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弘務、よくやった!!!
弘務が調べてくれたお陰で、暗号解読に1歩近づいた。
詳しいことはあとから送るけど、
とにかくサンキュ。キスしてやりたいくらいだ。
佑介はパソコンを立ち上げると、自分に届いた暗号メールの横に庄司のところから入手してきたものと、弘務の手に入れたのを打ち込んだ。
液晶画面に合計3つの暗号文が並んだ。
金光の痕跡は闘志の魂 盗魂の問責は長恨す (佑介)
今は朝夕に緑石と金昏 盗魂の問責は長恨す (庄司)
金は後昆へ長逝は恨み 盗魂の問責は長恨す (入江)
それぞれの訳文(佑介の作成)を、辞書を引きながら並べてみる。
「黄金の光りの跡は闘おうとする心。魂を盗んだ責任を問うことを長く恨む」
「いまは朝と夕方に緑の石と金色のたそがれ。魂を盗んだ責任を問うことを長く恨む」
「金は子孫へ、永眠することを恨む。魂を盗んだ責任を問うことを長く恨む」
佑介は茜と弘務にLINEを送ったあと、いつものようにA4の用紙にプリントアウトし、何度も読み返した。混沌としていた頭の中が少し整理されたかと思うと、また雨雲のように暗い背景に包まれる。
佑介は思った。これは自分ひとりの問題じゃない。母親、妹、さらには無理やり引きずり込んでしまった茜と弘務ために、なんとかしてこの暗号を解かなければならない。
気力を振り絞りながら暗号文に喰入る。これまでの3日間というものは、正直なところなにから手をつけていいのか、なにを糸口にしていいのか、考えてもまったく手のつけられない状態に陥っている。かろうじて心の拠り所となっているのは、親友の弘務と茜だった。
これでやっと3つの宝物が揃い、いよいよこれで暗号解読の準備が整ったという心境になっている。まるで伝説映画を地でいっているようだ。
まず、3つの文章を交互に見較べる。
いちばん最初に気がついたのは、3つとも終わりの部分が同じ言葉になっていることだ。この共通した文章が解読できれば、意外と簡単に全文の意味がわかるかもしれない。
そう考えた佑介は、
「……盗魂の問責は長恨す」
という文字を穴の開くほど凝視した。そしてノートにひらがなとカタカナで書き出した。前にも同じことをしたが、これまでの潜入感を払拭するためにもう一度気分を新たにして書き記した。
「とうこんのもんせきはちょうこんす」
「トウコンノモンセキハチョウコンス」
どうやら単純な文字の置き換えではすみそうにないと感じた佑介は、次に漢字だけをピックアップすることにした。
「金光痕跡闘志魂 盗魂問責長恨」
「今朝夕緑石金昏 盗魂問責長恨」
「金後昆長逝恨 盗魂問責長恨」
佑介はふと気付いたことがあって、急いで階下に降りると仏壇の前にどさりと坐った。台所で洗い物をしていた由美江が、慌ただしく2階から降りて来た佑介を見て声をかける。
「どうしたの、なにかあったの?」
エプロンで手を拭きながら座敷に入って来た。
「ねえ、カアさん、ここにお経の本って置いてなかった?」
以前面白半分で経本を捲っていた時のことを思い出したのだ。
「仏壇の引き出しに入ってるはずよ」
佑介はいわれた引き出しに手をかけておもむろに開けた。するとすぐに青い表紙の般若心経が出てきた。
年寄りの日向ぼっこのように猫背になったまま経本をめくりはじめた佑介は、そばに由美江がいることが気にならないくらい必死で経文に目をとおし続けている。
「変な子ねェ、佑介ったら。突然お経の本なんか引っ張り出して」
由美江にそういわれても、聞こえないのか、顔をピクリとも動かさずに読み耽っている。
最後のページを捲り終えた佑介は、大きな息を吐きながら肩の力をすとんと抜いた。それは少しも収穫のなかったことを象徴していた。
佑介は、経本を丁寧に仏壇の引き出しにしまい込むと、降りて来た時と違って、幽霊のように密かに2階に上がって行った。部屋に戻って机に向かうと、小首を捻りながらもう一度暗号文に目をとおす。
お経ではないようだ。でも他の宗派の経かもしれないと考えた佑介は、主だった宗教をインターネットで検索をしてひとつひとつ潰していくことにした。
天台宗、臨済宗、曹洞宗、法華宗、真言宗、日蓮宗、禅宗……目についた宗派をピックアップし、根気よく捜したが、残念ながらそれらしきものはひとつもなかった。
あきらめて今度は、「盗魂」という文字を分析してみようと試みる。
盗(とう)――盗む。盗むこと。ぬすびと。
魂(こん)――たましい、霊魂、こころ、精神。
ふたつを繋げるとやはり「魂を盗む」というところに落ち着く。
そのあとの単語も同じように分析をしてみたが、「責任を問うことを長い間忘れない」――やはりそれが普通の解釈なのだろう。
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