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 しばらくして、母親が黒いコードの縒りを解しながら戻って来た。

「これかしら」佑介に見せる。

「おそらく」

 電源を差し込んだ佑介は、なんとかスマホが作動してくれるように、と胸の中で強く祈った。

 スマホはすんなりと軽やかな音と共に立ち上がった。はやる気持を必死で抑えながらメールのモードに入り込み、死神からのメールを急いで捜す。庄司はどれだけメールのやり取りをしてるんだと思うくらい数が多かった。目的のメールは最後から60通目くらいのところにあった。

 メールの着信時間は、「7/11 sun 23:00」となっている。

 時間は1時間ずれていたが曜日は自分に届いたのと同じだ。どきどきしながらメールを開くと、前文は佑介に届いたメールとまったく同じだったが、暗号文とされるところは違っていた。

 

「 今は朝夕に緑石と金昏 盗魂の問責は長恨す 」


佑介はリビングに置いてある学生カバンの中からブルーの表紙のノートを取り出して、丁寧に書き写した。

「そのスマホになにかあるんでしょうか?」

「いえ、別にたいしたことじゃないんです。どんな友だちとメールしてたのかなァと思って。ひょっとしてここにあるメル友に聞いたら、庄司くんがどういう気持であんなことしたのかわかるかもしれないと考えたんです。でもこんなでしゃばったことしてご迷惑でしょうか?」

 すでに警察が詳細に調べ上げたのはわかっていたが、この場はこういうよりほかなかった

「いいえ、そんなことありません。あの子が亡くなって2ヶ月になるのですが、やはりそこのところが引っかかって……。お恥ずかしいんですが、いまでも夜寝られないことが多いんです。もし原因がわかるようであればぜひ……」

 庄司の母親は佑介に深く頭を下げた。

「はい。ぼくらの力でどこまでできるかわかりませんが、とにかくできるところまで頑張ってみます」

 佑介はいまの自分に言い聞かせるようにいった。

「佐倉くんは勉強ができそうね? もちろん進学するんでしょうけど、もう大学は決めてるの?」

 母親はさっきまでとは違うおっとりとした口調で佑介に訊いた。

「いえ、行きたい大学はあるんですけど、うちは母親ひとりなんで、進学は無理かもしれません」

「あら、そうなの」

「父親は2年前に交通事故で亡くなりました。いまは父のあとを継いで母が店をやっています」

「お店を?」

「はい、サイクルショップです」

「サイクルショップって、自転車屋さんのことでしょ?」

「はい」

「ご兄弟は?」

「中3の妹がひとりいます」

「そうなの。年頃のお子さんふたりではお母さんもたいへんね」

 佑介はそう話された時、死んだ息子を重ね合わせているように感じ取った。

「はあ」

 佑介は、どう返事したらいいのか戸惑う。

 そのあとも庄司のことを交えて30分ほど話すと、また来ますといい残して槙田庄司のマンションをあとにした。

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