第29話 試合、開始
「ピッピィー」
審判役の健さんが吹くホイッスルによって三十分ハーフの試合が始まった。今回は最終回なのもあり、交代枠に制限は定めていない。
休憩を挟んで二試合くらいする予定だが、天候などの場合によっては打ち切ると皆には説明してある。
本当は肥料やテロリストがこの中にあると判明した場合の打ち切り予防線でもあるのだが。
「さ、二人ともまずはサッカー楽しんできなさい」
「はいっ!」
すみれが声をかけて二人を送り出した。
「右が空いてるぞ! カバーするんだ!」
優太は大声で指示をする。小学生のサッカーでここまでできるのはサッカークラブ通いで無いとなかなかできない。日頃からすみれがサッカー試合の映像見せていたのが良かったようだ。
困ったのはGKはつまらないと言い出したので、昔のサッカー選手の映像を見せたら、フリーキックやPKをやりたがるようになったことだ。
早速、優太のチームがフリーキック獲得となり、「俺に蹴らせて」と仲間に言っては「キーパーなんだからゴールに戻れ」と軽い悶着を繰り広げている。
「ふうむ、レジェンドとして元パラグアイ代表のチラベルトの動画を見せたのは間違いだったかねえ」
「すみれさん、チョイスが渋いね。確かに優太をサバゲーにも連れていくことがあるから力はあるが、あれは自らPKしたり、フリーキックをするかなり特殊なGKだぞ」
「健さんも詳しいね」
「そりゃ、ダイヤモンドサッカーTVは観ていたから少しは知ってる」
「あー、あったあった。サッカーファンの命綱的な番組だった」
「ま、時々オーバーラップしてゴール決めるキーパーもJリーグにいるけどな」
健三はツッコミを入れつつ、背中に背負ったAK47を気にしている。すみれ同様、万一の時に使うかどうか悩んでいるのだろう。
「それっ!」
美桜も相手のパスをカットして、仲間にパスをする。
(美桜ちゃんも細い身体ながら、いいパスをするねえ。若葉苑にて食べられるようになったからかね)
このまま、平和に試合を続けたい。しかし、今までのことからこの学校に肥料が隠されている蓋然性が高い。県知事の視察も近いから、またテロリスト達が爆弾を作り始めるかもしれない。
(その前になんとしても肥料を見つけ出して警察に通報しないと)
そうなると、容疑者も教師だけではなく、このサッカー教室の保護者達の中にも混ざっているのかもしれない。疑心暗鬼のまま、試合の前半を終えた。
「はい、お疲れさん。後半はメンバー総交代だよ。前半組は千沙子さんからドリンク受け取ってね」
すみれは呼びかけながら優太達に近づいてドリンクを渡した。
「行くなら皆が試合に夢中になっている今だよ。休憩時間含めて時間は四十分。もし、それで戻らなかったら探しに行くからね」
「分かった」
二人は真剣な顔で頷き、そっと校庭の裏へと入って行った。
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