第30話 すみれ、サッカー教室を一時離脱する

 後半が終わり、残りのメンバーもドリンクを受け取った時、子ども達の誰かが気づいてしまった。


「あれ、また坂本と池内がいない」


「なんだよ、またデートかよ」


「青春だなあ」


 周りの雰囲気とは裏腹にすみれは焦燥感を持ち始めていた。既に四十分経過している。前回みたいに誰かとおしゃべりしているならいいが、容疑者に見つかってしまったかもしれない。


「やれやれ、さぼりかい。じゃ、ちょっと探しに行ってくるよ。梨理さん、指導は続けてね。みんなも梨理さんの言うこと聞くんだよ」


「はーい!」


 心無しか子供たちの声が弾んでる。普段なら癪だが、二人と肥料の捜索が堂々とできるからむしろ好都合だ。平静を装い、いつも通りリフティングしながら、裏庭の方向へ向かった。


「すみれさん、二人の捜索なら私たちが……」


 千沙子が引き止めかけるが、すみれは既にボールを抱えてスタスタと歩いている。


「と、とりあえず自分が付いてきいます。男の自分なら万一不審者が居たら護衛できますから」


「綾小路さんじゃ、逆にすみれさんに守られるのでは無いかしら。二人捜しが目的とはいえ、何事もなければいいのですけど」


 千沙子の不安をよそに二人は校庭の隅の方へ行き、サッカー教室は梨理が引き継いでいた。


「はあーい。じゃあ、皆、ドリンク飲み終わったらプログラム始めるよ! まずは試合後のストレッチ、それからシュート練習。まずは自分の蹴り方でシュートしてね」


「はーい」


 子ども達はすぐに梨理の言葉に反応して、ゴール前に並び始めた。




「待ってくださいよぉ。すみれさん、一応男手というか単独行動は危険ですから」


「なんだい、綾小路さんかい。強さとしては健さんより下なのに」


「ひどいなあ、一応元泥棒としての知識や勘が役に立ちますよ。それにしても二人はどこへ行ったのでしょうね」


「そうだよねえ、いくらなんでも。校内ぶらついているにしてはちょっと長いわね。何か見つけてしまったのではなければいいけど」


 裏側へ行った時、花壇で作業している女性教師が居た。


「あ、いつかの肥料の先生……」


 綾小路が挨拶するよりも前にすみれが先に吉田に尋ねた。


「こんにちは。サッカー教室のコーチだけど、ここに生徒が来なかったかい? 後半が始まったのにまだ来ないからどっかでサボってるのかと思って」


「あ、サッカー教室の方達ですね。今回は見てませんよ」


「ありゃま、どっかですれ違ったかね」


「ところで、先生はずっとここで作業を? 本当に誰か児童がサボりに来ませんでした? 子どもに口止めされてませんよね?」


「ええと、午前中に河田先生から肥料差し入れもらったくらいです。彼ったら優しいですよね。良い土の調達に難航していたら、せめて肥料だけでもとこまめにくれるのです。ふふふ」


(この先生達、付き合ってるのですかね?)


(でも、悦子さんが二股疑惑出してたわね。それより二人を探さなくては)


「ありがとうございます。もう戻ってるかもしれないですね、すれ違ってしまったようだから、校庭へ戻ります」


 二人は吉田に会釈して、戻り始めた。


「あ、そうそう。前回の坂本君達は『近道する』と言ってたから、その子もどっか裏道使っているのかもしれませんよ」


 吉田は去りゆく二人に声をかけた。


「近道……ヤバい臭いがするね。綾さん、人気の無さそうな所を中心に探そう! 工具は持ってるね?」


「任せてください、この空調服の裏側にポケット増やして一通り入れてあります!」


 ジャケットを脱ぐと確かにポケットに工具が沢山あった。


「それ、空調服でも暑くないかい?」


「いや、暑いより重いです」


「うーん、本末転倒ってツッコミ考える前に一刻も早く二人を見つけるよ!」


 すみれはドリブルしながら駆け出した。


「やっぱりサッカーしながらなんですね、すみれさん……」

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