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庄司の母親の気持に胸が痛くなったのと、待望の暗号が手に入った嬉しさが綯い混ぜになった複雑な気持のまま地下鉄のK駅に向かった。
駅に着いた時、弘務のことが気になって急いで電話をする。スマホから無機質な声でアナウンスが流れた。電源を切っているのだろうか、それとも地下鉄に乗ってこっちに向かっている途中なのだろうか。
自転車置き場でしばらく弘務を待つことにする。急に空腹を覚えた佑介は、駅前のローソンでクリームパンを買うと、がつがつと食べはじめた。食べ終わるのにものの1分とかからなかった。
10分待って、もう一度電話を入れてみる。やはり通じない。なにかあったのだろうか――不安が脳裡を掠める。あきらめて自転車のカギを外した時、佑介は気づいた。
(そうだ、LINEで連絡を取るという手がある)
自分のことで頭の中がいっぱいで、そこまで気が廻らなかった佑介は、早速弘務にトークを送る。
未練がましくしばらくその場に佇んで返信を待っていたが、一向に帰ってこない。腕時計を見ると、18:30を指していた。しかたなく家に戻ってからあらためて連絡することにした。
晩ご飯はサンマの塩焼きだった。食卓に皿からはみ出した大振りで脂の乗ったサンマが用意されていた。由美江は滅多に家で魚を焼くことはない。商店街の魚屋に時間と数を頼んでおけばちゃんと調理してくれる。だからわざわざ時間をかけなくてもいつも新鮮で焼き立ての魚が食べられるのだ。
他には油揚げとひじきの煮物、と由美江の拵えたホウレン草のおひたしが揃っていた。
「佑介、サンマ、暖かいうちに早く食べな。いま魚松さんから届いたばかりだから」
大きな声で台所から由美江がいった。しかし、さっきK駅で空腹に耐えられなくなってクリームパンを頬張ったばかりなので、いつものようにすんなりと箸を出せない。
味噌汁をひと口啜ったあと、弄ぶようにしながらサンマを解す。典子が台所から大根おろしの入った器を搬んで来た。
解したサンマの身を口に搬びながら、部屋に置いてきたスマホが気になる。早く弘務の成果が聞きたかった。
「ここんとこお兄ちゃんなんか変だよ」
食事の最中に典子が余計な話題を拵える。
「そんなことない。余計なこというなよ。またカアさんが心配すんだろ」
「毎日遅くまで起きてるし、朝は朝でなかなか起きて来ないしさ。だって起こしに行くのはいつも私なんだからね」
典子はぷいと横を向いたあと、ひじきに箸を伸ばした。
「遅くまで起きてんのは、勉強してるからさ。朝だって、別に遠い所にいるわけじゃないんだから起こすくらいなんだよ」
「だったら、明日から自分で起きればいいじゃん」
典子も負けずにやり返す。
「ふたりとも、食事の時間になに兄妹げんかしてるの? いい加減にしなさい。せっかくのご飯がまずくなるでしょ」
由美江はふたりを諌めた。気まずくなったふたりは黙って箸を口に搬んだ。
食後のお茶を急いで口にすると、はじかれるようにして佑介は部屋に戻った。慌ててスマホを覗く。期待したとおり弘務からLINEが届いていた。早速開いて見る。
まいどォ、弘務で~す。
入江先輩の家に行って来たよ。家に行った時、家の人が留守で、
しばらく待ってたから、遅くなった。
肝心のスマホは、残念ながら手に入らなかった。
家の人がいうには、置いておいてもしょうがないから棄ててしまったということ。
その代わり面白い物を手に入れた。
「金は後昆へ長逝は恨み 盗魂の問責は長恨す」
この文章が書かれたノートを見せてもらった。なんでも、家の人が入江先輩の持ち物を整理していたら、意味のわからないことを書いたノートが出てきたというんだ。
なぜ残してあったかというと、意味不明だが、漢字から受けるイメージから、娘の死に関係があるかもしれないと思ったらしい。
以上が今回のオイラが得た情報なので、とりあえず報告します。
佑介は読みながら一喜一憂した。トークを最後まで読んで弘務に感謝し、すぐに返信をした。
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