第28話 サッカー教室、最終回を開く
六月の中旬、梅雨時なので雨を懸念していたが、第三回サッカー教室に開催日は梅雨の中休みの晴天となった。
「なんか、前回よりさらに参加者が増えているね。保護者もどちらかと言うと父親参加率が高い。梨理ちゃん効果だね」
すみれがぐるっと見渡すとギャラリーは前回よりも増えているが男性率が高いのは明らかであった。
「そんなことないですよ、すみれおばさまの指導がいいからですわ。あのあと、『学年が上がってクラブ選ぶときはサッカー部にする』という子どもがたくさんいましたよ」
「それもそうだけど、まずいね。これだけ人が多いと梨理一人だけで人目を引きつけられるかね」
「そこは任せてください。すみれおば様に負けないくらいのスーパープレーを披露しますから」
「梨理は相変わらず自信家だね」
「そこにすみれおばさまのスーパーシュートを打てばバッチリですよ」
すみれと梨理がそんな会話している中、優太と美桜は人混みの中でこっそり探索プランを練っていた。
「これだけいっぱい人がいるのなら俺たち途中で抜けてもバレなさそうだな」
「でも、途中までは参加しようよ。前回の失敗もあるし、休憩時間から戻らないとか以外にも、試合で交代して抜けた後がいいのじゃないかな。梨理さんとまたお話できないのは悔しいけど」
「美桜。俺たちはテロを食い止めるという重大な任務を負っているのだ。すみればあちゃんのツテならまた会えるよ」
「それもそうだけど、すみれおばあちゃんは短期入所だからそろそろ居なくなるのじゃなかった」
「あ、そっか。と、とにかく任務遂行! 探索場所を絞ろう」
前回と同じように梨理が登場すると男子だけではなく、保護者達からも歓声が上がった。
……主に父親陣だが。
「男ってわかりやすい生き物だねえ。さて、気を取り直して。
皆さん、第三回サッカー教室に参加してくれてありがとう。最終回の今日は実戦……」
すみれがそう言った瞬間、男子を中心にどよめきが走った。
「最終回だと?!」
「梨理さん間近で見られるの最後なのか!」
「俺、サイン貰うために色紙買ってきたから絶対貰う!」
「俺、ツーショット写真撮ってもらう」
男子達のガン無視ぶりにすみれは呆れてしまった。
「……梨理、これが将来サッカー部に入る連中なのかい?」
「ま、まあ、動機は不純でもサッカーの楽しさを知って貰えれば」
梨理がぎこちないフォローをする中、少ないながら女子からも惜しむ声が聞こえてきた。
「現役なでしこに教わるチャンスが今日で最後なんて!」
「こうなったら、メモして全て吸収するしかないわ。鞄に入れてあるから取ってくる!」
「パパが撮影しているから、後でぶんどって何回も見直して復習しよ!」
「あたしにもコピーさせて!」
「私も!」
女子の方が逞しいのは浅葱町の特性なのか、たまたまなのか。
「この年代は女子の方がしっかり成長してるねえ」
「なでしこジャパンの未来は明るいですわね、すみれおば様」
「さーて、おしゃべりはそこまで! 準備運動するよ!」
すみれが声をかけると、女子はともかく、男子はビクッとしたようにピタッと止んだ。前回の山田君がくらった頭に当たるスレスレのシュートを彼らは思い出したのかもしれない。
そうして、準備運動を終えた時、すみれの元へ優太と美桜がやってきた。
「試合は先発にして、前半で交代させてください」
「私もです」
その意図を察したすみれは頷き、周りのみんなに声をかけた。
「よーし、30分ハーフで男女混成チームにするよ。すみれチームと梨理チームにしてメンバーを組むからちょっと待ってて」
そうして声を小さくして、二人に声をかける。
「探索だね。くれぐれも気をつけて。三十分経って戻らなかったら健さんやばあちゃんが助けに行くから」
「うん!」
すみれは顔を上げて梨理に指示をする。
「梨理、この子達は私のチームで先発したいのだそうだ。だから、こっちに入れるよ」
事情は軽く知っている梨理は頷く。メンバー表を組み立ててすみれは声を上げた。
「はーい、じゃあ。すみれチームは名簿の奇数、梨理チームは偶数となるよ。読み上げ……」
そうすると、男子の半数ほどが「あああ……」とため息に近いどよめきが起こった。
「実に分かりやすい男子達だね。味方チームで無ければタックルかますところだけど」
「……すみれおば様、今の時代はフェアプレー。ラフプレーは海外でも嫌われてますよ」
「わかってるさ」
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