ空き地で暮らしている。姉の自転車の音を聞いたらとんでくるそうだ。


 姉がいつも身につけているのは白いウエストポーチ。いわゆる「変身ベルト」である。姉は「タイフーン」とよぶこれを、学校の制服のときも仕事着のときも、普段着の赤ジャージのときもいつも身につけている。曰く、「命のベルト」だそうだ。この中には「人助けのアイテムがいくつも入っている」そうである。これを付けるベルトは赤色で、装着する位置は姉のからだの真正面である。


 姉の友人は何人かいるが、中でもあげるなら「セイラさん」だろう。私たちとは別の学校の生徒で、趣味はアニメと手芸である。彼女とは、かなりマニアックな会話が楽しめるそうだ。例えば、「かいけつタマゴン」はオスなのかメスなのか?。タマゴを産むのだが、声は俳優の「大平徹」がやっているのである。そもそも、彼(彼女?)やっていることは何なのか?。趣味か仕事か人助けか?。別なときの議題は、あの「ゴモラ」を生きたままどうやって大阪万博に展示するつもりだったのか?その場合、各パビリオンや月の石もメチャクチャになるのではないか?などなど、マニアックな会話を楽しむのだった。姉のマニアックなネタについていけるひとは、めったにいない。ジョウ治師匠ら三羽ガラスを除けば、私とセイラさんくらいだろう。ちなみに「セイラさん」とはあだ名である。


 このあいだも、姉は風呂に入るときに追い焚きしていた私を呼んできた。何だろうと思って風呂場の戸を開けると、浴槽に全裸で腰掛けて「ミート・キューブの作り方はね…」と言ってきた。やめろおおおお!そんなネタああああ!マニアックにもほどがあるぞ。


 ある日、姉は同じ曲を何度も聴いていた。正確にいうと、同じ曲のイントロのみを何回も聴いていた。曲は「レインボーマン」のオープニング曲「行けレインボーマン」である。何をしているのか問うと、イントロのいちばん最初に、ある「音」が入っているらしい。その音を調べているそうだ。私も聴かせてもらうと、確かにイントロの始まるほんのわずか前に、小さく「タンッ」と打楽器の音が入っている。この「タンッ」が妙に気になるのだそうだ。


 姉の趣味は、特撮、マンガ、アニメ、そして雑誌への投稿である。月刊誌「ファンロード」にネタを投稿するのが楽しみなのだ。

 ひとつ、そのネタを出してみよう。「今月の考察」のコーナーである。

※特撮における、怪人の試作型についての考察

・雪山怪人ベアーコンガーは、そのゴーグル状のカメラアイから、のちの組織デストロン怪人のプロトタイプである。

・ミイラ怪人エジプタスは、のちの組織ゴッド機関の神話怪人、悪人怪人のプロトタイプである。

・人喰い怪人イソギンチャックは、のちの組織ゲドン、ガランダー帝国の獣人のプロトタイプである。

・マグマ怪人ゴースターは、新人類帝国ファントム軍団のミュータンロボのプロトタイプである。

 解るひとにしかわからないが、姉のネタはこういった具合なのだ。


 姉の、仲のいい異性は「ジョウ治師匠」二十五歳。本人は否定するのだが、私には付き合っているようにしかみえない。第一、姉はかれの自動車(ホンダシティ)で、持ち前のカセットテープをかけるのが大好きなのだ。そのために、アニメや特撮のBGMをテープに編集しているほどなのである。


 姉は献血にもよく行っている。高三になるまでに七~八回にはなっただろう。行く理由はあるようだが、話してはくれない。目標は献血五十回だそうだ。


 また、姉はイラストも描いて投稿している。そのタッチは「永井豪」に似るのだが、本人いわく「石川賢」と「よしかわ進」の絵をぐちゃぐちゃに混ぜ合わせて二つに分けないようなタッチだそうだ。


 姉の趣味がもうひとつあった。収穫である。畑からのものではない。山や、川からだ。春はツクシ、ワラビ、イタドリ、ウド、タラの芽、タケノコ。磯では、ニナ貝やヒザラガイ、カメノテ、フジツボ。夏は蛎須川(かきすがわ)より川エビ、ウナギ。秋には、山でムカゴ。それとアケビや、ウチの地域では「ココブ」とよぶ「ムベ」。秋が深まると、なんといってもモクズガニだ。ウチの地域では「ツガニ」とよぶこのカニを、魚のアラをつかったワナで大量に捕る。冬には、知り合いのハンターたちがイノシシやシカの肉をくれるのだが、この猟も姉はやりたがっている。変わって収穫では、春先の虫捕りだろう。水辺に生える、内部が空洞になっている細い木の中にいる小さな虫を捕るのだ。なんでも、ある種の蛾の幼虫だそうだ。3㎝ほどのこれを、火でこんがり炙るとウエハースのような食感になり、どんなに上等なものよりうまい、ナッツ系の味がするそうだ。私にとっては近づくことさえできない。


 そして姉は、正義感がとても強い。不正やいじめは見逃さないし、不良グループには容赦しない。たいがいの相手は、必殺のキックでかたがつく。本当かどうかわからないが、ひったくり犯をボコボコにしたこともあるようだ。


 そんな姉と、私たち家族のことを思いだしながら記してみよう。


       姉についてアレコレの巻 終

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