第31話 閉じ込められた二人
「ちくしょう! ここから抜け出す方法ねえのか!」
優太がガンガンとドアの前に置かれている跳び箱を蹴るが動く気配が無い。両手は後ろ手に縛られているから蹴るしかない。
「唯一の窓は高いところにあるし、届かないね」
美桜が冷静に観察して諭す。
「まさか、帰り道に見つけてしまうとはな」
二人は合流時刻より遅れていたから、前回同様に近道になる裏門の人気のないところを走っていた。その時、違和感に気づいたのは美桜だった。
「優太君、ここの地面、音が違う。空洞があるみたい」
そこはかつて焼却炉が使われていた場所で、焼却炉そのものはあるが、使えないように鎖が巻かれて鍵がかかっている。
「焼却炉の中は綾小路さんが見たと言ってたよな。気のせいじゃないのか?」
「でも、ほら。この焼却炉のこの一角の地面だけ靴で叩くと音が違う。いつかの若葉苑で、アイスのことあったじゃない。空洞だと音が違うって」
確かに、美桜が叩いた音と優太がいる地点で叩いた地面の音が違う。
「音が違うなら、何かの箱に入れたかシートを被せて埋めたのかも。肥料って水に溶けるから」
「よし、そこに落ちている枝で地面を削ろう!」
優太は太めの枝を拾い、地面を掘り出した。
「でも、優太君、時間無いよ。サッカー教室は……」
「早く見つけないとテロが起きるかもしれねえだろ、内緒のデートでしたとか言って皆に誤魔化すよ。ほら、お前の分の枝。急いで削ろうぜ!」
「え? デートってそんな……」
美桜が赤くなって戸惑う中、一心不乱に優太は枝で地面を削るように掘り続ける。
「わ、わかった。とりあえず掘る!」
枝を受け取った美桜も合わせて周辺を削る。あまり人が立ち入らないせいか、地面は思ったより柔らかくどんどん削れていくようになってきた。そのとき、カツンとした音がした。
「なんか板が出てきたぞ! もしかしたら隙間に枝を挟めば、てこの原理で開くかも」
優太は素早く隅っこらしき隙間まで掘り、板を隙間から枝に差し込んで持ち上げると、肥料の表示が出てきた。さっき吉田先生が使ってたものと同じだ。
「これが肥料……」
美桜がつぶやくと、続けるように優太が祖父から教わった知識をつぶやく。
「主成分は硝酸カルシウム、肥料になるけど扱いを間違うと爆発する……」
「そう、ドカンと行くわけだ。過去に肥料工場で爆発事故も起きているし、テロリストが材料にしているよね」
急に会話に割り込んできた声に二人が驚いて振り向くとそこには河田がいた。
「君たちが何かを探してチョロチョロしていたのは知っていたけどね。そこまでつかんでいたのか」
「やっぱり、お母さんと手を組んでたのね」
「み、美桜?!」
「お母さんが夜遊びから帰ってくると、いつもより香水がきつくなっていて、油っぽい匂いや妙な匂いがしていた。肥料爆弾の原料には軽油もあるから。それにクラスでも、お母さんと河田先生が付き合っていると噂になっていて私、いじめられていたから。お母さんがいないうちに探していたら爆弾のことを書いたメモがあった」
「じゃあ、美桜はお母さんの不正の証拠を探していたのか」
「ごめん、本当かどうか自信なくて黙ってた。何かの間違いでメモが入ったと思いたかった。一応親だし。これが本当ならば児相かお父さんの元へ行けると思って」
「やれやれ、メモは破棄しろと言っていたのに」
「河田先生。どうしてこんなことするんだ? やはり国体の反対運動をするためか?」
「いや、別に。爆弾作るのが趣味なだけ。使う場所無いかと思ってたら反対運動を知ったから手を貸しただけ。吉田先生にはカモフラージュ兼ねてたから、彼女は彼氏からの差し入れと思って嬉々として花壇を手入れしてるよ」
「いろいろ理解できねえ……」
「できなくて結構。まあ、二人がそこまで掴んでるなら……ね」
二人が身構えるより早く河田は催眠ガスを吹き付けた。
「うぐ……」
「これって催眠ガス……! ヤバ……」
そして、気づいた時には体育倉庫に入れられていた。
「サッカー教室が終われば皆、ここへ道具をしまいに来るだろうに、あいつバカじゃねえの?」
「うーん、ここは使われてない旧倉庫だよ。埃っぽいもん」
美桜は冷静に内部を見渡して観察する。
「それより、秘密を知った私達をあの先生はどうするつもりなんだろう? 彼女の娘だから助けてくれるという望みは持たない方がいいよ。シングルマザーの子供は大抵邪魔者だから、この機会に消すかも。前も似たことあって施設に保護されたことあるし。優太君、巻き添えにしてしまうかもしれなくてごめんね」
「……お前も年齢の割には壮絶な体験してるな。悪いな、ロクに知らずにからかったりして」
「ううん、いいよ。それより今は抜け出さないと」
「河田のシナリオは俺たちがふざけて入って出られなくて、熱中症で死亡というやつか? 第一発見者装って結束バンドを切っておく。いや、それだと跡がつくから変だよな」
「とにかく、この手の紐を切らないと」
美桜が後ろ手に縛られた結束バンドを跳び箱の角で擦り始めた。
「いや、よしておけ。無理にやると怪我をする。とりあえず俺が別の方法で抜けてみるから」
優太が慌てて美桜を止め、自分の腕を肩まで上げて勢い良く振り下げる動作を繰り返し始めた。
「じいちゃんに聞いたけど、本当にやる日がくるとはな」
「あとさ、一つ気になったことがあるの」
美桜が倉庫の窓を見上げながら言った。
「他に何かあるのか?」
「倉庫の窓を見て。ペットボトルが外側に置いてある」
優太も見上げると確かにラベルを剥がした透明な水入りペットボトルがある。
「なんか明るさが変だと思ったら、あれか」
「優太君、収れん火事って知ってる?」
「ああ、金魚鉢や凹面鏡で太陽光が集まって発火する火事」
「あの光が集まる所に肥料があったら爆発するかも……」
「で、でも、油と混ぜなければ大丈夫なんだろ?」
「うーん、何年か前に外国で起きた倉庫の大爆発は危険な肥料があるのに、バーナー使って扉をこじ開けようとしたのが原因だって。それに何の油かわからないけど、匂いがする」
「……あいつならここを実験場にしかねない。美桜、一応爆発物から身を守るポーズは教えておく。万一爆発したら伏せて、足は閉じる。目は固くつぶって耳を塞いで口は開けて『あー』と言うんだ」
「耳はわかるけど、目や口は?」
「閃光で目をやられるのと破片から守るため、爆風の圧で内蔵が飛び出すことがあるから守るために口を開けて少しでも内蔵の圧を減らすんだ」
「さすがだね、こういう時におじいさんの知識が役に立ったね。でも、今は伏せと足閉じと目と口だけだね」
「あとは脱出する手立てだ。あー、普段からもっと練習するんだった!」
優太はぶんぶんと腕を振り続けるのであった。
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